企業秘密の持ち出しは不正競争防止法違反 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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企業秘密の持ち出しは不正競争防止法違反

2017年11月17日

USBメモリーを使った、企業秘密の漏洩事件が多発しているようです。
そこで今回は、不正競争防止法違反について解説します。

「<福岡県警>元勤務先から顧客情報持ち出し 容疑で4人逮捕」(2017年11月14日 毎日新聞)

かつて勤務していた健康食品会社から顧客情報を持ち出したなどとして、福岡県警は健康食品販売会社(福岡県新宮町)の役員(35)ら4人を不正競争防止法違反(営業秘密の複製・使用)容疑で逮捕した。

逮捕容疑は2016年5月下旬、当時勤務していた福岡市の健康食品会社の社内サーバーに保管されていた営業秘密に当たる顧客情報(住所、氏名、電話番号など)をUSBメモリーに複写して持ち出したというもの。

この会社に、「個人情報が漏れている」と顧客から苦情が寄せられ、調査したところ顧客情報の持ち出しが発覚した。

捜査関係者によると、容疑者らは別々の時期に健康食品会社を辞め、新たに設立した会社に合流。
持ち出した顧客情報は延べ16万人分に上るとみられ、そのうち7割以上は高齢者のもの。
容疑者ら4人は、顧客には新会社を設立したことなどを告げることなく電話などで商品を販売していたという。

 

「取引先情報をUSBメモリーに複製か 食品卸売会社元役員ら逮捕」(2017年11月15日 産経新聞)
北海道帯広市にある食品卸売会社の取引先情報を複製したとして、札幌地検特別刑事部は同社の元役員の男(57)と、系列会社の元従業員の女(36)を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の疑いで逮捕した。

逮捕容疑は、2016(平成28)年10月13~22日、不正な利益を得る目的で、系列会社のコンピューターから取引先情報をUSBメモリーにコピーして取得したとしている。

食品卸売会社によると、容疑者の男は系列会社の責任者を務め、2016年12月に退職した後、競合他社に入るとの情報が寄せられていた。
容疑者の女も系列会社を退職し、別の会社で働いていたという。

 

ますは条文を見てみましょう。

「不正競争防止法」
第1条(目的)
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

規定されている不正行為はさまざまありますが、今回の事件に該当するのは、企業の営業秘密の漏洩に関するものです。
具体的には、次のようなものがあります。

第2条(定義)
1.この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正取得行為)、又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む)。

五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為。

六 その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為。

十一 営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置若しくは当該機能を有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

 

法律の条文はややこしいですね。
もう読みたくない…という人もいると思うので簡単に説明すると、企業が営業秘密として管理している「製造技術上のノウハウ」、「顧客リスト」、「販売マニュアル」などを窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得、使用、開示等する行為は禁止されているということです。

デジタル技術のなかった時代では、資料自体を盗む、カメラで撮影するなどの手口だったと思いますが、技術的な進歩のおかげで、大容量のデータを記録・保存できるUSBメモリーを使った不正行為が行なわれているわけです。

ところで、不正競争防止法は2015年7月に改正が行われ、2016年1月1日から施行されています。

不正に取得された企業の営業秘密が海外のライバル会社に流出するという事件が多発したことで厳罰化が行なわれ、以前は罰金の上限が個人は1000万円、法人が3億円だったものが、個人で2000万円(懲役刑は10年以下)、法人は5億円、さらに海外企業への漏洩は3000万円、法人は10億円にそれぞれ大幅に引き上げられています。(第21条)

なお、過去に起きた不正競争防止法違反事件については以前も解説していますので参考にしてください。

詳しい解説はこちら⇒
会社の営業秘密を盗むと犯罪!

千葉県の土木建築会社で、社員の女が数回にわたり会社が営業秘密として管理する顧客データを貸与されていたパソコンを不正に操作してインターネット上のサーバー内にコピーしていた事件。

 
詳しい解説はこちら⇒
顧客情報持ち出しは、犯罪!?

元店長の男と元同僚3人が、勤務先だった大阪府の保険代理店から持ち出した顧客情報を使って客に生命保険を契約させ、それ以外にも持ち出した情報をもとに営業活動を行ない、自身が経営する別の保険代理店との間で契約を結ばせるなどした事件。

 
詳しい解説はこちら⇒
営業秘密の漏洩で懲役5年+罰金300万円!

東芝の半導体メモリーを巡るデータ漏洩事件の判決公判で、被告の男に懲役5年、罰金300万円が言い渡された事件。

 
詳しい解説はこちら⇒
今、そこにある秘密漏洩という危機

家電量販大手「エディオン」をめぐる情報不正取得事件で、誓約書に従わずに営業秘密を不正に得ていたとして、同社元課長の男が不正競争防止法違反容疑で再逮捕された事件。

 
詳しい解説はこちら⇒
会社の秘密情報を盗むと犯罪になる!?

日産自動車のサーバーに接続して企業秘密である新型車の企画情報を不正に得たなどとして、元社員の男が不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の罪で在宅起訴された事件。

 

企業の危機管理への体制強化においては、①物的対策(パソコンのセキュリティなど)、②ルールによる対策(書類保管庫への立入制限、秘密の指定、誓約書の徴求など)、③教育研修など人的対策等の厳格で迅速な対応が必要です。

まだ対策をしていないという企業は要注意です。