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危険運転致死傷罪を考える

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2012年2月12日

危険運転致死傷罪について、改めて解説します。

危険運転致死傷罪は、平成13年11月28日に、第153回国会において成立し、12月5日に公布され、12月25日に施行されたものです。

【条文】


刑法第208条の2
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。



今は、傷害の場合に最高15年以下の懲役、死亡の場合に最高20年以下の懲役となっていますが、この条文ができた時は、傷害の場合に最高10年以下の懲役、死亡の場合に最高15年以下の懲役でした。

平成17年1月1日施行の改正法により、罰則が引き上げられたものです。

また、当初は、「四輪以上の自動車」と限定されていましたが、平成19年6月12日施行改正法により、原動機付自転車や自動二輪車による事故にも適用されるようになりました。

【成立の背景】

この罪ができる前は、自動車事故の加害者は、全て業務上過失致死傷罪で罰せられていました。

刑法211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。


そんな中、平成11年11月28日、東京都世田谷区の東名高速道路東京IC付近で、飲酒運転のトラックが、風と3歳・1歳の2女児の3名が同乗する普通乗用自動車に追突。

また、平成12年4月に神奈川県座間市の座間南林間線小池大橋で、無免許、無車検、無保険、かつ飲酒運転で、検問から猛スピードで逃走していた建設作業員の男性が運転する自動車が歩道に突っ込み、歩道を歩いていた大学生2名を死亡させた事件が発生しました。

その後、危険な運転による自動車事故に、最高5年の懲役しか科せないとは不合理であるとのことで、署名運動が行われ、平成13年10月に法務大臣へ最後の署名簿を提出した時には合計で37万4,339名の署名が集まったそうです。

そのようなことを受け、危険運転致死傷罪が創設されました。


【法的な性質】

平成19年6月12日施行の改正刑法により、新たに「自動車運転過失致死傷罪」が創設され、最高7年以下の懲役が定められ、過失による自動車事故は、この条文により処罰されることになりました。

刑法第211条2項
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。


危険運転致死傷罪は、傷害の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役ですから、自動車運転過失致死傷罪の法廷刑よりも格段に重い処罰となっています。

その理由は、危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者が過失ではなく、故意に危険運転行為を行ったことにあります。つまり、通常の自動車運転過失致死傷罪は、脇見運転や一時停止義務違反など、過失犯です。

ところが、危険運転致死傷罪では、次の5つの、特に危険な運転行為を故意に行ったことが必要になるのです。

1)アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行

2)進行を制御することが困難高速度で走行

3)進行を制御する技能を有しないで走行

4)人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

5)赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転


上記の5つのいずれかに当てはまる行為をし、その結果、事故が起こった場合には、危険運転致死傷罪が成立します。

その意味で、危険運転致死傷罪は、「結果的加重犯」と言われています。


【要件の検討】

「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」

「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことです。

飲酒などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言います。


「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らない、目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定されます。


正常な運転が困難であったことについては、検察側が立証しなければなりません。そこで、飲酒運転により人身事故を起こしてしまった運転者は、飲酒の発覚をおそれ、逃走(ひき逃げ)をしてしまうケースが出てまいりました。そして、後刻、あるいは後日逮捕されたとしても、すでにアルコールが抜けており、アルコールの影響により、「事故当時」正常な運転が困難であったことの立証が困難となってしまうのです。

そうなると、自動車運転過失致死傷罪とひき逃げで立件せざるを得ません。

この場合、両者は併合罪となり、最大15年以下の懲役刑です。

危険運転致死傷罪の最大20年よりも軽い刑罰となります。

そこで、飲酒をして事故を起こした加害者は、危険運転致死傷罪になるのを免れるため、現場から逃走してしまう、という行為が行われるのです。

これが、いわゆる「逃げ得」の問題です。

この点は、立法により解決するしかないと考えています。


「進行を制御することが困難な高速度」


「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難状態で自動車を走行させることです。

これは、具体的に「●●キロ」と決まっているのではなく、具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってきますし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。


「進行を制御する技能を有しない」

「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドルやブレーキ等を捜査する初歩的な技能すら有しない場合が想定されています。

運転免許の有無は関係ありません。

たとえ、運転免許がなくても、普段無免許を繰り返しており、運転技術がある場合には、この要件には当てはまりません。


「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度」


「通行を妨害する目的」というのは、「相手を走行させない」という意味ではなく、逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の安全運転を妨害する目的を言います。

相手が自車との衝突を避けるため急な回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものです。

「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言います。

20~30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件に当たると解釈されています。


「赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度」

「これに相当する信号」とは、赤信号と同様の効力を持つ信号のことで、警察官の手信号のようなものを指します。

「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、やはり20~30キロ程度出ていれば、要件に当たるでしょう。

その程度の速度でも、赤信号を無視して交差点に侵入されば、重大な事故が発生しやすいためです。


【最後に】

「危険運転致死傷罪」は、まだ自動車事故の最高刑が、「業務上過失致死傷罪」の5年だった当時に創設されたものであり、当時としては、特に危険な類型を抜き出したものです。

しかし、その後、まだまだ危険で重大な事故も発生しています。

たとえば、薬を飲まなければ、発作が起こる確率が高く、その状態で運転すれば重大な事故につながるかもしれないことがわかっていながら、薬を飲まずに運転し、発作が起こって人を轢いてしまった場合、危険運転致死傷罪の要件に当てはまりません。

アルコールや薬物の影響で「正常な運転ができない」場合と何が異なるでしょうか。

また、1つ1つの要件は満たさないが、いくつもの危険行為が重なっている場合、危険運転致死傷罪は成立しません。

危険運転致死傷罪が創設されてから、すでに10年以上が経過しています。

ここでもう一度検討し直す時期に来ているかもしれません。

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