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  • 関越道スキーツアーバス事故の補償・賠償・罰則は?

    2016年01月16日

    ツアーバス(スキーバス)事故がありました。

    死者14名、負傷者27名という大惨事です。

    事件は、2016年1月15日午前2時ごろ、長野県軽井沢町の国道18号の碓氷バイパス入山峠付近で起こりました。

    スキー客を乗せたツアーバスが、対向車線にはみ出して反対車線側にあるガードレールを突き破り、約3メートル下の斜面に転落しました。

    警察は、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷罪)の疑いで捜査しているということです。

    つまり、自動車を運転する際に、過失によって人の死傷という結果を起こしたということです。

    この過失運転致死傷罪が適用された場合の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

    何人死亡しようとも、これが上限となります。

    ここには批判もあるところです。

    ただ、今回は運転手が死亡しているところから、バス運行会社の責任はないのか、という議論が出てくると思います。

    まだ原因は究明されていませんが、仮に、運転手が過労状態であったのに、運転させていた、というような場合には、バスの運行会社にも刑事責任が発生する場合があります。

    道路交通法117条の2第5号は、過労運転で正常な運転ができない状態で運転を命じた場合(過労運転下命)には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科す、としています。

    過去の事例では、高速道路で仮眠状態のトラックが渋滞で停車中の自動車に追突し、6名の死傷者が出た事件で、この罪の問われ、営業所長に懲役2年執行猶予4年、運行管理者に懲役1年執行猶予3年の刑罰が科せられた事件がありました(大阪地裁平成26年3月19日判決)。

    そして、このとき、運送会社も労働基準法違反(36協定以上の長時間労働)に問われ、罰金50万円が科せられています。

    今回は、まだ捜査中ですが、このような可能性もある、ということです。

    また、国交省も調査をしていると思いますので、バス運行会社には、しかるべき行政処分が発せられる可能性もあります。

    さらに、今回の事故の被害にあった被害者およびご遺族は、今回の事故に責任がある者に対し、民事の損害賠償請求をしてゆく権利があります。

    損害賠償の対象となる可能性があるのは、運転手の遺族、バス運行会社、バス運行会社の役員、ツアー会社等です。

    たとえば20歳の男子大学生の場合には、賠償金は概算8000万円くらいにはなるので、今回の全ての賠償金総額は、相当の金額になるでしょう。

    バス運行会社が無制限の任意保険に入っていればよいのですが、入っていない場合には大変なことになってしまいます。

    徹底した原因究明を望むとともに、バス運行会社の業界全体も、運行管理について改めて見直す契機になって欲しいと思います。

    交通事故の相談は、こちらから。
    http://www.jiko-sos.jp/

  • 学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】

    2015年10月01日

    オリンピックの競技にもなっている柔道は日本で生まれた武道であることは、みなさんもご存知でしょう。

    歴史を紐解けば、そもそもは12世紀以降に武士たちの合戦で用いられた武芸の中から江戸時代に「柔術」として発展。
    時は下り、明治期に学習院の講師だった嘉納治五郎が各技を整理、体系化して「柔道」と名付け、1882(明治15)年に講道館を創設。
    その後、競技としての柔道が普及していったようです。

    学校教育に導入されたのは、1950(昭和25)年からで、現在では全国の中学校で必修、高校の多くでも必修科目となっており、部活動も盛んに行われています。
    しかし、柔道による生徒の事故が後を絶たないという問題も指摘されています。

    今回は、子供を持つ親が心配な学校での事故に関する損害賠償問題について解説します。

    「柔道練習で後遺症、学校側に8150万賠償命令」(2015年8月20日 読売新聞)

    2009年、広島県尾道市の私立尾道高校で、柔道部の練習中に頭を打ち、高次脳機能障害などの重い後遺症が残ったとして当時1年の男性(21)と両親が同校を運営する尾道学園に計約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決がありました。

    裁判官は、「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」として、同学園に計約8150万円の支払いを命じたようです。

