法令の趣旨に反した節税で税理士損害賠償判例 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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法令の趣旨に反した節税で税理士損害賠償判例

2019年10月09日

立法の趣旨に反した節税指導をしたことを理由として、税理士に損害賠償責任が認められた裁判例として、東京地裁平成10年11月26日判決(TAINS Z999-0047)を紹介する。

税理士らに対し、合計5999万9999円の損害賠償が命じられた事例である。

(事案の概要)
1 Xら被相続人一郎の相続人は、Yが代表を務めるコンサルタント会社に相続税の節税策について相談した。

2 コンサルタント会社は、Xらに対し、節税策を助言し、Xらは、次のとおり節税策を実行した。

①一郎がA社の株式を買い受け、その売買代金14億52万3600円を支払った。

②一郎は、株式を一定期間経過後、相続人Xに対して贈与した。

③Xは本件贈与について、配当還元方式により本件株式を評価した上、1709万7600円の価額の贈与を受けたとして、平成6年3月柏税務署に対し、642万3300円の贈与税の申告を行った。

④受贈者である相続人Xは、株式を一定期間保有した後、時価(13億4167万8000円)で売却し、買取資金を回収した。

3 柏税務署長はXに対し、平成8年2月16日、平成6年3月の贈与税の申告について贈与税として9億6904万6100円及び過少申告加算税1億4407万1500円を納付すべきとする更正処分及び加算税の賦課決定処分をした。

4 そこで、Xらは、Yらに対し、助言指導義務違反を理由として、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

5 相続税法第22条は、「・・・相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価・・・による。」と規定し、財産評価基本通達第一1(二)は、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、・・・それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」と規定している。

そして、同通達によると、少数株主の所有する株式の価額については、当該株式の年間配当金額を基準として計算する方法(配当還元方式)により評価することとされている。

6 本件で、Yらは、この通達に基づく相続税の節税策を助言したものである。

(裁判所の判断)

1 本件相続税対策は贈与税ひいては相続税の大幅な軽減を目的として考案されたものであることは明らかである。そして、本件株式は専ら相続税又は贈与税の負担の軽減を図る目的で一時的に保有され、その目的を達成すると、出資額に見合う金銭を回収することを目的として発行される特殊な株式であり、通達が配当還元方式により評価することを予定している株式とかけ離れた性質を有するというべきであり、右株式を配当還元方式により評価した場合には、納税者間の課税の公平が著しく損なわれる上、富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨から大きく逸脱することは明らかである。

2 Yは税理士であり、租税立法、通達及び課税実務等について専門的知識を有するのであるから、右立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をすべき注意義務があるというべきである。しかるに、Yが考案した本件相続税対策は、租税立法の趣旨を大きく逸脱しており、課税実務上到底認め難いものであること、右対策が考案されたころには、いわゆる節税商品については、形式的に通達に従っていても税務当局から否認される流れが出始めていたこと、コンサルティング会社に雇用されている税理士のうち2名が右相続税対策は税務当局に否認されるリスクがあると考え、同社を退職したこと、Y自身も本件株式の購入価額と配当還元方式による評価額に差異が有り過ぎたことを自認していることなどからすれば、Yにおいて右対策が税務当局から否認されるおそれがあることは十分に予見することが可能であったというべきであり、それにもかかわらず、前記注意義務に反して課税実務において否認されるような本件相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をさせたことについて過失が認められる。

(解説)
本件で、税理士は、形式上、財産評価基本通達に則った節税策を助言している。

しかし、判決では、税理士は、「立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって自己が経営する会社等を介して税務相談をすべき注意義務がある」として、行き過ぎた節税策により依頼者が損害を被った場合には、税理士に損害賠償責任が成立する旨判示した。

財産評価基本通達総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定し、財産評価基本通達に則った処理であっても、評価が著しく不適当と認められるときは、国税庁長官の指示を受けて評価する、としている。

したがって、通達に従った処理をしておけば否認される心配がない、とは言えないことになる。

税理士は、法令の範囲内で依頼者に有利となるよう助言指導する義務があるが、その法令の範囲内という意味は、形式面だけでなく、立法の趣旨に反せず、かつ、課税実務において認められる範囲内、という趣旨を含むものである。

したがって、税理士としては、この点に留意した上で、業務を行うことが肝要である。

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