会社の営業秘密を盗むと犯罪! | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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会社の営業秘密を盗むと犯罪!

2017年08月21日

転職先への“お土産”として、会社の営業秘密を盗んだ元社員が書類送検されるという事件が起きたので解説します。

「元経理が営業秘密盗む 千葉県警初、容疑で書類送検」(2017年8月18日 千葉日報)

千葉県警生活経済課と東金署などは、勤務していた会社の営業秘密を盗んだなどとして、千葉県東金市内の会社員の女(43)を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の疑いで千葉地検に書類送検しました。

同法違反での立件は、2016(平成28)年1月の同法改正、施行後、千葉県内では初めてということです。

容疑者の女は2014年6月、同市内の土木建築会社に入社し、主に経理業務を担当。
社長の信頼を受け、在職中の秘密保持に関する誓約書を提出したうえで、社長と2人しか知らないパスワードやIDを管理していたようです。

状況が動き出したのは2016年7月、40代の元同僚男性が設立した同業会社で掛け持ちをして働くようになってから。
結局、女は7月31日に正式に退社しましたが、その前の7月11~29日に数回にわたり会社が営業秘密として管理する顧客データを貸与されていたパソコンを不正に操作してインターネット上のサーバー内にコピーしていたようです。

容疑者の女が退社後、会社役員の男性が貸与していたパソコンを調べたところ、「データどろぼう」というタイトルのついたファイルを発見。
2016年12月に同署に相談したことで犯行が発覚したということです。

元同僚男性の会社でのデータの使用はなく、第三者による閲覧や情報の漏洩などはないようですが、女は「新しい会社に移ることを見越してデータを盗んだ」などと容疑を認めているということです。

 

「不正競争防止法」は、1993(平成5)年に制定された法律で、その目的を次のように規定しています。

第1条(目的)
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

不正行為として、同法はさまざまな行為を規定していますが、今回の「営業秘密の漏洩」については次のような行為があります。

・企業が秘密として管理している製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアル等を窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得する行為(第2条4号)

・不正取得行為により取得した営業秘密を使用したり、開示する行為(第2条4号)

・不正に取得された情報だということを知っている、もしくはあとから知って、これを第三者が取得、使用、開示する行為(第2条5号、6号)

・保有者から正当に取得した情報でも、それを不正の利益を得る目的や、損害を与える目的で自ら使用または開示する行為(第2条7号)

営業秘密に関する産業スパイ事件については、過去には次のような判決が出されています。

2014年7月、通信教育を手掛けるベネッセコーポレーションの顧客情報約3000万件を不正に取得するなどしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密の複製、開示)の罪に問われた元システムエンジニアの被告に対して、2016年3月、1審東京地裁立川支部では懲役3年6月、罰金300万円の実刑判決が言い渡された。
その後の2017年3月、東京高裁で開かれた控訴審判決では、「1審判決は、顧客情報管理に不備が多かったベネッセ側の落ち度を考慮していない」などとして、懲役2年6月、罰金300万に減刑した実刑判決を言い渡した。
「ベネッセ顧客情報流出 元SEの男を減刑 “ベネッセ側にも落ち度”東京高裁」(2017年3月21日 産経新聞)

 

2016年10月31日、横浜地裁は、日産自動車のサーバーに接続して企業秘密に当たる新型車の企画情報を不正取得したなどとして、不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の罪に問われた元社員の被告(39)に対し、起訴内容の一部を無罪としたうえで、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。
判決によると、被告は2013年7月、新型車の企画情報などのファイルデータを複製。
検察側は、2010年11月~2013年7月、車の製造工程などが書かれた教本の一部を複写した後、転職先の別の自動車メーカーに持ち込んだとする罪でも起訴したが、裁判長は「日産の社内で教本は秘密として管理されていなかった」として、こちらは無罪と判断した。
「元日産社員に猶予付き判決 企業情報不正取得の罪“転職先で活用と推認”と女性裁判長」(2016年10月31日 産経新聞)

 

大阪市の家電量販大手「エディオン」の営業秘密情報を不正に取得したとして、不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得・開示など)の罪に問われた同社元課長の被告(53)の判決公判が2015年11月13日に開かれ、大阪地裁は懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円(求刑懲役3年、罰金100万円)を言い渡した。
被告は2014年1月、ライバル社の上新電機(大阪市)に転職。
遠隔操作ソフトを使って、エディオンの販売促進に関する4件の営業秘密情報を上新電機の社内パソコンに転送して入手し、そのうちの1件を上新電機の部長に渡した。
「エディオン元課長に有罪判決 大阪地裁」(2015年11月13日 産経新聞)

近年、企業の営業秘密に関する漏洩事件が相次いでいますが、これは企業の存亡に関わる問題になりかねません。

そこで厳罰化のために、2015年7月には不正競争防止法の改正が行われ、2016年1月1日から施行されています。

以前は、罰金の上限が個人は1000万円、法人が3億円だったものが、個人で2000万円(懲役刑は10年以下)、法人は5億円とし、海外企業への漏洩は3000万円、法人は10億円にそれぞれ大幅に引き上げられています。(第21条)

 

なお、営業秘密の漏洩以外にも、第2条では次のような不正行為も禁じているので参考にしてください。

「周知表示混同惹起行為」
既に知られているお店の看板に似せたものを使用して営業する行為など。

「著名表示冒用行為」
ブランドとなっている商品名を使って同じ名前のお店を経営する行為など。

「商品形態摸倣行為」
ヒット商品に似せた商品を製造販売する行為など。

「技術的制限手段に対する不正競争行為」
CDやDVD、音楽・映像配信などのコピープロテクトを解除する機器やソフトウェアなどを提供する行為など。

「原産地等誤認惹起行為」
原産地を誤認させるような表示、紛らわしい表示をして商品にする行為など。

「競争者営業誹謗行為」
ライバル会社の商品を特許侵害品だとウソを流布して、営業誹謗する行為など。

「代理人等商標無断使用行為」
外国製品の輸入代理店が、そのメーカーの許諾を得ずに商標を使用する行為など。

 

いずれにせよ、経営者として社員の不正行為を防止するためには、早期の社員教育や社内規定の厳格化を徹底していくことが大切ですが、万が一、訴訟にまで発展するような場合には弁護士に相談することをお勧めします。

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