学校の柔道部の事故で慰謝料など約8000万円の損害賠償を命じた裁判例 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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学校の柔道部の事故で慰謝料など約8000万円の損害賠償を命じた裁判例

2018年06月08日

【事案の概要】

高校1年生の柔道部員だった生徒が、乱取り練習中に投げられて頭部を打ち、高次脳機能障害の交渉が残った事故で、顧問教諭の注意義務違反が認められて、学校法人に慰謝料など約8000万円の損害賠償が命じられた裁判例。
(広島地裁尾道支部平成27年8月20日判決)

学校の部活動における事故での学校法人の損害賠償責任

学校の部活動で生徒が怪我をして、後遺症が残ってしまった場合、その生徒には大きな損害が発生します。

生徒の怪我を未然に防止することができたような場合には、顧問教諭や学校法人に損害賠償を請求することができるでしょうか。

部活動は、顧問教諭の指導のもとに行うものです。

したがって、顧問教諭が適切に指導し、生徒の生命身体に危険が発生しないように注意を尽くせば、事故の発生を防止できる場合があります。

このような場合に、顧問教諭が注意義務を尽くさず、過失がある時は、顧問教諭に対し、慰謝料など損害賠償を請求できる可能性があります。

また、顧問教諭は学校法人の職員ということになりますので、学校法人は使用者として慰謝料など損害賠償責任を負担する可能性があります。

顧問教諭の監督指導義務に関しては、以下のような最高裁判決があります。

「部活動は、学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に生徒を指導監督し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務がある」

「ただし、課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務まで負うものではない」(最高裁昭和58年2月18日判決)

そして、柔道部の場合には、次のような注意義務を負うことになります。

●教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置をとり,部活動中の生徒を保護すべき注意義務を負う。

●技能を競い合う格闘形式の運動である柔道の練習には,本来的に一定の危険が内在しているから,柔道の指導,特に心身ともに発展途上にある高等学校の生徒に対する柔道の指導にあっては,その指導に当たる者は,柔道の練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために,常に安全面に十分な配慮をし,事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負う。

そして、顧問教諭の注意義務違反を判断するには、

・クラブ活動自体に内在する危険の程度

・生徒の年齢・体格・健康状態

・技能レベル

・環境

を考慮することになります。

本件の事案

●本件事故は、被害者が高校1年生として柔道部してから約3週間後に発生した。

●本件事故は、乱取り練習中に、内股をかけられ、頭から落ちて発生した。

●顧問教諭は、本件事故を知った後、すぐにその場に寝かせる等の処置をせず、水を飲みに行かせた。

●乱取り練習までに3日しか投げの練習をしていない。

本件のあてはめ

●柔道未経験者である被害者が14日目に乱取り練習にはじめて参加し、17日目に本件事故にあっているが、乱取り練習に耐えうるだけの受け身の技術を習得していたかどうか疑問。

●顧問教諭は自ら被害者に技をかけて受け身の習熟度を確認したことはなく、被害者が乱取り練習を無事にこなせるだけの受け身の技能を身につけているかどうかを慎重に吟味した形跡はない。

●顧問教諭としては、被害者が乱取り練習参加前に、より十分なかかり練習ないし打ち込み練習、約束練習や投げ込み練習をさせ、もって受け身や投げ技の技能をより向上させるべきであった。

以上より、顧問教諭には注意義務違反があるとされました。

学校法人の責任については、

●教育活動の一環として行われる部活動に参加する生徒に対し,安全を図り,特に心身に影響する事故発生の危険性を具体的に予見することが可能な場合には,事故の発生を未然に防止するために監視,指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務がある。

●学校法人がその雇用する顧問に対して適切な指導及び監督を行っていたとはいえず,事故の発生を未然に防止するために監視,指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務に違反したというべきであり、安全配慮義務違反として債務不履行ないし不法行為責任を負う。

そして、裁判所は、学校法人に対し、慰謝料など合計約8000万円の損害賠償を命じました。

このように、学校のクラブ活動(部活動)に起きた事故について、教師は、生徒達の身体に危険が生じないように配慮する注意義務があり、その注意義務を怠った場合には、慰謝料などの損害賠償責任が発生する場合があります。

学校もです。

もし、お子さんが学校の部活動中に事故に遭われた場合には、弁護士にご相談することをおすすめします。

ご相談は、こちらから。
弁護士による学校事故SOS