自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

2014年01月07日


2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

「刑事手続き」
交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

1. 自動車運転過失致死傷罪
2. 危険運転致死傷罪
3. 道路交通法違反罪

今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

以上は、刑事手続についてです。

しかし、これで終わりではありません。

100万円だけで終わりになることはないのです。

なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
「行政手続き」
運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。