    判決によると、男性は2009年4月に入部。
    翌年5月の練習中に乱取りをしていて、頭を畳に強打。
    急性硬膜下血腫などで、記憶障害や言語障害などの高次脳機能障害や視野狭窄が残ったということです。
    【学校での子供の死傷事故では給付金が支払われる】
    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、通常の場合、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    ここで重要なのは、「学校(保育所)の管理下」ということです。
    授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中は、学校の管理下になります。

    しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いものです。
    その場合、被害者や親は誰に請求すればいいのでしょうか?
    【学校には代理監督者責任と使用者責任がある】
    被害者や親は、学校に損害賠償請求することができます。

    なぜなら、法律的には、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があるからです。

    また、教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

    その場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    「国家賠償法」
    第1条
    1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    なお、損害賠償請求に関しては第709条が適用されます。

    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    【柔道では脳への重度の障害が残る事故が多いという事実】
    日本スポーツ振興センターにおける災害共済給付のデータによると、平成10~21年度の集計では、中学・高校での体育の授業、および運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数は以下のようになっています。

    「中学・高校での体育の授業における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・陸上競技/87人
    ・水泳/24人
    ・バスケットボール/17人
    ・サッカー/16人
    ・器械体操等/10人
    ・柔道/9人
    ・バレーボール/8人
    「中学・高校での運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・柔道/50人
    ・野球/35人
    ・バスケットボール/33人
    ・ラグビー/31人
    ・サッカー/26人
    ・陸上競技/19人
    ・バレーボール/14人
    ・テニス/14人
    柔道の体育の授業での安全管理については一定の成果が出ているようですが、部活動での死傷事故の件数はもっとも多くなっています。

    特に柔道の場合、受け身が上手くできなかったことによる頭部や頸部へのケガが多く、一生涯介護を要するような重度の後遺症を負うこともあります。

    交通事故の被害者の場合でもそうですが、頭部の場合、外傷はなくても激しく揺さぶられることで内部の脳自体への損傷や出血が起きることがあります。
    そうした場合、重篤な障害が残るというケースが多いのです。

    もちろん、柔道を悪者にするわけではありませんが、やはり武術ですから相応の危険性があるのは当然でしょう。
    今後、国には、学校でのスポーツによる子供の事故例の分析、原因の究明、予防対策等をしっかりお願いしたいと思います。

    また、運動会や体育祭の組み体操でピラミッドが崩れ、生徒が重軽傷を負う事故も起こっています。
    学校側は十分な注意が必要です。

    関連記事 http://news.yahoo.co.jp/pickup/6176079

    なお、あってはならないことですが、万が一の事故の場合の損害賠償請求では専門的な知識が必要となりますので、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • セクハラの賠償金が1300万円!?

    2015年01月22日

    昨年11月、あるセクハラ裁判で異例の高額賠償金による和解が成立していたことがわかりました。

    「“数字未達なら彼女になれ” アデランス、社内セクハラ1300万円で和解」(2015年1月20日 産経新聞)

    かつら製造・販売の最大手「アデランス」の兵庫県内の店舗に勤務していた元従業員の女性が、大阪市内の店舗の店長だった男性従業員から繰り返しセクハラを受けて心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、退職を余儀なくされたとして同社に計約2700万円の損害賠償を求めた訴訟で、同社が女性に解決金1300万円を支払うなどの内容で2014年11月28日、和解していたことがわかりました。

    報道によると、女性が兵庫県内で勤務していた2008年3月、大阪市内の店舗の店長だった男性従業員が指導目的で来店。
    「数字を達成できなかったら彼女になるか、研修もしくは転勤だ」と脅すなどし、無理やりキスをしようとしたり、体を触ったりするセクハラを繰り返したようです。

    女性が被害届を出そうとしたところ、同社の幹部から止められ精神的に不安定になり休職し、2010年1月にはPTSDと診断。
    同社は、いったん女性を特別休暇扱いとし、その後に給与の支払いを停止。女性は2011年9月に退職したということです。

    和解の内容は、会社が女性に和解金1300万円を支払う他、①同社は解決金の半額650万円について男性従業員に負担を求める、②男性従業員の在職期間中、原告が居住する京阪神地域を勤務地や出張先にしないよう努める、などとなっているようです。

    なお、このセクハラについては地元の労働基準監督署が労災認定し、休業補償給付などの支給を決定しているとのことです。
    会社がセクハラをした役員や社員を処分するのは当然ですが、セクハラに対する対応を間違ってしまうと、大変なことになってしまいます。
    では、どのような対応をとればいいのでしょうか?

