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「週刊朝日」から取材
2015年11月19日雑誌「週刊朝日」2015年11月27日号から取材を受け、私のコメントが掲載されました。
内容としては、増加する自転車事故について、その損害賠償がどうなるのか、という件です。
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自転車保険の契約者が急増中!その理由とは?
2015年07月16日今年に入って、自転車保険の契約をする人が増加しているようです。
今回は、その背景について考えてみたいと思います。「自転車保険、契約ペース倍増 賠償金の高額化など背景に」(2015年7月13日 朝日新聞デジタル)
自転車で人にケガをさせたときに損害賠償金などが補償される「自転車保険」の契約件数が、前年の2倍以上のペースで伸びていると新聞が報じています。
以前は、自転車の賠償責任保険といえば自動車保険や火災保険の「特約」が主流でした。
しかし、近年では損保各社がコンビニで申し込める保険や、スマホなどインターネットから加入できる自転車単独の保険を本格的に売り出していて、昨年の2倍以上の伸びを示しているようです。年間保険料が4490円で1億円を保証するプランや、最大補償額2億円のプランなどもあり、各社とも事故の相手への賠償だけでなく、自分がケガをしたときの補償や自転車以外の交通事故、日常生活でモノを壊した際の賠償保障などもついているのが特徴だということです。
自転車保険への加入が増加している背景には、自転車事故での損害賠償金の高額化など、さまざまな理由が考えられます。
具体的に見ていきましょう。【なぜ高額賠償金の判決が増えているのか?】
以前、自転車事故の高額賠償金について解説しました。
詳しい解説はこちら⇒
「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
https://taniharamakoto.com/archives/1648特に注目されたのは、兵庫県での判例でした。
2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
女性は頭を強打し、意識不明のまま寝たきりの状態が続いていることから、家族が損害賠償を求めて提訴。
2013年、神戸地裁は少年の母親(当時40歳)に約9500万円の支払いを命じたというものです。子供が起こした自転車事故の場合、親には監督責任があるため多額の損害賠償金は親が支払わなければいけません。
しかし、仮に保険に加入していなければ最悪は自己破産の可能性もあり、被害者も金銭的補償を得られず救済されないという問題が起こります。
そうした万が一のときのために自転車保険は有効だということです。では、なぜ損害賠償額が高額化しているのでしょうか?
最近になって裁判所の基準が変わったわけではありません。
賠償額は、被害の程度に応じて高額化します。
つまり、損害賠償額が高額化しているということは重大な被害を生じる自転車事故が増えているということになります。たとえば、上記の損害賠償額9500万円について見てみます。
内訳は以下のようになっています。
・将来の介護費用:3940万円
・事故で得ることができなくなった逸失利益:2190万円
・ケガの後遺症に対する慰謝料:2800万円
・その他、治療費など。介護費用は、「女性の1日あたりの介護費8000円×女性の平均余命年数」、で算出されていますが、今後、将来にわたって毎日介護が必要となることを考えれば、介護者の精神的、金額的な負担は相当なものになります。
逸失利益については、事故に遭わなければ将来得られたであろう収入ですから、専業主婦であったとしても、かなりの金額になります。
また、後遺症に対する慰謝料としては事故状況を考えて高額になっています。
9500万円は高すぎるのでは? と思う人もいるでしょうが、弁護士の立場からすれば、決して高くはない妥当な金額だといえます。
【自転車の危険運転の罰則は厳罰化の方向に進んでいる】
そこで、悪質で危険な自転車運転に対する罰則を厳しくするために2014年6月1日に「改正道路交通法」が施行されています。詳しい解説はこちら⇒「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
https://taniharamakoto.com/archives/1854信号無視や酒酔い運転、歩道での歩行者妨害、遮断機が下りた踏切への立ち入り、携帯電話を使用しながら運転するなどの安全運転義務違反等、14項目の危険行為を規定し、これらに違反した14歳以上の運転者は、まず警察官から指導・警告を受け、交通違反切符を交付されますが、3年以内に2回以上の交付で安全講習が義務づけられることになりました。
仮に受講しないと5万円以下の罰金が科せられることになります。
【自転車保険の加入を義務化した県もある】
これらの流れを受けて、なんと自転車保険の加入を県民に義務化した県もあります。詳しい解説はこちら⇒「兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化!」
https://taniharamakoto.com/archives/1911兵庫県では、自転車が加害者となる事故が増加傾向にあるため、利用者の意識向上と被害者救済を目的に、県条例で今年(2015年)の10月からの保険加入が義務づけられました。
