弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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    スタローンと現在バイアス

    2026年08月24日

    こんにちは。弁護士の谷原誠です。

    今、100万円を受け取るか、それとも1年後に110万円を受け取るか、こう問われたとき、多くの人は迷わず「今すぐ100万円」を選びます。

    行動経済学では、この心理を「現在バイアス」と呼びます。

    将来の大きな利益や、本来かなえたかったはずの目標よりも、目の前にある確実な利益を過大に評価してしまう。そんな思考の罠です。

    では、あの俳優シルベスター・スタローンは、どうだったのでしょうか。

    映画『ロッキー』で世界的スターになる前、スタローンは明日の食事にも事欠く極貧のなかにいました。手元に残ったのは、わずか100ドルほど。

    空腹をしのぐため、彼は愛犬を、泣く泣く見ず知らずの相手にたった50ドルで手放します。

    そんなどん底の日々のなか、1975年、一つの試合が彼の心を撃ち抜きます。

    絶対王者モハメド・アリに挑んだ無名のボクサー、チャック・ウェプナー。

    誰もが一方的な展開を予想するなか、彼は最終15ラウンドの終了間際まで立ち続けたのです。その姿に突き動かされたスタローンは、わずか数日で『ロッキー』の脚本を書き上げました。

    脚本に目をつけた映画会社は、巨額の買い取りを提示します。現在の価値にしておよそ3億円超ともいわれる金額。

    ただし、条件がありました。「主演は別の有名俳優にする」。

    現在バイアスにとらわれていれば、誰もが飛びつくでしょう。喉から手が出るほどの大金が、いま、目の前にあるのですから。

    ところが、スタローンは譲りませんでした。「自分が主演をやらないなら、絶対に売らない」。そう言い続け、何度となく差し出される好条件を、彼は拒み通したのです。

    最終的に彼が受け入れたのは、主演の座と引き換えに、現在の価値で3500万円ほどまで大きく目減りしたギャラでした。

    それでも彼は、そのお金で真っ先に、手放してしまった愛犬を現在の価値で1500万円ほどという大金を払って買い戻します。

    後年、スタローンはこのときの決断をこう振り返っています。
    「別の誰かがスクリーンでロッキーを演じる。そんな光景に、自分は耐えられないと思った。もしあの脚本を売っていたら、私は自分自身を心の底から嫌悪していただろう」

    ここに、現在バイアスを乗り越えるための鍵が隠されています。

    それは、将来きっと感じるであろう後悔を、いま、ありありと先取りして味わってみること。

    目の前の報酬か、将来のより大きな報酬か。その選択を迫られる場面でこそ、現在バイアスは最も強く働きます。

    だからこそ、未来の後悔を“現在”へ引き寄せて感じてみる。それが、熱に浮かされた判断を冷ます、もっとも確かな方法です。

    今日の目先の利益を選ぶか、将来のより大きな利益を選ぶか?

    「どっちなんだい!?」

    「きょーうー!!」

    「学んでないやないかい!!」

    さて、あなたは今日、どちらを選びますか?