    「男女雇用機会均等法」には、事業主がセクハラ対策として講ずるべき措置等が定められています。
    主なものは以下の通りです。

    〇事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること。
    〇相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること。
    〇相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正に対処すること。
    〇相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

    また、セクハラとなる言動には以下のようなものがあげられます。

    〇性的な事実関係を尋ねること
    〇性的な内容の情報を意図的に流布すること
    〇性的な冗談やからかい
    〇食事・デートなどへの執拗な誘い
    〇個人的な性的体験談を話すこと
    〇性的な関係を強要すること
    〇必要なく身体に触ること
    〇わいせつな図画(ヌードポスターなど)を配布、掲示すること
    〇強制わいせつ行為、強姦等

    事業者が上記のような講ずべき措置を怠った場合は、厚生労働大臣の行政指導(男女雇用機会均等法29条)の対象となるほか、勧告に従わなかった場合の企業名の公表(男女雇用機会均等法30条)、都道府県労働局長による紛争解決の援助の対象となる(男女雇用機会均等法16条)とされています。

    また、民事訴訟になってしまうと、被害者である社員は今回のように会社に対して責任の追及と賠償請求をすることができます。

    ちなみに、被害者の訴えによりセクハラが刑事事件になれば、行為者(加害者)は、傷害罪(刑法第204条)、強要罪(刑法第223条)、名誉棄損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)、場合によっては、暴行罪や強制わいせつ罪、強姦罪などに問われる可能性があります。

    さて、これらを踏まえ、社内でセクハラ問題があったときは、まず事業主の方は以下の3点について検討することが重要です
    ①職場において行われたものか
    ②労働者(被害者)の意に反するものか
    ③行われた言動が性的なものかどうか

    ただし、内容が内容だけに、慎重に事実確認を行う必要があります。

    まずは、被害者から事情聴取をすることになりますが、女性が被害者の場合には、女性上司が事情聴取するなど、精神的な配慮が必要となります。

    その後、加害者とされる社員から事情聴取をします。

    ここで事実関係が十分に認定できない場合には、他の社員などへの事情聴取となりますが、この事情聴取が原因で社内で情報が拡散し、被害者の精神的被害が拡大してしまうおそれがありますので、第三者への事情聴取については慎重な判断が必要です。

    そして、セクハラがあったことが確認できた時は、被害者の気持ちに配慮した人事的な措置を行うとともに、加害者に対する懲戒処分を検討することになります。

    あわせて、社内での再発防止措置を講ずる必要もあるでしょう。

    対応を間違うと、使用者責任で損害賠償金を負担しなければいけなくなります。

    従業員がやった行為なのに、会社が責任を問われるわけですね。
    「現場で起こったことだから」、「現場に任せていた」、は通用しないのです。

    日本はアメリカのような訴訟社会ではないですが、今後は労働問題に関する紛争が増え、より多様化・複雑化していく可能性があります。
    また、損害賠償金も高額化していく可能性もあります。

    今まで築いてきた会社の信頼や信用、また高額賠償金を失うことのないように、経営者の方は社内体制を整え、備えておく必要があるでしょう。

    労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/

     

  • 自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?

    2014年09月28日

    自転車による死傷事故が続発しています。注意してください!

    「自転車:女子高生が下り坂で衝突、歩行者が死亡 京都」(2014年9月18日 毎日新聞)

    京都府の府道で17日午後7時10分ごろ、歩いて横断していた女性(79)が府立高校2年の女子生徒(16)が運転する自転車と衝突。

    女性は頭を強く打ち、病院に救急搬送されたが約6時間後に急性硬膜下血腫などで死亡。
    女子生徒も転倒し、あごの骨にひびが入るなどの重傷とのことです。

    府警によると、府道は西から東に向かう下り坂で、女子生徒はクラブ活動の帰りに坂を下っている途中で衝突したとみられ、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」と話しているようです。

