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  • パワハラと教育的指導の境界線とは?

    2015年02月28日

    仕事への意欲が湧かないとき。
    何かのトラブルを抱えて落ち込んでいるとき。

    そんなときは、「言葉の魔法」にかかりたいと思うことがあります。
    身近な人からのアドバイスや、先人や偉人の名言に救われたり、元気が出てくることがありますね。

    しかし逆に、会社や職場で「言葉の暴力」を浴びせられたら、どうでしょうか?

    最悪の場合には、心と体に変調をきたして仕事を続けられなくなってしまう人もいます。

    先日、言葉の暴力がパワハラと認定された裁判がありましたので、解説します。

    「“威圧され適応障害”…看護師長のパワハラ認定」(2015年2月26日 読売新聞)

    北九州市の病院に看護師として勤めていた女性(30歳代)が、元上司によるパワーハラスメントで適応障害になったとして、病院の運営元や元上司を相手取り、約315万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が福岡地裁小倉支部でありました。

    判決によると、女性は病院に勤務していた2013年4~5月頃、子供がインフルエンザにかかったり、高熱を出したりしたため、上司だった看護師長に早退を申し出たところ、有給休暇が残っていたにも関わらず、元上司は「もう休めないでしょ」、「子供のことで職場に迷惑をかけないと話したんじゃないの」などと発言。

    女性は、ミスを叱責されたこともあり、食欲不振や不眠から、同年11月に適応障害と診断されて休職。
    その後、2014年3月に退職したようです。

    裁判官は、看護師長の言動について、「部下という弱い立場にある原告を過度に威圧し、違法」と認定。
    被告に約120万円を支払うよう命じたということです。

     

    近年、パワハラに関する報道が増えていますが、そもそも何をするとパワハラになるのか? すべてのビジネスパーソンは正確に認識しておく必要があるでしょう。

    そこで、今回もう一度、パワハラについて復習しておきたいと思います。

    【パワハラとは?】
    厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では、以下のように定義されています。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」

    「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」

    つまり、パワハラが成立するには次の3つの要件が認められるか検討していくことになります。

    ・それが同じ職場で働く者に対して行われたか
    ・職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものであるか
    ・業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与え、また職場環境を悪化させるものであるか
    【パワハラにあたる6つの行為】
    具体的には、以下の6つがパワハラとなる行為とされています。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    今回の事案は、②の言葉の暴力による「精神的な攻撃」ということになります。
    【パワハラによって発生する会社の損害とは?】
    パワハラが行われた場合、今回の事案のように民事裁判では、被害者は損害賠償を求めて訴訟を起こすことができます。
    それは、会社には社員に対して以下のような義務や責任があるからです。

    「職場環境配慮義務」
    会社は、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮をきちんとしていていないと、義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

    「使用者責任」
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた不法行為による損害を賠償する責任があります(民法第715条)。

    今回の事案のように、社員(看護師長)が別の社員(看護師)に対して損害を与えたと認められれば、その責任を会社が負い、損害を賠償しなければならなくなる場合があります。
    【パワハラを防ぐための5つの措置】
    パワハラを防ぐための措置として、次の5つが挙げられます。

    ①会社のトップが、職場からパワハラをなくすべきという明確な姿勢を示す。
    ②就業規則をはじめとした職場の服務規律において、パワハラやセクハラを行った者に対して厳格に対処するという方針や、具体的な懲戒処分を定めたガイドラインなどを作成する。
    ③社内アンケートなどを行うことで、職場におけるパワハラの実態・現状を把握する。
    ④社員を対象とした研修などを行うことで、パワハラ防止の知識や意識を浸透させる。
    ⑤これらのことや、その他のパワハラ対策への取り組みを社内報やHPなどに掲載して社員に周知・啓発していく。
    さて、ここまでパワハラについて解説してきましたが、それでも会社の社長や部下を持つ管理職の人たちからは、こんな声が聞こえてきそうです。

    「パワハラについては理解できたけれど、なんでもかんでもパワハラに
    されて訴えられたら、たまらない」

    「ミスをした社員をしかるのは当然でしょう。仕事上の叱責までパワハ
    ラにされたら、どうしていいのか…」
    実際、厚生労働省が公表した、「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、総合労働相談のうち、民事上の個別労働紛争の相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が59,197件と、「解雇」や「退職」をおさえ、2年連続で最多となりました。
    いかにパワハラやセクハラの相談が増えているかがわかります。

