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ツイッターの写真投稿で侮辱罪!?
2015年12月14日無断で他人の写真を撮影し、その画像をツイッターに投稿した女子高生が書類送検されました。
どんな写真を投稿したことが罪になったのでしょうか?
「“笑いネタにしたい”障害女性の居眠り姿投稿 侮辱容疑で17歳女子高生を書類送検」(2015年12月10日 産経新聞)
札幌・手稲署は、列車内で眠っていた障害のある女性(16)の画像をツイッターに投稿したとして、札幌市の高校2年の女子生徒(17)を侮辱容疑で書類送検しました。
事件が起きたのは、今年の8月1日午後。
女子生徒が、札幌市内を走行中のJR函館線の普通列車内で寝ていた女性をスマートフォンで無断撮影。
「わらいとまんないしぬ」との言葉とともにツイッターに投稿していました。同日、被害者の伯母が投稿を発見し、翌2日に被害者の母親が北海道警に相談。
また、被害者の母親から削除を求められた女子生徒は、投稿から約2時間後に削除していたようです。女子生徒は女性と面識はなく、「笑いのネタにしたかった」と容疑を認めているということです。
侮辱罪は刑法に規定されています。
条文から見てみましょう。「刑法」
第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。※拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)
科料(1000円以上1万円未満を徴収)侮辱罪とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態で人を侮辱することです。
ただし、事実を摘示(示す、あばく)することは必要ないとされます。侮辱罪の詳しい解説はこちら⇒
「凄まじい言葉の暴力=モラハラへの法的措置とは?」
https://taniharamakoto.com/archives/1728ところで、刑法上「名誉に対する罪」として、この侮辱罪の他に、ひとつ前の第230条「名誉棄損罪」も規定されています。
第230条(名誉棄損)
1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
毀損とは、法律上では人の社会的評価が害される危険を生じさせることとされます。
ただし、名誉棄損罪が適用されるには、実際に社会的評価が害されることは要しないとされています。
また、事実の有無、真偽を問いません。名誉棄損罪の詳しい解説はこちら⇒
「ネットに書き込むことは名誉を毀損することだ」
https://taniharamakoto.com/archives/1904さて、この2つの罪、似ているようですが違いがあります。
何が違うのでしょうか?条文をもう一度、読み比べてください。
そうです、それは「事実を摘示」したかどうかの違いです。
今回のケースでは、女子高生は写真を投稿してコメントを入れたわけですが、被害者女性に関する事実を摘示していないので侮辱罪が適用されたということでしょう。
では、こんなケースではどうでしょうか。
ある男性を撮影して、その画像をツイッターに投稿し、「彼は不倫をしている最低男」のコメントをつけた……。この場合は、事の真偽に関係なく、男性を「不倫をしている最低男」と摘示しているので、名誉棄損罪になるということです。
いずれにせよ、人を侮辱し名誉を傷つける行為は、ほんの冗談や遊びのつもりでも、犯罪になる可能性があることは肝に銘じておいてください。
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リベンジポルノ防止に動きあり
2015年06月23日はたして、被害拡大に歯止めをかけられるでしょうか。
リベンジポルノに関して、各方面で動きが出てきました。「リベンジポルノをLINEで拡散…全国初の摘発」(2015年6月22日 読売新聞)
警視庁は、リベンジポルノ画像を無料通話アプリ「LINE(ライン)」で拡散させたとして、26歳と27歳の無職の男2人をリベンジポルノ被害防止法違反と名誉毀損容疑で逮捕しました。
被害を受けた女性が警視庁に相談して発覚したようです。報道によると、今年4月下旬、ゲーム仲間の男女でつくるLINEの3つのグループに、26歳の男が撮影したメンバーである20歳代女性の上半身裸の画像を投稿。
27歳の男が画像を保存したうえで、別のグループのLINEに投稿して拡散するなどして、不特定多数が閲覧可能な状態にしたとしています。容疑者の男は、「自分が買ってきたおみやげを女性が捨てたと聞き、仕返しをしようと思った」と供述。