    府道は西から東に向かう下り坂。
    散歩が日課の女性は当日、横断歩道や信号のない場所を横断していたようで、府警は女子生徒が前方をよく見ていなかった可能性もあるとして、重過失致死罪などの容疑で調べているとのことです。
    「自転車同士が衝突 高齢の女性死亡、男子高校生重傷 旭川の歩道」(2014年9月16日 北海道新聞)
    旭川市の道道の歩道上で、男子高校生(16)の自転車と、70代とみられる女性の自転車が正面衝突。

    女性は頭を強く打ち、脳挫傷のため搬送先の病院で約6時間後に死亡。
    男子高校生は鼻の骨を折る重傷を負ったということです。

    道警によると、現場は道路の片側のみにある平たんな歩道で、歩道幅は約2メートル。
    事故当時はすでに薄暗く、2人の自転車はともに無灯火だったとみられ、自転車のブレーキ痕はなかったということです。
    以前、子供が起こした交通事故などの高額賠償金について解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
    http://taniharamakoto.com/archives/1217
    交通事故の加害者には3つの責任が科せられます。
    「刑事責任」「民事責任」「行政責任」です。

    京都府の事件を例にとると、刑事では「重過失致死罪」に問われ、民事では損害賠償が発生します。

    法定刑は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

    重過失とは、どんな結果となるのか容易にわかる場合や著しい注意義務違反のために、起こる結果を予見・回避しなかったことをいいます。

    また、未成年者の損害賠償責任について法的には、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    「その能力」は、11~12歳くらいが境界線とされているので、今回の事故での女子生徒は16歳ですから本人が損害賠償をしなければいけません。

    では、その金額は一体いくらになるでしょうか?
    おおよその概算で計算してみます。

    今回のケースは、ご高齢の方でしたが、ご高齢の場合、条件次第で金額にばらつきが出てしまうので、ここでは、専業主婦の女性(30)が、自転車事故で死亡してしまった場合を計算します。

    そうすると、なんと、概算で7,400万円もの賠償金を支払わなければならなくなります。

    自転車の危険性を認識せず、注意を怠ってしまったばかりに、人を死亡させてしまったことで約7,400万円もの損害賠償金を支払わなければいけないのです。

    現状、この女子生徒に支払い能力があるとは考えられないので、親が7,400万円もの損害賠償金を支払うことになるでしょう。

    一般的な家庭にとっては大変な金額です。
    簡単に支払えるものではないですね。

    仮に、この親が自己破産してしまった場合、被害者の女性の遺族は賠償金を回収できなくなってしまいます。

    このブログでは何度も書いてきましたが、交通事故では被害者も加害者も、お互いが不幸な結果になってしまいます。

    自転車は手軽で便利なものですが、一歩間違えば凶器にもなることを大人も子供も、今一度認識してほしいと思います。

    また、交通事故は、ある日突然起きるものですから、まさかの時の備えとして自転車保険への加入などを検討するべきだと思います。

  • 鉄道事故の賠償金は、いくら?

    2014年05月01日

    2013年に厚生労働省が発表した「平成24年簡易生命表」によると、日本人男性の平均寿命は79.94歳で世界第5位、女性は86.41歳で世界第1位だそうです。

     

    寿命が延びることは、もちろんよろこばしいことですが、こちらを立てれば、あちらが立たぬというように、同時にさまざまな問題が生まれてくるのが人間社会です。健康問題も、そのひとつでしょう。

     

    昨年、厚生労働省の研究班の調査でわかったのは、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推計15%、約462万人。発症の可能性のある400万人も含めると、4人に1人が認知症とその予備軍だということです。

     

    認知症の症状には、記憶障害や見当識障害の他に徘徊があります。介護をする人にとっては大変な問題です。

     

    有吉佐和子の「恍惚の人」は、徘徊をはじめとして、認知症の高齢者介護の大変さが描かれたベストセラー作品です。

     

    警察庁の発表によると、2012年には認知症が原因で行方不明になったとの届け出が9607人分あり、そのうち231人は12年中に発見できず、13年に入ってから見つかったのは53人。死亡者は359人となっています。

     