    しかし、たとえばパワハラとなる行為の中でも、業務への過大な要求や過少な要求などは、業種や企業文化などによっても差異があるため、業務上の適正な指導との線引きや判断が難しいものです。

    法的な基準としては、「平均的な心理的耐性を持った人」が肉体的・精神的に苦痛を感じるかどうかが判断基準とされていますが、以下のポイントにも注意をして対策をとっていただきたいと思います。

    ・行為が行われた状況
    ・行為が継続的であるかどうか
    ・会社が相談や解決の場(相談窓口など)を設置したかどうか
    ・パワハラ行為を行った者への研修・教育を行ったか
    ・懲戒処分の決定とその後の措置は適切だったか

    なお、社員の能力不足や職務怠慢の場合、会社は社員を教育指導してからでないと解雇などはできないことになっているので、通常の仕事上の叱責はパワハラにはならないことは覚えておいてください。

    最近は、仕事上で叱責すると、すぐに「パワハラだ!」と言われることがありますが、仕事上の叱責はパワハラにはなりません。

    それが度を超え、人格に対する攻撃などになると、はじめてパワハラになるのです。

    パワハラ問題が起きてしまうと、被害者の肉体的・精神的苦痛はもちろん、会社にとっても大きな損害となってしまいます。

    判断・対応が難しい場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
    労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

     

  • 2倍!2倍!未払い残業代の付加金とは?

    2015年02月26日

    2015年も、労働トラブルに関する報道が相次いでいます。
    今回は、未払い残業代の「付加金」について解説します。

    「佐川急便で残業代未払い 付加金も命じる 東京地裁」(2015年2月20日 産経新聞)

    佐川急便の元運転手2人が、「残業代の一部が未払いだ」として割増賃金などの支払いを会社に求めた訴訟の判決で、東京地裁は、制裁金に当たる付加金も含め計約215万円の支払いを命じました。

    元運転手の2人は、平成21年11月~24年に佐川急便の都内の営業所に勤務。
    IDカードで出退勤時刻を管理していたが、「記録上の時間より早く出勤し、遅く帰宅する日もあった」と主張していたようです。

    裁判官は、2人が通勤に使っていた高速道路の料金所通過記録と、記録上の出退勤時刻に差があることなどから、「記録上の時間は必ずしも実際の勤務時間を反映していない。営業所の勤務時間の管理が適切ではなかった」と指摘したということです。
    【未払い残業代の付加金とは?】
    労働に関する法律の中に「労働基準法」があります。
    これは、会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めたもので、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。

    この中に「法定労働時間」が定められています(第32条)。
    会社(使用者)が、社員(労働者)を働かせることができる労働時間は、原則として一週間で40時間、かつ1日8時間(法定労働時間)までというものです。
    (※ただし、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出れば、労働者が法定労働時間を超えて働いても労働基準法には違反しません)

    この基準以上の時間、つまり法定労働時間外の勤務をさせたとき、会社(使用者)は社員(労働者)に「割増賃金」を支払わなければいけません(第37条)。

    割増賃金は、時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働などによって発生します。
    今回の事案では、元社員が会社に管理され、記録されていた出退勤時間より実際は早く出勤し、遅く帰宅していたとして、その時間分の残業代が認められたわけですが、判決の中に「付加金」というものがありました。

    では、この「付加金」とは一体何でしょうか?
    条文を見てみましょう。

    「労働基準法」
    第114条(付加金の支払)
    裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。
    付加金とは、簡単にいうと違反を犯したことへの制裁金ということになります。

    ところで、民事で労働者側が「未払い残業代」による訴訟を起こし、訴えが認められた場合、会社(使用者)が支払うものには次の3つがあります。

    ①「未払い残業代の支払い」
    認定された残業代の未払い分の全額を支払わなければいけません。

    ②「付加金の支払い」
    裁判所が必要と認めた場合、未払い残業代と同額を上限とした付加金を支払わなければいけません。
    会社側の違反が悪質な場合などでは、全額が認められるケースも多くあります。

