有名な名前を勝手に使うと犯罪に | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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有名な名前を勝手に使うと犯罪に

2018年05月20日

今回は、「有名な名前を勝手に使っちゃダメですよ」というお話です。

「勝手に“リクルート”名乗り逮捕 商号使用容疑、警視庁」(2018年5月18日 共同通信)

「リクルート」の商号を勝手に使い、「リクルートcom」と名乗る求人サイトをインターネットに立ち上げたとして、警視庁組織犯罪対策4課は、東京都江東区の無職の男(33)ら5人を不正競争防止法違反(著名表示冒用)の疑いで逮捕しました。

組対4課によると、容疑者の男らは全国の企業に電話で求人広告を無料で募り、一定期間の掲載後、今度は一転して「延長料金が払われていない」などと主張して料金を求めていたようで、2017年12月から今年4月までに、107法人から計約1280万円を集めたということです。

同課は、商号の無断利用を同法違反で摘発するのは珍しいとしています。

不正競争防止法は、1993(平成5)年に「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的として施行された法律です。(第1条)

同法で規定している「不法行為」にはさまざまあるのですが、よく知られているもののひとつが、いわゆる「企業秘密の漏洩」です。
製造技術のノウハウや販売マニュアル、顧客リストなど会社が持っている営業秘密を領得や開示、使用する罪ですね。

詳しい解説はこちら⇒
企業秘密の持ち出しは不正競争防止法違反

さて、今回ケースは「著名表示冒用」の疑いということですが、これはどのような罪なのでしょうか?

条文を見てみましょう。

「不正競争防止法」
第2条(定義)
1.この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

たとえば、シャネルやグッチ、ルイヴィトンなどの有名ブランドの名称を許可なく勝手に店名に使ってアパレル店などを営業すると不正競争防止法違反に問われる可能性があるということです。

過去には次のような事件があります。

・日本マクセル事件(大阪地裁平成16年1月29日判決)
カセットテープでなどの磁気テープや電池、光学部品等を製造販売する「マクセル」が、化粧品等を販売する株式会社日本マクセルを不正競争行為で訴えた事件。
日本マクセルは商号使用を認められなかった。

・J-Phone事件(東京高裁平成13年10月25日判決)
通信事業者のジェイフォン東日本株式会社が、「j-phone.co.jp」のドメインを取得して使用していた水産物輸入販売会社「大行通商」に対して使用差止めなどを求めて訴えた事件。
「J-Phoneのホームページへようこそ!」などとホームページで表示していたことなどが問題となり、これらの行為が著名表示冒用と認められた。

・アリナビック事件(大阪地裁平成11年9月16日判決)
「アリナミンA25」という商品名のビタミン製剤を販売していた原告が、「アリナビック25」という商品を製造販売していた被告を提訴した事件。
大阪地裁は、その類似性を認め著名表示冒用行為に当たると判断した。

この法律では、他社がブランド名や商品名として使用しているものが「著名」かどうかについて争われます。

今回のケースでは、「リクルート」の名称が著名であること、また容疑者らが「広告料は無料」と言いながら、一定期間後に延長料を請求していた悪質性から逮捕になったと考えられます。

すでにある、誰もが知っているような著名な商品名やブランド名を使用して、信用や顧客吸引力などの価値に、ただ乗り(フリー・ライド)や希釈化(ダイリューション)、あるいは汚染(ポリューション)をすると、不正競争防止法違反に問われる可能性がある、ということは覚えておいてください。

なお、第2条では、不正競争のさまざまな類型を規定しています。
主なものは次の通りです。

「周知表示混同惹起行為」(第1号)
既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業するなど。

「著名表示冒用行為」(第2号)
ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営するなど。

「商品形態摸倣行為」(第3号)
ヒット商品に似せた商品を製造販売するなど。

「技術的制限手段に対する不正競争行為」(第11・12号)
CDやDVD、音楽・映像配信などデジタルコンテンツのコピープロテクトを解除したり、アクセス管理技術を無効にする機器やソフトウェア、プログラムなどを提供するなど。

「原産地等誤認惹起行為」(第14号)
原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にするなど。

「競争者営業誹謗行為」(第15号)
ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗するなど。

「代理人等商標無断使用行為」(第16号)
外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用するなど。

※営業秘密に関しては第4~10号に規定。

みなさん、気をつけましょう。