東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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タクシー運転手が客を置き去りにして逮捕?


2016年10月27日

人の世では、「一体なぜ?」、「まさか…」ということが起きることがあります。

今回は、タクシーの運転手が寝込んだ乗客を道路に捨てて死亡させたという事件を解説します。

「客を道に放置→別の車にひかれ…タクシー運転手逮捕」(2016年10月24日 テレビ朝日ニュース)

2016年8月未明、宮崎県都城市の市道で、酒に酔ってタクシー内で寝込んでしまった男性の乗客(38)を運転手(67)が道路の中央付近に放置。

その後、走ってきた車にひかれて男性が死亡したとして、都城署はタクシー運転手の男を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕しました。

事件を知った容疑者は、「市内の繁華街で乗せて、自分が降ろした乗客が死亡したのではないか」と警察に出頭。
容疑が固まったため、今回の逮捕に至ったということです。
報道内容からだけでは詳細がわからず多くの疑問が残りますが、まずは今回の事故を法的に見ていきましょう。

遺棄に関する罪は、刑法の第217条から第219条に規定されています。

「刑法」
第217条(遺棄)
老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。
第218条(保護責任者遺棄等)
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。
第219条(遺棄等致死傷)
前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
「遺棄」とは、保護を必要とする者を保護のない状態にさらす犯罪であり、人の生命・身体に対する危険犯である、とされています。
扶助を必要とする者に、老年者と幼年者がありますが、これは年齢のみで判断されません。
たとえば幼児の場合、一般的には7歳か8歳未満と考えられていますが、過去の判例には、「14歳から2歳までの実子4人を自宅に置き去りにした母親の事案」(東京地判昭63・10・26判タ690-245)というものもあります。
扶助を必要とするかどうかは相対的に判断されるということです。
「病者」とは、病気や傷害などによって肉体的、精神的に疾患がある人のことで、その他にも判例では次のような状態の人も当てはまるとされています。

・麻酔状態にある者
・催眠術にかかっている者
・産褥期の女子
・飢餓者
・知的障碍者
・極度に疲労している者
・麻薬等の薬物により正常な意識を失っている者
・泥酔者
「保護責任者」とは、刑法上では必ずしも親族などの扶養義務者とは限りません。
判例では、看護やベビーシッターなど、仕事の性質上、当然その義務を包含する者も保護責任者になるとされています。
それは、保護責任は法律上のものでなければならないとされているからで、具体的には、法令の規定や契約、慣習、事務管理、条理などによって発生します。

たとえば、「契約」に基づく場合では前述の看護やベビーシッター、法律上の手続きが済んでいない養子などの判例があります。

「条理」(物事の筋道や道理)に基づく場合では、「一緒に飲酒した後、他の通行人とケンカになり重傷を負った会社の同僚」、「同棲を始めた女性の連れ子」、「覚醒剤を注射したところ錯乱状態に陥った少女」などの判例があります。

また、本来は保護義務を負っていなかったのに、義務が発生する場合もあります。
たとえば、あなたが道で会った病気の人や泥酔者を介抱してあげたり、車で病院に連れて行ってあげたりという親切心で要保護者の保護を開始すれば、あなたに保護義務が負わされることもあります。

ところで今回の事件では、道路の中央付近に乗客を置き去りにすれば、後続車にひかれることは当然予測しうるところですから、死亡との間に因果関係がある、と判断されたのでしょう。
ちなみに、保護責任者遺棄致死傷罪の法定刑は傷害罪と比較して上限及び下限とも重いほうで処断されます。

保護責任者遺棄致死罪では3年以上の有期懲役となっています。

そして、ひいて死なせてしまった後続車のドライバーは、過失運転致死罪にとわれることになりそうです。

ご遺族としては、タクシーの運転手が刑事裁判で処罰されることを望むでしょうが、その他に民事損害賠償を請求することができます。

タクシー運転手個人、タクシー会社(使用者責任)、後続車の運転手などに請求していくことになります。

泥酔した人を道路の中央付近に放置するとは、ちょっと理解に苦しむ事件です。

だんだんと年末が近づいてきて、酒を飲む機会も増えてくるかもしれません。

このような事件に巻き込まれないよう、くれぐれも飲酒はほどほどに留めておいていただければと思います。

北海道砂川市暴走事故で危険運転致死傷罪の共謀は成立するか?


