弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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    退職税理士が顧客奪取で損害賠償

    2021年04月16日

    今回は、会計事務所退職者による顧客奪取で損害賠償が認められた裁判例です。

    千葉地方裁判所松戸支部平成21年7月24日判決(TAINS Z999-0142)、東京高裁平成21年12月3日判決(TAINS Z999-0143)です。

    地裁では、1134万3850円の支払が命じられ、高裁では、1104万9850円の支払が命じられています。

    (事案)

    被告は、平成11年8月に会計事務所に就職し、税理士法人となった後も引き続き、勤務し、平成19年3月に退職した。

    その間、平成15年12月に税理士資格を取得し、平成17年8月から平成19年3月まで税理士法人の社員税理士であった。

    被告は会計事務所に就職する際、次のような誓約書を締結した。

    「私は、雇用期間中及び退職後においても、当事務所の許可なく、当事務所の顧問先あるいは顧問先であった者、及びその関係会社並びに代表者に対して、直接的又は間接的に係わりなく、さらには有償又は無償に係わりなく、税理士業務及び会計業務は一切致しません。たとえ、先方からの依頼であってもお断りすることを誓約致します。これに反した場合は、当事務所が当該顧問先等から得ているあるいは得ていた年間顧問料の5年分の金額又は当事務所が、当該顧問先等から得られたであろう年間報酬見積金額の5倍の金額を損害賠償金として直ちに現金にてお支払い致します。」

    被告は、税理士法人を退職後、税理士法人の顧客を奪取した。

    (裁判所の判断)

    競業禁止契約自体は有効であるが、使用者と労働者との間における労働者の退職後の競業を禁止し、実損害額の賠償を予定する合意がその態様にかかわらず常に有効であるというのも相当ではなく、使用者が競業禁止契約の締結により達成しようとした目的、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、使用者による代替措置の有無等の事情を考慮して、その合意が合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を著しく制限し、不当に害するものであると判断される場合には、公序良俗に違反するものとして無効になることがあると解するべきである

    原告は、顧客獲得のため、年間約800万円から900万円という多額の投資を行った結果、顧客との契約を取り付けたのに対し、被告乙は、顧客との間の契約締結時に立ち会ったにすぎないことからすると、顧客の開拓は専ち原告の投下資本によるもので、被告乙の貢献があったということはできない。

    そうすると、被告乙が本件各顧客を吸引することができたのは、専ら被告乙の個人的資質及び能力のみによるものであるということはできず、原告に勤務して担当者としての業務を行っていた間の成果を利用する面が濃いものであるから、原告の本件各顧客との人的関係を維持するという本件競業禁止契約の目的は、自由競争を阻害するものではなく、正当である

    本件のように、原告が、被告乙に実務経験を積ませるなどして、被告乙が税理士資格を取得できた後に、本件各顧客を奪取されてしまったのでは、原告の営業活動により得られた利益が不当に侵害されることになる。

    (本件契約では、有効期間は定められていないが、)本件競業禁止契約は、被告乙の在職中及び退職した日の翌日(平成18年9月1日)から2年間の範囲で有効である

    (固有の代償措置はないが)被告乙が税理士資格を取得するためG大学大学院に通学していた約2年半の間、週2回程度の勤務に対して月額20万円の給与の支払をしていたことが認められ、かかる措置は、被告乙に対する厚遇であり、相当の代償措置が講じられていたということができる。

    被告乙は、原告を退職するに当たり、原告代表者に対し、税理士業務を行わない旨を述べたことが認められるほか、退職後に原告の従業員であった丁及び戊が相次いで被告事務所で勤務するようになったことに照らすと、被告乙には一定の背信性がうかがわれる

    (賠償額を5年分の顧問料と定めているが)原告に現実に生じた損害を賠償するという限りにおいて、・・・有効なものというべきである。

    ===================

    退職者による顧客奪取については、誓約書がない場合には、原則として自由競争です。

    競業禁止契約がある場合については、多数の裁判例があり、有効無効が入り乱れています。

    本件では、競業禁止契約を有効としましたが、契約の内容そのものを認めたのではなく、内容を限定して有効としました。

    また、禁止することにより被告の職業選択の自由が制限されることとの引換えの「代償措置」と従業員を引き抜いた「背信性」にも言及しています。

    最終的に裁判で損害賠償が認められるかどうかは、不確実ですが、競業禁止契約(誓約書)は、一定の効力を有する、ということになりますので、顧客奪取を防止したい場合には、就職時に締結しておいた方がいいでしょう。

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