ちなみに、知らない人もいると思いますが、2013年には東京都と愛媛県で「保険加入を努力義務とする」条例が制定されています。
交通事故の件数自体は年々減少傾向にありますが、警察庁が公表している統計資料「平成26年中の交通事故の発生状況」によると、自転車関連の事故は10万9,269件で、この数年、交通事故全体に占める割合は約2割のまま推移しています。不測の事態で困らないために保険に加入しておくのは大切なことですが、その前に大切なことは当然、事故を起こさないことです。
手軽で便利だからといって、軽い気持ちでスピードの出し過ぎや、ながら運転、ひき逃げなどの危険行為はしないように十分気を引き締めて自転車に乗ってほしいと思います。
万が一の自転車事故のご相談はこちらから
⇒「弁護士による自動車事故SOS」
http://www.jikosos.net/ -
自転車ひき逃げで書類送検
2015年04月21日自転車でぶつかっただけ、では、済まない時代になりました。
「“自転車の事故はお互いさまでは…”自転車ひき逃げの19歳女子大生を書類送検」(2015年4月17日 産経新聞)
大阪府警高石署は、自転車同士の衝突事故で相手にケガを負わせたにも関わらず、そのまま走り去ったとして、府内の女子大生(19)を重過失傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。
事故が起きたのは2015年1月26日午前10時すぎ。
女子大生が市道交差点を自転車で走行中、パートの女性(57)の自転車と衝突。
女性を転倒させ、右足首を骨折させたのに救護措置を取らずに逃走したようです。女子大生は、テレビで事故のニュースを見た家族に付き添われ、事故当夜に自首。
「通学で急いでいた」、「自転車の事故なのでお互いさまと思って立ち去ってしまった」と話しているということです。
怪我をさせれば、損害賠償義務を負います。
ところで、今回の事故は、刑事事件での書類送検です。
ポイントは、大きく4点あります。1.道路交通法の「救護義務違反」=ひき逃げとは?
事故を起こした場合、以下の措置等を取らなければいけません。(第72条)
①車両の運転者と同乗者は、ただちに運転を停止する。
②負傷者を救護する。
③道路での危険を防止するなど必要な措置を取る。
④警察官に、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等を報告する。
⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる。これらを怠ると、「ひき逃げ」という犯罪になりますので注意してください。
詳しい解説はこちら⇒「軽傷のひき逃げで懲役15年!?」
2.自転車も「車両」の一種
道路交通法では、自転車は車両の一種である「軽車両」です。
当然、自転車の事故も犯罪になるので注意してください。ただし、自動車と自転車では刑罰に違いがあります。
自動車で、ひき逃げをして、被害者を死傷させた場合は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)自転車の場合は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます。(第117条の5)
3.重過失傷害罪とは?
「重過失傷害罪」とは、過失致傷に重過失、つまり重大な過失により人にケガをさせた罪です。
「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。自転車の運転で重過失があった場合には、この規定が適用されます。
法定刑は、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金です。
4.書類送検とは?
テレビや新聞などのメディアで「書類送検」という言葉を見かけますが、逮捕と何が違うのでしょうか?書類送検とは、刑事事件の手続きにおいて被疑者を逮捕せずに、または逮捕後保釈してから身柄を拘束せずに事件を検察官送致することです。
被疑者の逮捕や拘留の必要がない場合や、送致以前に被疑者が死亡した場合などで行われます。今回の事故の場合、被疑者である女子大生は家族に付き添われて自首したということで、逃亡する可能性も低いために書類送検になったのだと思います。
近年、自転車による重大事故が増えています。
警察庁が公表している統計資料「平成26年中の交通事故の発生状況」によると、自転車関連の事故は10万9,269件で、交通事故全体に占める割合は約2割です。
また、自転車同士の事故は2,865件起きていて、そのうち2件が死亡事故となっています。こうした事態を受けて、自転車による交通事故も厳罰化の方向に向かっています。
詳しい解説はこちら⇒「自転車の危険運転に安全講習義務づけに」
https://taniharamakoto.com/archives/1854
報道内容からだけでは詳しい状況がわかりませんが、事故を起こして相手がケガをしたにも関わらず、「お互いさまと思った」という女子大生の感覚は、交通事故の危険性、重大性を理解していない浅はかで軽率なものと言わざるを得ないでしょう。自転車は気軽で日常使いだからといって、けっして他人事と軽くとらえずに、細心の注意を払って運転してほしいと思います。
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兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化!