LINEを使ったリベンジポルノの摘発は全国初ということです。
リベンジポルノは卑劣な犯罪であること、そして被害の発生を防止するために「リベンジポルノ被害防止法」が成立したことは以前、解説しました。
詳しい解説はこちら⇒
「リベンジポルノには新たな法律が適用されます!」リベンジポルノ被害防止法の目的は次の通りです。
私事性的画像記録の提供等により、私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって、個人の名誉及び私生活の平穏が侵害される被害の発生、又はその拡大を防止することを目的とする。(第1条)
私事性的画像記録とは、以下のものをいいます。
1.性交又は性交類似行為に係る人の姿態。
2.他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの。
3.衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの。
(第2条)第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、プライベートで撮影した画像を不特定、または多数の者に提供した場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第3条)
ちなみに、今回の逮捕容疑には名誉毀損もありますが、こちらの刑罰も3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法第230条)
さて、今回の事件はLINEを使ったリベンジポルノの初摘発でしたが、時を同じくしてGoogle(グーグル)では動きがあったようです。「グーグル、リベンジポルノ画像を削除へ 米」(2015年6月20日 CNN.co.jp)
米検索大手のグーグルは、「リベンジポルノ」を同社の検索結果から削除するための新施策を講じると発表しました。
短文投稿サイト「ツイッター」や交流サイト大手「フェイスブック」は3月にリベンジポルノ禁止をサイト上に明示。
IT企業が相次いで対策に乗り出していることから、グーグルもこの流れに沿ったようで、誰でも削除要請フォームに入力し、本人の同意なしに投稿されたヌード写真や性的な画像の削除を求めることができるようにするということです。これまでは、「不適切な画像」として法的要請なしにグーグルが削除してきたのは、社会保障番号などの個人情報か児童ポルノに限られていました。
しかし、同社の上級副社長(検索担当)は、「リベンジポルノは被害者、特に女性をおとしめる目的でしかない」と指摘したうえで、「本人の同意なしに共有されたヌード写真や性的に露骨な画像について、検索結果から削除してほしいとする人々の要求を尊重したい」と述べたということです。今回の対応は、日本を含む各国で適用されるとしています。
これは非常によい決定だと思います。ネット上の中傷投稿やリベンジポルノなどへの法的手段としては、投稿者に対する不法行為(名誉棄損)に基づく「発信者情報開示請求」をしていくことが必要ですが、この手続きは難しく労力がかかるものです。
詳しい解説はこちら⇒「中傷投稿やツイートに対抗する法的手段とは?」
https://taniharamakoto.com/archives/1299しかし、被害者にとって今後は手続きが非常にスムーズになり、対応しやすくなるのなら大歓迎でしょう。
一度ネット上に広まった画像などを完全に消去するのは不可能ですし、グーグルの対応がリベンジポルノを根絶するわけではないとしても、一定の抑制効果は期待できるのではないでしょうか。リベンジポルノへの対策と厳罰化の動きは、日本だけでなく世界的にも広がっています。
別れた後に問題となる可能性のある画像や動画の扱いについては、男性も女性も十分注意してほしいと思います。
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ネットに書き込むことは名誉を毀損することだ
2015年03月12日恥は若者にとって名誉であり、老人には屈辱である。
これは、紀元前の古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの言葉だそうです。
若者にとって、自分からかく恥は、確かに偉大な哲学者が言うように名誉といえるかもしれません。
しかし、他人からかかされた恥は、やはり若者にとっても屈辱でしょう。名誉を傷つけられれば、誰だって怒り心頭になるでしょうし、人の名誉を傷つければ、それは犯罪になる可能性があります。