    付加金は会社への制裁金という意味合いがあるため、裁判で判決までいったときに初めて付加されます。

    また、付加金は違反があったときから2年以内に請求しなければ無効となります。
    なお、「労働審判」では付加金はつかないので注意が必要です。

    ③「遅延損害金の支払い」
    未払い残業代と付加金には利息がつきますが、これを「遅延損害金」といいます。

    利息の利率は、社員(労働者)が在職中であれば6%、退職している場合は14.6%と2倍以上になります。
    人気アニメ『セーラームーン』では、「月に代わっておしおきよ!」の名セリフが有名ですが、未払い残業代で裁判にまで至ってしまった場合、会社(使用者)は法律におしおきされてしまいますから、経営者の方は十分注意してください。

    2倍得をするならいいですが、2倍のお金を支払わなければいけない可能性もあるのですから、労働時間に関して経営者の方は、社員の勤務時間の管理をきちんと行い、法律を順守することが大切です。

    残業代請求が認められるかどうかは、かなり難しい法律問題となりますので、労働者も、会社も、適切な専門家などに相談をした方がよいでしょう。

    労使双方が、お互いを尊重しながら、社員は働きやすい環境で十分能力を発揮することで、会社の業績も上がり、会社も社員もお客さんも得をする、まさに「三方よし」となることを願っています。

    未払い残業代の問題のご相談はこちら⇒
    http://roudou-sos.jp/

  • 給料不払いの代償~刑事訴追

    2015年02月14日

    ことわざに、「ただより高いものはない」というものがあります。

    通常は、ただで物をもらったら、そのお返しでかえってお金を使うことになるとか、ただの裏側には有利になるように取り計らってほしいという相手の打算、意図があるから、よろこんでばかりいると面倒なことになる、というような意味で使われますね。

    ところが今回、ただで社員に仕事させていた会社の社長が、とんでもない高い代償を払うはめになってしまったという事件が起きたようです。
    一体、どんな代償を払ったのでしょうか?

    「8人が3ヵ月タダ働き…賃金不払い容疑で建設業者書類送検」(2015年2月10日 産経新聞)

    札幌中央労働基準監督署は、昨年2月に事実上倒産した札幌市北区の建設業の社長(56)と法人としての同社を、最低賃金法違反(賃金不払い)の疑いで書類送検しました。

    社長の男は、本社と関東営業所(埼玉県)に勤務する従業員計8人に平成25年12月から26年2月まで3ヵ月分の給料を出さず、北海道や埼玉県の最低賃金に当たる計約260万円を支払わなかったようです。

    昨年1月、関東営業所の従業員が川越労働基準監督署に相談して発覚したようですが、社長は「経営が悪化し、支払えなかった」と供述しているということです。
    給料の不払いについては以前、解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「給料の不払いが犯罪になる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1395

    「金がないから払えない」とは、一見もっともな理屈にも思えますが、法律の前ではそんなことは通用しません。

    社員への給料不払いは、「最低賃金法」という法律に抵触します。

    第4条(最低賃金の効力)
    1.使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
    第34条(監督機関に対する申告)
    1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

    簡単にまとめると、以下のようになります。

    〇社長は、従業員に対して国で決められた「最低賃金」よりも多く給料を支払わなければいけない。
    〇賃金が支払われなければ、労働者は労働基準監督署に訴えることができる。
    〇違反した場合は、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金。

    ところで、厚生労働省が公表した統計データによれば、平成23年4月から平成24年3月までの間に、賃金不払いの是正を指導され割増賃金を100万円以上支払った企業は1312社で、支払われた割増賃金の合計額は、じつに145億9957万円にものぼります。

    また、今回のように社員の労働基準監督署への相談や内部告発は年々増加していて、2012年の「労働基準監督年報」によれば、受理した件数で最も多いのが賃金未払いに関するもので、全体の85.6%にも及んでいます。

    さらに、近年では会社と社員の間で、残業代の未払いに関する労働トラブルも増えています。

    「労働基準法」で定められた時間外労働に対しては、当然、会社は社員に残業代を支払わなければいけません。

    もちろん、社員などの労働者は、残業代をもらえず、ただ働きして泣き寝入りすることはありませんし、社長や経営陣は、残業代の未払いは違法であることを理解しなければいけません。

    裁判に発展すれば、未払い分と同等の「付加金」も追加され、2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性があります。
    さらには、今回のようにメディアで全国に社名が報道されたり、取引先との信用、信頼は地に落ちてしまうでしょう。

    労働トラブルは、経営者にとっては不名誉なことですし、会社にとっては大損害になりかねません。

    昔の人は本当にいいことを言ったものです。
    会社の経営についても、「ただより高いものはない」のかもしれません。

    経営者の方には法令順守の徹底と、社員を守るという責任を今一度、自問自答して確認していただきたいと思います。
    「何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われる」
    (スティーブ・ジョブズ/アメリカの実業家。アップル社の共同創立者のひとり)

    労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/

  • 内定取消は、自由にできない!?