    こうした問題を背景に、近年、増加する認知症高齢者の徘徊による痛ましい鉄道事故の損害賠償に関する判決が出されました。

     

    「認知症で徘徊 JR東海事故 高裁も妻に賠償命令」(東京新聞)

     

    愛知県大府市で2007年12月、徘徊症状がある認知症の男性(91)がJR東海の電車にはねられ死亡する事故が発生。

     

    同社が遺族に対して損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は、「見守りを怠った」などとして、男性の妻(91)に359万円の支払いを命じました。

     

    認知症で、要介護4の認定を受けていた男性は、妻と近所に住む長男の妻が少し目を離した隙に家を出て徘徊。JRの駅構内に進入して電車にはねられたようです。

     

    昨年の一審判決では、妻と長男(61)にJR側の請求通り720万円の支払いを認定。

     

    しかし、二審では「JR側の駅利用客への監視が十分で、ホームのフェンス扉が施錠されていれば事故を防げたと推認される事情もある」、「妻は、男性の監督義務者の地位にあり行動把握の必要があった」とした上で、「男性が線路に入り込むことまで妻が具体的に予見するのは困難」として減額しました。

     

    一審判決の後、介護関係者などからは、「認知症患者の閉じ込めになる」などの批判が続出。

     

    二審の判決後、遺族側の代理人は、「高齢ながら、できる限り介護をしていた妻に責任があるとされたのは残念。不備があれば責任を問われることはあり得るのだろうが、家族が常に責任と隣り合わせになれば在宅介護は立ちゆかなくなってしまう」とのコメントを発表しました。

     

    価値観の問題や在宅介護の政策の問題は別として、今回の判決は、法律的に見ていくと、どのような判断だったのでしょうか? 条文から解説していきます。

     

    報道からだけでは詳細は分かりませんが、民法709条の「不法行為に基づく損害賠償請求」、あるいは民法714条の「責任無能力者の監督義務者の責任」を適用したものと考えられます。

     

    「民法」第709条(不法行為による損害賠償)

    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

     

     

    「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)

    1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

     

     

    第714条では、自分の行為の是非善悪の判断ができない者(責任無能力者)を監督する法定の義務ある者の不法行為責任を定めています。

     

    今回の事故で亡くなった認知症老人に成年後見人がついていれば「法定の義務ある者」となりますが、そうでなければ、本件は第714条の問題ではなく、第709条の問題となります。

    第709条では、認知症老人の監督は法律上当然に認められる監督義務ではなく、条理などにより認められる義務となります。

     

    同居して生活の世話をしていた妻が、夫を放置しておくと、一人で外出徘徊し、今回のような事故を起こすことが予見できたのに、これを回避しなかったために「過失」の責任を問われた、という判断になったと考えられます。

    ちなみに、同様の事故では家族らが支払いに応じるなどして和解する事例が多く、訴訟に至るのは珍しいケースだということです。

    ところで、国土交通省の発表によると、平成24年度に発生した鉄道事故は811件あり、そのうち死亡者数は295人。この中には認知症の人以外に自殺者も含まれているでしょう。

    事故が起きると、鉄道各社は通常、走らせるべき電車を走らせることができなくなったために被った損害、たとえば乗車券や定期券の払い戻し代、振替輸送の費用、乗客対応の人件費などを合わせた損害額を本人や家族側に請求します。場合によっては、列車の運休による機会損失費、設備の修理費などが含まれることもあります。

    列車に飛び込み自殺をすると、数億円の請求がくる、という都市伝説がありますが、今回は、720万円。地方都市での一応の目安にはなるでしょう。

    大都市圏で乗客数が多いと、賠償額が数千万円に跳ね上がることが予想されます。

    ところで、本人が亡くなっている場合は、その相続人(家族や親族等)が負債を相続することになります。

    つまり、自殺をすると、残された親族が多額の賠償請求をされる可能性があるわけです。

    自殺は、残された大切な家族にも多大な迷惑をかけてしまうことを考えれば、けっして自己決定だけの問題ではありません。

    人生においては、誰しも試練にさらされることがあります。しかし、自殺は何の問題解決にもなりません。家族の人生を不幸に変えてしまうだけです。

    最後に、ドイツの哲学者・思想家である、アルトゥル・ショーペンハウアーの言葉を紹介します。

    「船というのは、荷物をたくさん積んでいないと不安定でうまく進めない。同じように人生も、心配や苦痛、苦労を背負っている方がうまく進めるものである」

    「自分の幸せを数えたら、あなたはすぐに幸せになれる」

     

    今日は、あなたがこれまでに経験した幸せの数、今、ある幸せの数を数えて過ごしてみませんか?

