給料不払いの代償~刑事訴追 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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給料不払いの代償~刑事訴追

2015年02月14日

ことわざに、「ただより高いものはない」というものがあります。

通常は、ただで物をもらったら、そのお返しでかえってお金を使うことになるとか、ただの裏側には有利になるように取り計らってほしいという相手の打算、意図があるから、よろこんでばかりいると面倒なことになる、というような意味で使われますね。

ところが今回、ただで社員に仕事させていた会社の社長が、とんでもない高い代償を払うはめになってしまったという事件が起きたようです。
一体、どんな代償を払ったのでしょうか?

「8人が3ヵ月タダ働き…賃金不払い容疑で建設業者書類送検」(2015年2月10日 産経新聞)

札幌中央労働基準監督署は、昨年2月に事実上倒産した札幌市北区の建設業の社長(56)と法人としての同社を、最低賃金法違反(賃金不払い)の疑いで書類送検しました。

社長の男は、本社と関東営業所(埼玉県)に勤務する従業員計8人に平成25年12月から26年2月まで3ヵ月分の給料を出さず、北海道や埼玉県の最低賃金に当たる計約260万円を支払わなかったようです。

昨年1月、関東営業所の従業員が川越労働基準監督署に相談して発覚したようですが、社長は「経営が悪化し、支払えなかった」と供述しているということです。
給料の不払いについては以前、解説しました。
詳しい解説はこちら⇒「給料の不払いが犯罪になる!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1395

「金がないから払えない」とは、一見もっともな理屈にも思えますが、法律の前ではそんなことは通用しません。

社員への給料不払いは、「最低賃金法」という法律に抵触します。

第4条(最低賃金の効力)
1.使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
第34条(監督機関に対する申告)
1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

簡単にまとめると、以下のようになります。

〇社長は、従業員に対して国で決められた「最低賃金」よりも多く給料を支払わなければいけない。
〇賃金が支払われなければ、労働者は労働基準監督署に訴えることができる。
〇違反した場合は、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金。

ところで、厚生労働省が公表した統計データによれば、平成23年4月から平成24年3月までの間に、賃金不払いの是正を指導され割増賃金を100万円以上支払った企業は1312社で、支払われた割増賃金の合計額は、じつに145億9957万円にものぼります。

また、今回のように社員の労働基準監督署への相談や内部告発は年々増加していて、2012年の「労働基準監督年報」によれば、受理した件数で最も多いのが賃金未払いに関するもので、全体の85.6%にも及んでいます。

さらに、近年では会社と社員の間で、残業代の未払いに関する労働トラブルも増えています。

「労働基準法」で定められた時間外労働に対しては、当然、会社は社員に残業代を支払わなければいけません。

もちろん、社員などの労働者は、残業代をもらえず、ただ働きして泣き寝入りすることはありませんし、社長や経営陣は、残業代の未払いは違法であることを理解しなければいけません。

裁判に発展すれば、未払い分と同等の「付加金」も追加され、2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性があります。
さらには、今回のようにメディアで全国に社名が報道されたり、取引先との信用、信頼は地に落ちてしまうでしょう。

労働トラブルは、経営者にとっては不名誉なことですし、会社にとっては大損害になりかねません。

昔の人は本当にいいことを言ったものです。
会社の経営についても、「ただより高いものはない」のかもしれません。

経営者の方には法令順守の徹底と、社員を守るという責任を今一度、自問自答して確認していただきたいと思います。
「何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われる」
(スティーブ・ジョブズ/アメリカの実業家。アップル社の共同創立者のひとり)

労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/