犬も歩けば賠償金を払う | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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犬も歩けば賠償金を払う

2014年03月09日


犬と人間のつきあいは古く、今から1万5千年ほど前の旧石器時代にまで遡るといいます。

東アジアから中央アジアあたりで、オオカミから分化したと推定される犬は、徐々に家畜化していき、世界中に広まっていったというのが定説のようです。

このころ、日本列島でも人間と犬の関係が始まったようで、歴史は下り、縄文時代後期~晩期のものと考えられる、愛知県田原市の吉胡(よしご)貝塚では、乳児と子犬が一緒に埋葬されている骨が2007年に発掘されています。

縄文時代後期~晩期といえば、紀元前1000年あたり。少なくとも、今から3000年以上前には縄文人たちが犬といっしょに暮していたようです。

それほど長い人間と犬の関係ですが、最近、犬好きの人にはショックな事件や判決が多発しています。

「高松:中型犬が登校中児童4人かみつき、1人重傷3人軽傷」(2014年3月7日 毎日新聞)
2014年3月7日、香川県高松市の路上で、登校中の児童4人が次々と犬にかみつかれ、2年生の男児が両足と左腕などをかまれ重傷。現場から逃げ去った中型犬は首輪をしていた。

「犬に襲われ死亡…飼い主に5433万円賠償命令」(2014年3月7日 読売新聞)
2011年8月、山梨県北杜市で、犬に襲われて転倒し脳挫傷で女性(当時56歳)が死亡。遺族が犬の飼い主の男性(71)を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、甲府地裁は6日、飼い主に慰謝料など計約5433万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

「愛犬かみ殺され、賠償訴訟 地裁足利支部」(2014年3月7日 下野新聞)
栃木県足利市で2013年、近所の飼い犬に愛犬をかみ殺されたとして、飼い主の60代の母親と30代の娘が、かみついた飼い犬の30代女性に慰謝料など約540万円の損害賠償を求めていた裁判の第1回口頭弁論が、6日開かれた。訴状などによると、2012年6月、原告の親子が当時住んでいた足利市内でトイプードルを抱いていたところ、近くの庭で放し飼いにされていた中型犬のボーダーコリーが飛びかかり、母親は転倒して肋骨を折るなど約2カ月間のけがをした。翌年2月、犬の散歩から帰宅した母親にボーダーコリーが再び飛びつき、トイプードルをかみ殺したという。原告側は「家族同様の犬を失った精神的苦痛は大きい」として、親子2人の慰謝料380万円と治療費などを請求している。一方、被告側は請求の棄却を求める答弁書を提出、争う構えをみせている。

以前、このブログでも、俳優の反町隆史さんと松嶋奈々子さん夫妻の愛犬が隣人をかんだ事件を取り上げましたが、
https://taniharamakoto.com/archives/1181
飼い犬の管理は、飼い主の責任です。

飼い主が損害賠償責任を負います。

飼い犬が起こした事故というと、「かまれた」ことを想像する人が多いと思いますが、必ずしも、かまれなくても損害賠償請求は可能です。

今年1月、以下のような判決が出されています。

2008年1月、男性が原付バイクで走行中、前方から中型犬が近づいてきたため、避けようとしが接触し転倒。左足を骨折した男性が飼い主の女性に対して治療費など損害賠償を求めた裁判で、福岡地裁は「女性は管理義務を怠った過失がある」として、約1500万円の支払いを命じた。
(2014年1月17日 読売新聞)

「うちの犬は噛まないから大丈夫」という飼い主の言い分は通用しないということですね。

飼い犬が第三者に与えた損害は、飼い主が賠償しなければなりません。

先の例のように、約5433万円もの賠償命令が出されたら、払える人がどれだけいるでしょうか?

破産するしかありませんね。

でも、破産したら、噛まれた人は、どうなるでしょう?

ひどい怪我を負って治療費もかかり、後遺症も残って、お金を払ってもらえないとしたら?

そんな事態は避けなければなりません。

さらにこわいこともあります。

さらに、前出の高松市の事件では、刑法上、飼い主は「重過失傷害罪」に問われる可能性があります。

重過失とは、重大な過失のことで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

重過失と認められた過去の判例としては、闘犬用の犬2頭を農作業中に放し飼いにしていたところ、犬が隣接する公園で幼女2名を襲い、うち1名を死亡させ、他の1名に傷害を負わせた事案があります。(那覇地沖縄支判平7・10・31判時1571-153)

飼い主が、飼い犬の行為で刑罰を受ける可能性がある、ということです!

「可愛い子には旅をさせよ」と言いますが、可愛い愛犬には、決して旅をさせてはいけません。

「犬も歩けば賠償金を払う」のです。

きちんと鎖でつなぎ、決して他人に危害を与えないようしっかり管理しておくことが、愛犬を、そして飼い主を守ることになる、ということを肝に銘じておきましょう。