    2014年12月28日

    会社が新規学卒者の内定を取り消したというニュースが新聞を賑わすことも少なくありませんが、果たして内定を出した後に、業績悪化を理由としてその内定を取り消すことは可能なのでしょうか。

    そこで、今回は、業績悪化を理由とした内定の取消しが可能か、可能であるとするとどのような場合なのかを考えていきたいと思います。

    まず、会社が採用内定を出すとどのような効力を生じるかについては、一般的には、入社日を始期とし、さらに誓約書に基づいた解約権が留保された労働契約が成立すると考えられています。

    採用内定時に提出を求める誓約書には、学校を入社前に卒業できなかった場合や経歴に重大な誤りがある場合、病気等により就労することができない場合等の記載がされ、このような場合には内定取消しとなっても異議を述べないとされていることが一般的です。

    では、誓約書に「会社の業績が悪化した場合」と記載がされている場合に、誓約書に基づいて解約権を自由に行使することができるのでしょうか。

    この点については、判例(大日本印刷事件・最2小判昭和54年7月20日・労判323号19頁)は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と言っています。

    したがって、採用内定取消しが有効となるかについては、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由があるか否かがポイントとなり、業績悪化を理由として採用内定を取り消す場合の有効性の判断にあたっては、整理解雇に準じて、

    ①人員削減の必要性、
    ②解雇回避努力を尽くしたこと、
    ③人選に合理性があること、
    ④取消しに至る手続に妥当性があること

    が検討されることになります。

    つまり、採用内定の取消しにあたっては、そもそも採用内定時に業績の悪化についてどの程度予測ができたのかどうかや、社内のリストラ等の内定取消し回避のためにどのような努力が尽くされたのかなども専門的な判断が必要となります。

    また、採用内定の取消しは、内定者のその後の就職活動や生活に与える影響が大きいことから、後に紛争となるケースも少なくありませんので、弁護士と相談をしながら慎重にすすめるべきでしょう。

    みらい総合法律事務所へのご相談は、こちら。
    http://roudou-sos.jp/

  • 業務委託なのに、残業代を支払う!?

    2014年12月28日

    正社員にすると、労働法の色々な規制がかかってきたり、残業代を支払う義務が発生したり大変なので、正社員ではなく、「業務委託」という形にして仕事を委託している会社が少なからずあるようです。

    会社は、社員が残業をした場合には、当然残業代を支払う必要がありますが、業務委託先に対しては、委託先が長時間働いたとしても残業代を支払う必要はありません。

    例えば、個人事業主として、自己所有のトラックを持ち込んで輸送業務に従事する運転手や、建設業における一人親方などに対しては、会社は残業代を支払う必要はありません。

    そのため、会社は、社員を雇用するのではなく、業務委託の形式で作業させることで、残業代の支払いを免れて人件費を削減することができます。

    しかし、当該社員(ないし業務委託先)が、会社が残業代の支払義務を負う「労働者」であることを否定するためには、単に当該社員(ないし業務委託先)と会社との契約の名称を「業務委託契約」や「請負契約」などとしておけば良いというわけではありません。

    この「労働者」性が否定されるためには、当該社員(ないし業務委託先)が、実態として、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」ではないことが必要であります。

    いくら「業務委託契約」を締結していても、実態が「労働者」とみなされると、残業代を支払う義務が発生する、ということです。

    そして、この労働者性の判断基準ですが、

    ・時間・場所の拘束の有無、程度(拘束の程度が強ければ労働者性を肯定する事情と評価されます

    ・契約に対する諾否の事由の有無(自由がなければ労働者性を肯定する事情と評価されます)

    ・契約内容の遂行に当たっての指揮命令の有無(指揮命令に従っている場合には労働者性を肯定する事情として評価されます)

    ・経費の負担の有無(受託者が経費を負担するような場合には労働者性を否定する事情として評価されます)

