信頼の原則か | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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信頼の原則か

2004年12月08日

大阪2003年2月、信号を無視した乗用車に車を衝突させ、乗用車の2人が死亡した交通事故があり、大阪地検は当初、相手の信号無視を重視し、互いが交通ルールを守ることを前提とした「信頼の原則」に基づき、不起訴処分にしたが、再捜査し、先月一転して在宅起訴したことが7日、わかったそうです。(記事)。

交通事故における「信頼の原則」は、交通政策に関連します。法が交通法規を定め、それを遵守させるためには、交通法規を守っていさえすれば、法律違反を問われることがないようにする必要があり、そうすることにより、交通渋滞等もなくすことができます。しかし、信号が青だったとしても、それ以外によく注意して交差点に進入しないといけないとすれば、どうしても減速して交差点に進入しなければならなくなるでしょう。
 
また、法規範に対する社会の成熟性も影響します。自分以外の人たちが、法規範を守るということを前提に行動してよいかどうか、ということです。信頼の原則は、「他人が法規範を守ることを前提に行動して良いですよ。」ということです。日本では、昭和40年代くらいに確立されてきました。
 
今回、大阪地検が一転起訴したということは、スピード違反ということの他、たとえ青信号だったとしても、被害者車両が信号無視をして交差点に進入してくることが十分予見でき、かつ回避できたという事案だったことでしょう。
ここで「被害者車両」という言葉を使っていますが、本件刑事事件でいう「被害者」という意味です。起訴された被告人は、自分が「被害者」だと思っているでしょう。
 
しかし、いったん不起訴処分をしてから、検察審査会の議決が出る前に態度を翻すことには疑問があります。検事がきちんと捜査して、60キロだったら回避可能であったのか、交通政策上信頼の原則をどの程度適用すべきか、等を考慮した上で、刑事部長なり次席検事等の決裁も受けているのではないでしょうか。検察審査会の「不起訴不当」の議決が出てから再捜査するなら理解できますが、これでは、検察庁の処分に対する「信頼の原則」もなくなる可能性があります。