2015年03月23日交通事故において、加害者と被害者双方の「その後」に大きく関わってくるもののひとつに「保険」があります。
じつは、保険の歴史は古く、古代ローマ時代にまでさかのぼるといわれています。
日本では、明治維新の頃に欧米の保険制度を導入して、現在の保険の仕組みができたようです。
かの福澤諭吉が、著書の中で「生涯請合」(生命保険)や「火災請合」(火災保険)、「海上請合」(海上保険)の仕組みを紹介しているそうです。ところで先日、ある県が条例で、ある保険への県民の加入の義務化を決定したようです。
全国初の試みです。
「自転車にも賠償保険義務づけ、全国初の条例化」(2015年3月18日 読売新聞)
兵庫県議会で18日、自転車の利用者に対し、歩行者らを死傷させた場合に備える損害賠償保険への加入を義務づける全国初の条例が可決・成立しました。
自転車が加害者となる事故が増加傾向にあるため、利用者の意識向上と被害者救済を目的にしているとのことです。
施行は2015年4月1日で、周知期間を設けるため義務化は10月1日から。
なお、県交通安全協会では4月1日から、年間1000~3000円の保険料で5000万~1億円が補償される保険への加入を受け付けるということです。
このブログでも以前から、自転車事故に関して解説をしてきました。詳しい解説はこちら⇒
「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
https://taniharamakoto.com/archives/1648⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
https://taniharamakoto.com/archives/1217今回の兵庫県の条例成立には、2013年のある裁判の判決がきっかけのひとつになっていると思われます。
2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
女性は頭を強打し、意識不明のまま寝たきりの状態が続いていることから、家族が損害賠償を求めて提訴。
2013年、神戸地裁は少年の母親(当時40歳)に約9500万円の支払いを命じました。判決では、少年の前方不注視が事故の原因と認定。
さらに、子供がヘルメットをかぶっていなかったことなどからも、「指導や注意が功を奏しておらず、親は監督義務を果たしていない」としました。損害賠償金の内訳は以下の通りです。
・将来の介護費用:3940万円
・事故で得ることができなくなった逸失利益:2190万円
・ケガの後遺症に対する慰謝料:2800万円
・その他、治療費など。この報道を知って、多くの人が驚かれたと思います。
同時に、さまざまな意見や思いを持つ人がいたでしょう。「子供が起こした自転車の事故で9500万円とは高すぎないか?」
「被害者は意識不明の状態が続いているのだから高額賠償金は当然だ」
「なぜ親が支払わなければいけないのか?」
「うちはとても、そんな金額は払えない。自己破産だ」
「怖くなったので自転車の保険に加入しようと思う」実は、9500万円という金額は、法律家の立場からすると、けっして高額ではない、ということは言えます。
車に轢かれようと、自転車に轢かれようと、生涯にわたって治らない後遺症が残った場合には、その補償をしてもらうのが当然です。金額に差異はありません。
事故が起きたことは不幸なことですが、この事故と裁判は示唆に富み、我々に多くの教訓を与えてくれました。
・ヘルメットをかぶらせるなど、親には子供の「監督責任」があること。
・坂道を高速で下るなど、交通規則に反する行為が重大な事故を引き起こす可能性があること。
・自転車でも、ケガを負わせたり死亡させたりすれば高額な損害賠償金を支払わなければいけないこと。
・保険に加入していなければ、万が一の事故のときに加害者側は自己破産する可能性があること。
・加害者が自己破産してしまえば、被害者は補償を得られず金銭面でも救われないこと。
ところで、今回の兵庫県の条例では、次のことが定められたようです。
・通勤・通学やレジャー、観光など、県内で自転車を運転するすべての人を対象とする。
・未成年者の場合は保護者に加入を義務化。
・営業など従業員が仕事で使用する場合は企業に加入を義務化。
・自転車の販売業には客に販売する際に保険加入の確認を義務化し、未加入の場合は加入を促進させる。
・レンタルサイクル業も販売業と同様。ただし、無保険を取り締まるのは困難なことから、①自動車のような登録制度はない、②違反者への刑罰は設けない、としています。
実際、違反者への刑罰がないことからも、どの程度の効果があるのかは今後の状況を見守っていく必要があるでしょう。
しかし、被害者救済は重要なことですし、自転車利用者1人ひとりの意識も変わっていくだろうと思います。
自転車が歩行者を負傷させた事故は、2014年には全国で2551件あり、2001年の1・4倍に増えたという統計データもあります。
また、自転車保険の加入については、京都府や愛媛県など4都府県が条例で努力義務を定めています。
私としては、自転車にも自賠責保険を「法律で」義務づけて欲しいと思っています。
自転車事故は他人事ではありません。
各保険会社などが提供する自転車保険は以前よりも増え、補償内容も充実してきています。
また、火災保険や自動車保険、傷害保険の特約で自転車保険をつけられる場合もあります。備えあれば患いなし。