2016年10月19日

今回は、昨年起きた、一家5人が死傷した交通事故で「危険運転致死傷罪の共謀」が成立するかどうかについて解説します。

「危険運転 5人死傷“共謀”焦点 札幌地裁、2被告初公判」(2016年10月17日 毎日新聞)
2015年6月、北海道砂川市で、共謀して車2台で暴走し、家族4人を死亡させ1人に重傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷罪)などの罪に問われた2人の被告の初公判がありました。

両被告は速度を競い合って赤信号を無視しようと共謀したとして、全国でも例の少ない危険運転の共謀で起訴されていましたが、一部を否認しているようです。
どのような事故だったのか、以下にまとめます。

【事故の概要】
・2015年6月6日午後10時35分頃、北海道砂川市の国道12号の交差点付近で、乗用車と軽ワゴン車の出会い頭の衝突事故が発生。

・計7人が病院に搬送されたが、軽ワゴンを運転していた男性(当時44歳)と妻(同44歳)、長女(同17歳)が死亡。次女(同13歳)が重体。乗用車に乗っていた3人もケガをした。また、現場から800メートル離れた路上で、家族の長男(同16歳)が死亡しているのが発見された。

今回の初公判でのやり取りは次の通りです。

【起訴の内容】
両被告は赤信号を無視し、100キロ超の猛スピードで互いに競い合って交差点に進入。
酒気帯び運転の被告AのRV(レジャー用多目的車)が一家の軽ワゴンに衝突し、車外に投げ出された長男を被告Bの後続車が引きずって逃走し、死亡させた。

【弁護側の主張】
被告Aの弁護側は、酒気帯び運転は認める一方、「被告は落としたサングラスを捜して、赤信号を見落とした。事故前に被告Bに追い抜かれることも気にしておらず、危険運転は成立しない」などと主張。
また、被告Bの弁護側は、「共謀が成立しない以上、被告Bには被告Aが起こした事故に対する救護義務はない。人をひいた認識もなく、車外に長男が飛び出してくるとは想像もできない中、起きた事故で、過失責任も問えない」と無罪を主張した。
次に、危険運転致死傷罪について解説します。

「自動車運転死傷行為処罰法」は、危険運転への罰則を強化するために2014年5月20日に施行された法律です。

この中でもっとも重い罪が危険運転致死傷罪で、以下の6つの行為を「故意」に行うことで成立します。
最高刑は懲役20年です。

①アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
②進行を制御することが困難な高速度で走行
③進行を制御する技能を有しないで走行
④又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑤赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
⑥通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

詳しい解説はこちら⇒「自動車運転死傷行為処罰法の弁護士解説(2)」
http://taniharamakoto.com/archives/1236

今回のケースを見ると、上の6つの犯罪類型のうち、

①飲酒
②高速度の進行
⑤赤信号無視

の3つに当てはまりそうな感じです。

しかし、報道の内容からは、⑤の赤信号無視で起訴されたようです。
では、他の2つはどうなったのでしょうか?