そんな事件が起きました。「“彼女取られて仕返したかった”大学生 ネットに書き込み名誉毀損容疑で逮捕」(2015年3月9日 産経新聞)
女性を装って、「同じ大学に通う男性にストーカー行為をされている」とウェブサイトに書き込んだとして、札幌東署は札幌市の大学生の男(22)を名誉毀損の疑いで逮捕しました。
報道によると、男は「彼女を取られて仕返ししてやりたかった」と供述。大学生の男性の名誉を傷つけるためにウェブサイトに書き込み、顔写真を掲載したようです。
また同署は、男がかつて交際していた女性の裸の写真をインターネット上に投稿していることを確認しており、リベンジポルノに当たるとみて、私事性的画像記録の提供被害防止法違反の疑いでも捜査しているとのことです。
今回は、リベンジポルノではなく、名誉毀損について解説したいと思います。
では早速、条文を見てみましょう。
「刑法」
第230条(名誉棄損)
1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
公然とは、不特定または多数の人が認識し得る状態をいいます。毀損とは、利益や体面などを損なうことですが、法律上では人の社会的評価が害される危険を生じさせることとされ、実際に社会的評価が害されることは要しないとされています。
また、条文にあるように名誉棄損罪は、事実の有無、真偽を問いません。
つまり、今回の事件では、事実無根の事実(男性がストーカーをしているかのような事実)をネット上に摘示して、不特定多数に公開し、男性の名誉を毀損したことで罪に問われた、ということになります。
ところで今回の事件、じつは見逃せないポイントがあります。
実際には、名誉棄損での逮捕というのは珍しいのですが、今回なぜ逮捕に至ったのでしょうか。それは容疑者に、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」違反の疑いがあるからでしょう。
聞きなれない法律だと思いますが、これは通称「リベンジポルノ防止法」といわれるもので、2014年11月に成立したものです。
リベンジポルノが社会問題化している現状も踏まえ、この法律については次の機会に詳しく解説したいと思います。
では今回は、締めの言葉もアリストテレスです。「私は敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者を勇者と見る。
自分に勝つことこそ、もっとも難しいことだからだ」 -
中傷投稿やツイートに対抗する法的手段とは?
2014年01月29日
SNSにおける投稿者情報の開示に関する案件
近年、多くの人が利用し、便利、楽しいと同時にさまざまな問題の原因にもなっている、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。
先日、「ツイッター」を舞台にした、ある異例な判決が出されました。
<「詐欺師」「自己中」「ぶさいく」中傷ツイートの投稿者情報、開示求める 東京地裁>(2014年1月21日 産経ニュース)
ツイッターで「詐欺師」などと中傷された静岡県の男性(62)が、投稿者を特定するため、アメリカのツイッター社に対して接続情報の開示を求める仮処分を東京地裁へ申し立て、認められていたことが分かりました。
原告側の代理人によると、男性は平成23年ごろからツイッター上で特定の人物から、「この詐欺師!」「自己中ぶさいく」などの中傷投稿を繰り返し行われていたということです。
そこで2013年4月、ツイッター社に対して投稿者の接続情報を開示するよう求める仮処分を申請。
東京地裁は同年7月、男性への名誉棄損を認め、ツイッター社に対して「IPアドレス」(ネットワーク上の識別用の番号、住所)の開示を命じたようです。
その後、原告側は開示された情報をもとに、プロバイダー(接続事業者)であるソフトバンクBBに対して投稿者の氏名や住所の開示を求める訴えを起こし、今月16日、東京地裁は開示を認める判決を言い渡したということです。
既に投稿は削除されているようですが、原告側は投稿者と直接連絡を取り、今後は中傷しないように求めるようです。
報道では、今まで接続情報の開示は「2ちゃんねる」などの掲示板が多かったのですが、ツイッターに対して開示が認められたのは極めて異例なこととしています。
実際、ネット上の掲示板やツイッターなどの中傷投稿で困っている人もいると思いますので、本件をサンプルとして、投稿者に対する不法行為(名誉棄損)に基づく「発信者情報開示請求」について、ここでその手続き方法等を簡潔に解説しておきましょう。
投稿者の特定のための請求