ご自身のためにも、また子供のためにも、これからは自転車保険の検討をする必要があるでしょう。万が一の自転車事故のご相談はこちらから
⇒「弁護士による交通事故SOS」
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自転車の危険運転に安全講習義務づけに
2015年01月28日普段、何気なく気軽に乗っている自転車ですが、近年、自転車運転に関する重大な事故が問題になっています。
そうした実態を受けて、政府は今年6月の施行に向けた新たな「改正道路交通法」の施行令を閣議決定しました。
違反者に対して厳しい規定になるようです。「酒酔い、信号無視、携帯使用運転… 悪質自転車にブレーキ」(2015年1月20日 東京新聞)
自転車運転による違反の取り締まり強化と事故抑制を目指して、悪質な自転車運転者に対して安全講習の義務化を盛り込んだ改正道路交通法の施行令が閣議決定されました。
施行令では、酒酔い運転や信号無視など計14項目の悪質運転を危険行為と規定。
危険行為をした運転者はまず、警察官から指導・警告を受け、従わない場合には、交通違反切符を交付されるが、3年以内に2回以上の交付で講習の対象となり、受講しないと5万円以下の罰金が科せられることになるようです。
なお、講習は3時間で内容や方法は施行までに決めるとしています。所管する警察庁によると、全国での対象者は年間数百人になる見通しだということです。
2013年6月に成立した改正道路交通法で、都道府県の公安委員会は危険行為を繰り返した運転者に対して、講習の受講を命じることができるようになったことで、警察庁は危険行為の具体的な中身や対象者、開始時期を検討していたようですね。自転車での危険行為に規定されているのは以下の14の行為です(道路交通法施行令41条の3)。
・信号無視(法7条)
・遮断機が下りた踏切への立ち入り(法33条2項)
・安全運転義務違反(携帯電話の使用やイヤホンを装着しながらの運転、傘差し運転など)(法70条)
・一時停止違反(法43条)
・ブレーキ不良自転車の運転(法63条の9第1項)
・酒酔い運転(法65条1項)
・歩道での歩行者妨害(法63条の4第2項)
・通行区分違反(法17条1項、4項または6項)
・通行禁止違反(法8条1項)
・歩行者専用道路での車両の徐行違反(法9条)
・路側帯の歩行者通行妨害(法17条の2第2項)
・交差点での安全進行義務違反(法36条)
・交差点での優先道路通行車の妨害(法37条)
・環状交差点での安全進行義務違反(法37条の2)
これらの行為が違反だということ知っている人も、知らない人もいるでしょうが、どれも重大事故につながる危険性のある行為だということは、しっかり認識してほしいと思います。
ところで、警察庁の統計によれば、平成25年度の交通事故件数は573,465件で、そのうち自転車の事故は121,040件。
死亡者数は、4,373人のうち自転車によるものは603人です。詳しく見ていくと、自転車事故の類型でもっとも多いのが、車両同士の出会いがしらの衝突で約64,000件、以下、左折時の衝突と右折時の衝突が、それぞれ約15,000件となっています。
警察庁が平成24年に公表した「自転車の交通事故の実態と自転車の交通ルールの徹底方策の現状」によれば、自転車運転の交通違反による検挙数は平成16年の85件から、平成23年には約7倍の3,956件に急増。
もっとも多い違反は、平成23年では制動装置不良自転車運転で1,277件、次いで遮断踏切立ち入り、信号無視となっていて、自転車乗用中の死傷者のじつに3分の2が何らかの法令違反をしていたということです。交通事故全体の2割以上が自転車による事故という状況は改善していかなければならない問題でしょう。
また、自転車事故による高額賠償金の問題も忘れてはいけません。
自転車による死亡事故については以前、解説しました。
詳しい解説はこちら⇒
「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
https://taniharamakoto.com/archives/1648死亡事故では、9,000万円以上の高額賠償金が認められたケースもあります。
自転車の事故で9,000万円とは高すぎる! と思う人もいるかもしれませんが、被害者や家族にとっては人生を狂わされた慰謝料や今後働いて得られたはずの収入もあります。
寝たきりであれば、生涯にわたる介護費用の負担が莫大なものになることを考えれば、けっして高すぎる金額ではないことがわかるでしょう。こうした問題に対処するためには、保険制度の整備も急務です。
自転車には、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がないため、任意の自転車保険に加入するか、火災保険や自動車保険、傷害保険の「個人賠償責任補償」の特約をつけるなどして、個人で自衛することも大切です。
自転車は、大人から子供まで楽しめて、便利だからといって、ルールを無視していいわけではありません。
ましてや、人を傷つけてしまうことがあれば、被害者も加害者も双方の人生が台無しになってしまいます。取り返しがつかないことになる前に、まずは子供から大人まで、自転車の交通法規をしっかり学んで実践していくという自覚が望まれます。
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自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?
