鉄パイプ落下で死亡事故(刑事責任と民事責任) | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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鉄パイプ落下で死亡事故(刑事責任と民事責任)

2017年12月22日

今回は、空から落ちてきた鉄パイプによって起きた死亡事故について解説します。

一体、誰の責任なのでしょうか?

「鉄パイプ落下死亡事故、現場監督ら2人を書類送検 東京・六本木 警視庁」(2017年12月21日 産経新聞)

東京都港区六本木のマンション工事現場で、足場用の鉄パイプが歩道に落下し、歩行中の男性(当時77歳)が死亡した事故で、安全対策を怠ったとして警視庁捜査1課は工事を担当したリフォーム会社(川崎市)の現場監督(52)と、足場を組んだ下請け会社(横浜市)の作業責任者(30)の男性2人を業務上過失致死容疑で書類送検しました。

報道によると、事件が起きたのは、2016(平成28)年10月14日午前9時50分頃。

現場で足場の解体作業中、作業員が足場板をロープにくくりつけ、高所から降ろす作業をしていた際、つり下げた板が下の階の足場に触れ、留め具の固定が不十分だった「下さん」と呼ばれる部分の鉄パイプ(直径2・9センチ、長さ188センチ、重さ約1・9キロ)が落下。
約24メートル下の歩行者用の迂回路を歩いていた被害者男性の頭部に直撃し、死亡させたというものです。

現場監督と作業責任者の2人は、足場を設置した同年6月以降、鉄パイプを固定する留め具の点検を一度も行なっていなかったほか、歩行者の適切な誘導などの安全対策を怠ったようで、調べに対し、「危険性は認識していた」などと話し、容疑を認めているということです。

 

まずは、該当する条文を見てみましょう。

「刑法」
第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 

業務上過失致死傷罪は、故意ではなく、業務上の必要な注意を怠ったことで傷害、死亡事故を発生させた場合に適用されます。
今回は、被害者が死亡しているので業務上過失致死罪ということになります。

街を歩いていると、ビル工事現場に出くわすことがあります。
上から何か落ちてきやしないかと心配になりますが、そうしたことが現実に起きてしまった事件ということです。

ところで、今回の報道は刑事事件についてのものですが、このような事故では民事損害賠償の問題になる可能性が高いと思います。

遺族としては、故人の損害賠償請求権を相続しますので、民事事件とし損害賠償請求を行なうことができます。

今回の事件の場合、遺族が訴えることができる可能性のある相手は次のようになります。

・作業者本人
・工事会社の責任者
・法人としての工事会社
・下請会社の責任者
・法人としての下請会社

作業者本人に対しては、不法行為責任が争点になります。

「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

法人と責任者に対しては使用者責任が争点になります。

「民法」
第715条(使用者等の責任)
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

 

使用者責任は、交通事故や労災事故の損害賠償においても問題になるものです。

たとえば、加害者が業務中の交通事故の場合、被害者は運転者だけでなく会社に対しても使用者責任を問うことができます。

また、業務中の事故で従業員が死傷した場合も、被害者や遺族は労災事故として会社の使用者責任を問うことができます。

民事訴訟の基礎知識として、これらのことは覚えておいていただきたいと思います。

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