ネット上の掲示板などは、通常、匿名での書き込みのため、投稿者に対して損害賠償請求を行うためには、まずは当該加害者を特定する必要があります。
そのために、発信者情報開示請求ができます。(プロバイダ責任制限法4条1項)開示請求することができる発信者情報
①氏名又は名称
②住所
③電子メールアドレス
④IPアドレス
⑤侵害情報の係る携帯電話端末又はPHS端末からのインターネット接続サービス利用者識別符号
⑥侵害情報に係るSIMカード識別番号(個体識別番号)
⑦IPアドレスが割り当てられた電気通信設備、⑤又は⑥に係る携帯電話端末等から情報送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)発信者情報開示請求の手順
一般的に、掲示板等に書き込みをする場合、どのような仕組みなのかを簡単に説明しておきます。
①インターネット接続契約をしている経由プロバイダに接続
②経由プロバイダにおける認証サーバがIPアドレスの割り当て、タイムスタンプを記録
③当該経由プロバイダを経由して、掲示板管理者であるコンテンツプロバイダに接続
④コンテンツプロバイダのウェブサーバにおいて当該IPアドレス及びタイムスタンプを記録以上のように、通常、掲示板を管理するコンテンツプロバイダのウェブサーバには、タイムスタンプと経由プロバイダから割り振られたIPアドレス等が記録されるのみで、投稿者の氏名や住所などの情報は記録されません。
そのため、投稿者を特定するための発信者情報開示請求は、2段階に分けて行う必要があります。
ステップ1
掲示板管理会社(コンテンツプロバイダ)に対する、IPアドレス及びタイムスタンプなどの発信者情報開示請求
情報を得たIPアドレスについて「WHOIS」検索を行い、これを保有する経由プロバイダを特定
ステップ2
経由プロバイダに対して、投稿者の氏名・住所・メールアドレス等の発信者情報開示請求
その際、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく請求であるため、以下の要件を主張する必要があります。
①「請求権者」
特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による情報の流通によって自己の権利を侵害された者であること②「被請求権者」
開示関係役務提供者(当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)であること③侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること
④当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合、その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること
注意点
①通常、大手プロバイダのアクセスログ保存期間は2週間~3ヵ月程度という短期間とされているので、手続を迅速に行う必要があります。
②経由プロバイダが判明したとしても、その時点でのアクセスログの保存期間満了の問題が心配されます。まずは内容証明郵便による通知をして個別の保存対応をしてもらうよう求めましょう。
③任意の保存に応じられないという回答の場合は、コンテンツプロバイダのときと同様に、発信者情報の保存の仮処分命令の申立てを行うことになります。
投稿の削除請求
掲示板上に不法な投稿が掲載されたままでは、名誉棄損による被害が継続されることになります。そのため、民法723条(名誉棄損における原状回復)等に基づく差止請求として、該当する記載投稿の削除請求をすることができます。
これは、掲示板管理者に対しても可能ですが、膨大な量の書き込みを掲示板管理者が随時チェックして検討するのは物理的、現実的に困難であることから、過去の判例では、掲示板管理者の場合は、被害者から具体的な削除請求を受けた後も不当にこれを放置した場合のみ削除義務が認められるとされています。(東京高判平成13年9月5日判タ1088号94頁、東京地判平成11年9月24日判タ1054号228頁等)
いずれにしても、やはり複雑な手続きが必要となってくるため、費用がかかったとしても、弁護士を代理人として事に当たるのがいいでしょう。
SNSによって誰もが全世界に情報を発信できるようになりました。
非常に便利なツールです。
しかし、反面、故人がとても簡単に名誉毀損や侮辱、信用毀損などをしたりすることもできてしまいます。
原子力発電と原子力爆弾の関係もそうですが、人間にとって有益な発明は、その裏側に必ず弊害を伴うものですね。
人間の善なる心を信じたいものです。