    等の種々の事情を考慮して判断されます。

    したがって、例えば、自己所有のトラックを持ち込んで業務に従事する運転手であっても、会社の仕事しかすることができず、始業・就業時間が決まっており、経費も会社持ちであるような場合には、会社は運転手からの残業代の請求を拒むことができません。

    また、例えば、独自に飲食業を営む者としての立場でクラブとの間で入店契約を締結したホステスについては、業界の慣習や所得税の申請において個人事業主として扱われているとしても、クラブへの出店が義務付けられていることや、クラブからの報酬が事業者性を認める程高額でないこと、衣装代はホステスの負担であるものの、その他の経費はクラブ側が負担していることなどを理由に、クラブはホステスからの残業代の請求を拒むことはできないとした裁判例もありますので、注意が必要です。

    会社が雇用契約ではなく、業務委託契約の形式をとっている場合、往々にして、当該社員(ないし業務委託先)の残業時間は長時間となってしまっているのが実情です。

    そのため、もし当該社員(ないし業務委託先)が会社が残業代を支払わなければならない「労働者」であるとされてしまうと、会社は、非常に多額の残業代の支払いを余儀なくされてしまう場合が多いです。

    このようにならないよう、会社は、「業務委託契約」を締結する場合には、上述のさまざまな事情を考慮して、就労のさせ方を慎重に検討する必要があるでしょう。

    このあたりは、法律の素人では判断が難しいので、弁護士に相談することをおすすめします。

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  • セクハラで3,000万円の賠償請求!?

    2014年12月28日

    最近、セクハラに対する社会的非難が高まっています。

    セクハラをした役員や社員を処分するのは当然ですが、会社がセクハラに対する対応を間違った場合、大変なことになってしまいます。

    今回ご紹介するのは、会社役員の女性支店長2名に対する「セクハラ」行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うことになった事例です。

    事実はこうです。Y会社の専務取締役Yが、女性支店長ミー(仮名)を上司の立場を利用して呼びだした上で異性と付き合っているのかを問いただし、それを否定すると「それならいいんだ。前にも言ったけど、商品みたいで言い方は悪いが、君は僕の芸術なんだよ。」といいま
    した。

    さらにYは、付き合っていることを疑っていた社員に直接電話をして「君とミーが付き合っていると聞いたが本当か。システム室から聞いているぞ。本当ならやめてくれ。」などの行動に出ました。

    また、Yは、別の日にミーを電話で呼びだし、他の社員がいないところで後継者の地位をちらつかせながら、「君は僕のことが好きだろう。後継者になるということイコール男女関係があるのは当たり前だ。」などといって肉体関係を持つように求めました。

    その後、ミーが別の日に専務Yに対して、先日肉体関係を迫ったことの理由を尋ねると、「君は独身だから性的欲求は解消されていないと思ったからだ。」「最後にお願いがあるんだ。もう気持ちを表に現さない。だから最後にキスさせてくれ。」などと言って、接吻を迫りました。

    そこで、ミーが会社に対してYのセクハラ行為を訴えたところ、Yは自己保身のために、セクハラ行為を否定するだけでなく、他の社員に対してミーが淫乱であるなどと繰り返し述べて、職場環境を悪化させ、ミーの職場復帰を不可能なものにしました。

    さらに同時期にYは、Yがミーと肉体関係を持つために、ミーと親しい女性支店長ケイ(仮名)に対しても上司の立場を利用して、車で迎えに来るように命じ、車の中でミーのことを監視することにした旨を述べるともに、ケイがミーに対し、「専務のことが好きなんでしょ。抱かれれば。」などとYがミー肉体関係を持てるように協力するよう要請しました。

    ケイがこれを拒絶し会社に対してセクハラ行為を訴えると、Yは、自己のセクハラを否定するだけでなく、他の社員に対して、ケイが「不倫をして仕事をとっている」「あいつは淫乱だ」などと言ったりして、職場環境を悪化させ、ケイの職場復帰も不可能なものにしました。

    裁判所は、このYのミー及びケイに対する行為を不法行為であると認定し、これらの行為が会社の内部で、会社の専務取締役という立場で行われていたことから、会社にも賠償義務(使用者責任)があると認定されました。