2014年09月28日自転車による死傷事故が続発しています。注意してください!
「自転車:女子高生が下り坂で衝突、歩行者が死亡 京都」(2014年9月18日 毎日新聞)
京都府の府道で17日午後7時10分ごろ、歩いて横断していた女性(79)が府立高校2年の女子生徒(16)が運転する自転車と衝突。
女性は頭を強く打ち、病院に救急搬送されたが約6時間後に急性硬膜下血腫などで死亡。
女子生徒も転倒し、あごの骨にひびが入るなどの重傷とのことです。府警によると、府道は西から東に向かう下り坂で、女子生徒はクラブ活動の帰りに坂を下っている途中で衝突したとみられ、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」と話しているようです。
府道は西から東に向かう下り坂。
散歩が日課の女性は当日、横断歩道や信号のない場所を横断していたようで、府警は女子生徒が前方をよく見ていなかった可能性もあるとして、重過失致死罪などの容疑で調べているとのことです。
「自転車同士が衝突 高齢の女性死亡、男子高校生重傷 旭川の歩道」(2014年9月16日 北海道新聞)
旭川市の道道の歩道上で、男子高校生(16)の自転車と、70代とみられる女性の自転車が正面衝突。女性は頭を強く打ち、脳挫傷のため搬送先の病院で約6時間後に死亡。
男子高校生は鼻の骨を折る重傷を負ったということです。道警によると、現場は道路の片側のみにある平たんな歩道で、歩道幅は約2メートル。
事故当時はすでに薄暗く、2人の自転車はともに無灯火だったとみられ、自転車のブレーキ痕はなかったということです。
以前、子供が起こした交通事故などの高額賠償金について解説しました。詳しい解説はこちら⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
https://taniharamakoto.com/archives/1217
交通事故の加害者には3つの責任が科せられます。
「刑事責任」「民事責任」「行政責任」です。京都府の事件を例にとると、刑事では「重過失致死罪」に問われ、民事では損害賠償が発生します。
法定刑は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。
重過失とは、どんな結果となるのか容易にわかる場合や著しい注意義務違反のために、起こる結果を予見・回避しなかったことをいいます。
また、未成年者の損害賠償責任について法的には、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。
「その能力」は、11~12歳くらいが境界線とされているので、今回の事故での女子生徒は16歳ですから本人が損害賠償をしなければいけません。
では、その金額は一体いくらになるでしょうか?
おおよその概算で計算してみます。今回のケースは、ご高齢の方でしたが、ご高齢の場合、条件次第で金額にばらつきが出てしまうので、ここでは、専業主婦の女性(30)が、自転車事故で死亡してしまった場合を計算します。
そうすると、なんと、概算で7,400万円もの賠償金を支払わなければならなくなります。
自転車の危険性を認識せず、注意を怠ってしまったばかりに、人を死亡させてしまったことで約7,400万円もの損害賠償金を支払わなければいけないのです。
現状、この女子生徒に支払い能力があるとは考えられないので、親が7,400万円もの損害賠償金を支払うことになるでしょう。
一般的な家庭にとっては大変な金額です。
簡単に支払えるものではないですね。仮に、この親が自己破産してしまった場合、被害者の女性の遺族は賠償金を回収できなくなってしまいます。
このブログでは何度も書いてきましたが、交通事故では被害者も加害者も、お互いが不幸な結果になってしまいます。
自転車は手軽で便利なものですが、一歩間違えば凶器にもなることを大人も子供も、今一度認識してほしいと思います。
また、交通事故は、ある日突然起きるものですから、まさかの時の備えとして自転車保険への加入などを検討するべきだと思います。
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子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?
2013年12月03日
過去、こんな相談を受けたことがあります。
「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。
それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。
一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。
怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。
C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。
単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?
A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」
子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。
学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。
学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。
ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。
そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?
考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。
ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。
そこで、A君の親は、どうでしょうか?
法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。
そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。
今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。
また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。
教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。
親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も
じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。
多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。
どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。
親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。
・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
<平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
<平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
<平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
<平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
<平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。
平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。
確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。
この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。
人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。
それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。
それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。
しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。
加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?
交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。
自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。
また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。
火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?
これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。
そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。