仕事中の待機時間に賃金は発生するのか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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仕事中の待機時間に賃金は発生するのか?

2015年05月22日

「路線バス折り返しの待機中は“労働時間” 福岡地裁判決」(2015年5月20日 朝日新聞デジタル)

北九州市営バスの嘱託運転手14人が、路線バスの終点到着後、折り返し運転で発車するまでの待機時間の賃金支払いを求めた訴訟の判決が福岡地裁でありました。
原告側が2012年に提訴していたものです。

原告側は、「待機中も忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内をしており、労働から解放された休憩時間にはあたらない」と主張し、「待機時間も労働時間にあたる」として2年間の未払い金を請求。

一方、市側は「バスから離れて自由に過ごすことが許されている。休憩時間中に乗客対応をすることは求めていない」と主張。

裁判長は、「待機中も乗客に適切に対応することが求められており、労働時間にあたる」と認定。
市に対し、2010~11年分の未払い賃金として1人あたり約36万~120万円、計約1241万円を支払うように命じました。

市長は、「大変厳しい判決。内容を早急に検討し、今後の対応を決めたい」とのコメントを発表したということです。
さて労働時間については、「労働基準法」に定められています。
条文を見ながら解説していきます。

【労働基準法とは?】
労働基準法とは、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的で制定されたもので、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などを定めた法律です。
【労働時間とは?】
労働時間とは、休憩時間を除いた、現に労働させる時間(実労働時間)のことで、これには規定があります。

「労働基準法」
第32条(労働時間)
1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
これを、「法定労働時間」といいます。
仮に、会社が法定労働時間外の勤務を従業員にさせた場合、「割増賃金」として残業代などを払わなければいけません。
【休憩時間とは?】
会社が従業員に自由に利用させなければいけないもので、これにも規定があります。

第34条(休憩時間)
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
【労働時間と休憩時間の違いとは?】
法令の所轄行政官庁の具体的判断、または取扱基準として発せられるものに「行政解釈」というものがあります。

たとえば、労働基準法に関するものであれば、厚生労働省から労働局や労働基準監督署に対して通達されるため、一般に「通達」とも呼ばれます。

過去の行政解釈に以下のものがあります。

「休憩時間とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう」
(昭和22年9月13日 発基17)

これは、実際には作業を行っていなくても、使用者からいつ就労の要求があるかわからない状態で待機している場合は、休憩時間に含まれず、労働時間になるということです。

次に、労働時間に関する判例を見てみましょう。

「労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁一小平成12年3月9日民集54巻3号801頁)

つまり、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間は労働時間になるということです。

なお、使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含みます。
具体的には、業務の準備、後片付け、事業所の掃除などが義務づけられているならば指揮命令下にある時間となりますし、休憩時間中の電話番や店番なども、労働から解放されているわけではありませんので、使用者の指揮命令下にある時間と評価でき、労働時間にあたると考えられます。
【労働時間と認められる業務について】
以上のことからなど、労働時間にあたると考えられる業務についてまとめます。

・業務の準備、着替え、後片付け、事業所の掃除が義務づけられている場合。
・休憩時間中の電話番や店番など。
・所定労働時間外の社内研修等の参加時間(出席が義務づけられている場合や、実質的に出席の強制があると思われる場合)。
・仮眠時間(警備の業務に従事している労働者が、仮眠中でも警報が鳴った場合等には直ちに業務に就くことを求められているような場合など)。
よって、今回の訴訟のケースでは、バスの運転手が待機時間に行っていた業務、たとえば忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内などは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」=「労働時間」にあたると判断されたということです。

会社は、従業員の労働時間と休憩時間をきちんと管理しなければいけないことは肝に銘じておきましょう。

労使双方の行き違いやコミュニケーション不足、または労働法に関する知識の不足など、労働問題の原因はさまざまですが、労働時間については法律でしっかり定められているのですから、会社も従業員も、この機会に労働法をしっかりと覚えて、仕事にも生かしていただきたいと思います。

労働問題のご相談はこちら⇒ http://roudou-sos.jp/