    会社は、ミーとケイがセクハラ行為による被害を訴えたことによって会社を混乱させたとして減給処分としていたことから、それまで支払われていた給与と減給後の給与の差額について支払いを命じられたほか、Yのセクハラ行為がなければあと1年間は働けたとして、1年分の給与についても支払いを命じられました。

    結局、会社は、2人に対し、3,000万円を超える支払いを命じられることになったのです。

    皆さん、いかがだったでしょうか。

    一人の専務取締役の軽率なセクハラ行為により、会社が3,000万円を超える賠償義務を負うこととなったのです。

    このようなセクハラ行為が社内で起こらないようにするには、専門家とともに、普段からの社員教育や相談窓口の設置、セクハラがあったときの懲戒制度(就業規則への明記)などのセクハラ防止の社内体制づくりを早急にしなければいけません。

    また、セクハラが発覚した後の事後対応も重要です。

    今回も対応を間違ってしまったところに、多額の賠償金が科せられた原因があります。

    そうしないと、知らないところで3,000万円を超える賠償義務を突然負って、倒産の危機に陥る可能性があることをご理解いただけたと思います。
    みらい総合法律事務所では、セクハラ防止のための研修・社内制度の確立・社員からの通報窓口などをお受けしております。

    また、労働トラブルでお悩みの経営者様の相談を承ります。

    相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/

  • 減給は自由にできません【労働】

    2014年12月28日

    社員の給料最初、会社と社員の合意で定められます。

    その後は、会社の給与規定などに基づき変動してゆくのが通常です。

    社員の給料が上がる時にはトラブルは発生しませんが、社員の給料を下げようとした時は、労使トラブルが勃発します。

    会社が、社員の給料を下げたいと考える理由としては、会社の経営状況による場合や、社員自身が原因である場合など様々です。

    今回は、社員の給料を下げる場面として、

    ①経営難を理由として給料を下げる場合
    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合
    ③懲戒処分として減給をする場合

    に分けて説明したいと思います。

    ①経営難を理由として給料を下げる場合

    経営難を理由として社員全体の給料を下げる場合には、社員の同意なしには行えないのが原則です。

    労働条件を社員に不利益に変更するには、原則として社員の同意が必要となるためです。

    もっとも、会社が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、その内容が下記要素から考えて合理的である場合には許されます。

    (1)社員の受ける不利益の程度
    (2)労働条件の変更の必要性
    (3)変更後の就業規則の内容の相当性
    (4)労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

    会社の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況にあるときは、労働条件の変更による人件費抑制の必要性が極度に高い上、労働者の被る不利益という観点からみても、失職したときのことを思えばなお受忍すべきものと判断されます。

    そのような場合には、多数の労働者が反対している場合であっても、就業規則の変更により給料を下げることが許されるといえます。

    ②人事考課・人事異動の結果として給料が下がる場合

    まず、年度ごとの人事考課等の結果として給料の額が減額することについては、あくまで賃金の計算方法に過ぎず、人事考課制度の枠内で行うのであれば、裁量権の濫用に当たらない限りは問題なく行うことができます。

    次に、人事権の行使として、成績不振を理由として、部長が社員に降格する場合や、部長が係長に下がる場合など、人事権に基づく役職や職位の降格の場合には、雇用契約の上で使用者の当然の権限として認められるものであり、人事権の濫用にあたらない限り問題なく行うことができるといえます。
    ③懲戒処分として給料を下げる場合

    まず、懲戒処分として減給をする場合には、懲戒処分の前提として、次の要件が必要です。

    (1)就業規則に懲戒処分の規定があること
    (2)就業規則が社員に周知されていること
    (3)就業規則で定められる懲戒事由に該当する行為があったこと
    (4)当該処分が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること

    特に、減給は、労働者の生活への影響が大きいことから、十分な理由が必要となると考えるべきでしょう。

    さらに、減給処分が有効であったとしても、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えて減給をすることは法律上禁止されています。

    会社の側としては、もっと下げられるのではないかと考えられている方も多いと思いますので注意をしなければなりません。

    以上、社員の給料を下げる場面として3つに分けて説明をしてきました。

    どちらにしても、給料を下げることは、社員の生活に与える影響が大きく、後に紛争となるケースも少なくありませんので、専門家と相談をしながら慎重にすすめるとよいでしょう。

    労働相談は、こちらから。
    http://roudou-sos.jp/