1.飲酒運転については?
飲酒運転による危険運転致死傷罪が成立するには、「アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行」をしたことが必要になります。
当初、北海道警は、両被告が事故前に飲酒したとみて捜査したようですが、地検は被告Aのみを道路交通法違反の酒気帯び運転で起訴し、被告Bの立件は見送っています。
これは、立件するには単純に飲酒の量が足りなかったのだと思われます。

2.速度超過については?
速度超過による危険運転致死傷罪が成立するには、「進行を制御することが困難な高速度で走行」したことが必要になります。
今回の事故現場は、道路の幅員が十分にあり、見通しのよい道路であることから、自動車の制御が困難な高速度とはいえないとして不適用となる可能性が高いと思われます。

3.赤信号の無視については?
前述のように、危険運転致死傷罪が成立する条件のひとつには「赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」することがあります。
今回、検察側としては、飲酒運転と速度超過での起訴が難しかったことと、それでも両被告に危険運転致死傷罪を適用させるために、最終的には2人が共謀して赤信号をことさらに無視して危険運転をしたとして起訴したのだと思います。

さて、危険運転致死傷罪に共謀共同正犯が成立するのか?

裁判の行方を見守りたいと思います。

交通事故の弁護士相談についてはこちらから⇒
「交通事故を弁護士に相談すべき7つの理由と2つの注意点」
http://www.jikosos.net/basic/basic6/bengoshi

大声を出すだけで犯罪が成立する場合とは?


2016年10月16日

迷惑な隣人トラブルの中でも、もっとも多いもののひとつに「騒音トラブル」があげられます。

マンションの上階や隣室からの騒音、隣家からの赤ちゃんや飼い犬の鳴き声、自動車やバイクのエンジン音、ピアノの音や近所のスナックのカラオケの音など、本人にとっては騒音でなくても近隣住民にとっては不快な音になり得るものはたくさんあります。

騒音が原因で寝られない、うつ状態になったといった健康被害が出たり、最悪のケースでは殺人事件にまで発展することもあります。

こうした騒音トラブルにどう対応したらいいのか、また民事裁判での判断基準などについては以前にも解説しています。

詳しい解説はこちら⇒「隣人トラブルから人間性が見える」
http://taniharamakoto.com/archives/1340

では、こうした騒音トラブルを刑事事件として取り締まる法律はないのでしょうか?

じつは、軽犯罪法違反になる可能性があります。
まずは条文を見てみましょう。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

十四 公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者

軽犯罪法は、軽微な33の秩序違反行為について規定している法律です。
その中の14番目に規定されているのが、「静穏妨害の罪」と呼ばれるものです。

これに違反すると、拘留又は科料となります。
※拘留=受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰
科料=1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰

条文にあるように、静穏妨害の罪でポイントとなるのは次の3点です。

①公務員の制止をきかない
②音を異常に大きく出して静穏を害する
③近隣に迷惑をかける

たとえば、隣家などで宴会のようなものが行われていて、酔っ払いたちの大声や音楽などの騒音があり、限度を超えていたため警察に通報したとします。

駆けつけた警察官が注意したのに、その後もその制止を聞かずに騒音を出した場合、上記①が当てはまります。

次に上記②について考えてみます。
異常に大きな音とは、どの程度の音をいうのでしょうか。

その場で音の大きさを計測するわけにもいかないと思いますが、基本的には、社会通念上、一般の人が我慢できない大きな音、騒音と感じるレベルの不必要な音ということになるでしょう。
最後に、上記③について考えてみます。
近隣とあるので隣家、隣室だけでなく、また騒音に迷惑している人は1人ではなく、最低でも近所の数人は必要であると考えられます。

迷惑の基準も明確にできるものではありませんが、たとえば騒音のために家族で会話ができない、テレビやラジオの視聴ができない、イライラして仕事ができない、寝られないといったことが当てはまるでしょう。

なお、近隣といっても住宅だけではなく、たとえばスナックや居酒屋などの店舗の営業や選挙の街頭演説、ライブパフォーマンスなども含まれます。

騒音を出しているほうには、得てして相手に迷惑をかけているという意識がない場合があると思います。
最近では、「家飲み」する人も増えているようですが、ハメを外して友人と盛り上がりすぎていると、場合によっては騒音を出すことで犯罪となる可能性があるので、十分注意してほしいと思います。

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