LINEで送るだけで脅迫罪?
古来、日本では言葉には霊的な力である「言霊(ことだま)」が宿っていると信じられてきました。
いい言葉を発すればいいことが、悪い言葉を発すれば悪いことが結果として現実に起きる、というものです。
そこで今回は、発する状況、内容によって言葉が犯罪になるという件について解説します。
「寝坊の彼女に立腹、LINEで“殺すぞ”脅迫容疑で少年逮捕」(2018年6月6日 神戸新聞)
兵庫県警加古川署は、交際相手の女子高校生(17)にスマートフォンの無料通信アプリ・LINE(ライン)で「殺すぞ」などとメッセージを送ったとして、加古川市に住むアルバイトの少年(17)を脅迫の疑いで逮捕しました。
事件が起きたのは、今年(2018年)6月5日午後1時50分頃。
少年は女子高生とデートの約束をしていたが連絡がつかず、午前11時頃、女子高生宅を訪問。
しかし、女子高生が出てこなかったため、少年は自宅に戻り、「お前ほんま殺すぞ」などと3回にわたってメッセージを送って脅迫。
同日、女子高生が母親とともに同署を訪れ被害届を出したということです。
2人は、2017年10月頃から交際を開始していたようで、少年は同署の調べに対し、「(デートに)寝坊した彼女に腹が立った」などと容疑を認めているということです。
まずは条文を見てみましょう。
「刑法」
第222条(脅迫)
1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
脅迫罪が成立する要件などについてまとめてみます。
・脅迫罪の保護法益(法によって保護される利益)は、個人の意思の自由です。
・脅迫とは、人の生命、財産、身体、名誉、自由などに対して「害悪の告知」を行なうことで成立します。
・害悪の告知の内容は、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでなければなりません。
・相手を畏怖させるためには、一般の人が「告知者が害悪の発生を現実に左右できると」と感じる程度のものでなければなりません。
・ただし、相手が現実に恐怖心を感じるかどうかは問いません。
・脅迫罪は相手に危害を加えることを告げるだけで成立します。
・その方法は、口頭で直接伝えるだけでなく、文章などの書面や態度でもよいとされます。
・相手が知ることができれば、直接ではなく間接的な手段でも成立します。
・危害を加えることを告げて、相手に義務のないことを行なわせた場合は強要罪になります。
詳しい解説はこちら⇒「強要罪と脅迫罪の違いとは?」
たとえば、「死ね」や「許さない」と口頭で伝えたり、LINEで送ったのであれば、一般的に人を畏怖させるに足りる程度、とは言えないでしょう。
また、「地獄に落ちろ」などと言われても、地獄が実際にあるかどうか証明できないですし、告知者に相手を地獄に落とす力があるとは判断されない可能性が高いでしょう。
しかし、両者の関係性や価値観によっては、人を畏怖させるに足りる程度になる可能性もあります。
たとえば、過去の判例には次のようなものがあります。
祈祷師が祈祷を信仰している者に対して、神の力で加害する旨の告知をするのは畏怖させるに足りる程度の害悪の告知だと認められた。
(最決昭31・11・20集10-11-1542)
宗教者や祈祷師、呪術者などのような人物が、それを信仰している信者などに対して、「地獄に落としてやる」、「呪ってやる」などと告知した場合は脅迫罪が成立する可能性があるということです。
ちなみに、これまで脅迫罪で報道されたものでは次のような事件がありました。
・自民党の衆院議員のツイッターに、娘に危害を加える書き込みをした
・女性が経営するゲームセンターの敷地に、釘が打たれたわら人形を置き、「お前もこんな目にあわせるぞ」というメッセージを伝えた。
・任意で取り調べをしていた30代男性に対して、捜査員が「殴るぞお前、なめとったらあかんぞ」、「お前の人生むちゃくちゃにしたるわ」と暴言を吐いた。
・自衛隊員(20)が交際していた少女の裸を撮影し、その写真を少女に送って「殺しに行く」、「ネット上に写真を載せるぞ」とうメールを約80回送信した。
・暴力団の組員が別の暴力団の組長を、弾の出ないおもちゃの銃で脅した。
今回は一時の感情で送ってしまったものでしょう。
あおり運転なども同じですが、感情に振り回されると、思わぬところで犯罪が成立することがあります。
気をつけたいものです。
「怒りを覚えたら十数えよ。 それでも怒りがおさまらなかったら、. 百まで数えよ。 それでもだめなら千まで数えよ。」(トーマス・ジェファーソン)