     

    きっと、感謝の気持ちに溢れてくることでしょう。

  • 自転車事故の少年の母親に9500万円の賠償判決

    2013年06月20日


    平成20年9月22日午後6時50分ごろ、神戸市の住宅街の坂道で自転車事故が起きました。

    当時11歳だった少年は自転車で坂を下っていたが、知人と散歩していた女性に気づかず、衝突し、頭を強打。意識は戻らず、4年以上が過ぎた今も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    そこで、母親の家族と保険会社が提訴。

    先日、神戸地裁は、少年の母親に、被害者の女性側へ約3500万円、女性に保険金を払った保険会社へ約6000万円の合計約9500万円の賠償を命じました。

    賠償を命じられた母親は、控訴したそうです。

    この判決をめぐって、ネット上では議論が広がっています。

    疑問を解消しましょう。

    ●なぜ、自転車の事故で9500万円もの賠償が命じられるのですか?車とは違うと思いますが・・・

    確かに金額だけを見れば、多額の賠償額に驚くかもしれません。
    しかし、被害者から見たら、どうでしょうか。

    ・被害者は、今後働いて得る収入がなくなります。(逸失利益)

    ・被害者は、寝たきりですので、生涯介護が必要です。その介護費用は、誰が負担すべきでしょうか?

    ・被害者が寝たきりになったことによる精神的苦痛は、誰が負担すべきでしょうか?

    このように考えると、9500万円という金額は、これまでの判例の計算式から考えても特段珍しいことではありません。

    金額の調整は、「過失相殺」で行われます。

    今回の被害者が気をつければ、この事故を避けられたか、そこに被害者側の過失があれば、金額が少なくなることになります。

    今回の事故の詳しい状況がわからないので、過失相殺の妥当性については検証できません。

    ●なぜ、被害者よりも、保険会社の取り分が多いのですか?

    これも事案がわからないので、はっきりとは言えませんが、この保険会社は、被害者側がかけていた保険で、保険金として、被害者側に対して約6000万円を支払ったのだと思います。

    その場合、本来被害者が加害者に対して請求できる損害賠償金のうち、6000万円を代わりに支払ったと考えて、保険会社が、被害者が持っている損害賠償請求権を代わりに行使できるような契約になっているのです。

    そして、保険会社から支払ってもらった保険金では、全ての損害が填補されなかったので、被害者側も訴えて、その結果、不足分の約3500万円が認められたのだと思います。

    ●なぜ、少年ではなく、母親に賠償命令がなされたのですか?

    法律では、未成年者の場合、自分の行為の是非善悪を判断する能力がなければ、不法行為に基づく賠償責任を負わないとされています。

    そして、その場合には、親などの監督義務者が監督義務を果たしたことを立証しない限り、損害賠償義務を負う、ということになっています。

    その是非善悪を判断する能力は、何歳から認められるのか、ということですが、決まりはありません。個別事情によって判断されます。

    過去の例では、11歳11ヶ月で責任能力を認められた例、12歳2ヶ月で責任能力が否定された例などがあります。

    今回の加害者少年は、事故当時11歳ということで微妙な境界線上ですが、おそらく責任能力が否定され、監督義務者である母親に認められた、ということでしょうか。
    (この点も判決を読んでいないので定かではありません)


    今回、約9500万円の賠償命令が下りましたが、一般的な家庭では、こんなに多額の賠償金を支払うことはできません。

    母親が自己破産をしてしまうと、回収不能となってしまいます。

    そうすると、被害者の将来介護費などは、どうなるのでしょうか?

    そう考えると、自転車についても、強制保険や任意保険を整備してゆく必要があるように思います。