労働法 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 2
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 土下座強要がパワハラと認定された事例

    2016年10月27日

    今回は、土下座の強要がパワーハラスメント(パワハラ)に認定されたという報道について解説します。

    この問題、じつはさまざまな争点をはらんでいる可能性があります。

    「同僚への土下座強要はパワハラ 日本郵便に賠償命令」(2016年10月26日 西日本新聞)

    2011年に福岡県内の郵便局員の男性(当時41歳)が突然死したことについて、原因は当時の郵便局長から受けたパワハラだとして、遺族が日本郵便に1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が福岡高裁でありました。

    判決によると、男性局員はうつ病で休職中の2011年12月に致死性不整脈で死亡。
    同年の5月と10月には、局長から「いつ辞めてもらってもいいくらいだ」、「あんたが出てきたら皆に迷惑」などと言われたとしています。

    これについては、2016年3月にあった1審の福岡地裁小倉支部判決と同様に、今回の福岡高裁もパワハラと認定。
    1審判決では220万円の支払いを命じていましたが、今回の判決では330万円の支払いを命じました。

    また、2011年6月に男性局員を含む複数の局員が参加した朝礼で、局長が別の局員を土下座させた行為についても、「その場にいたすべての職員に対する安全配慮義務に違反する」としてパワハラと認定しました。

    一方、パワハラと死亡の因果関係については、一審判決と同様に今回も認めなかったということです。
    【パワハラとは?】
    パワハラについては、次のように定義されています。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」

    「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」
    (厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」より)

    パワハラが成立するための要件としては次の3つがあげられます。

    ①それが同じ職場で働く者に対して行われたか
    ②職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものであるか
    ③業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与え、また職場環境を悪化させるものであるか

    さらに、パワハラとなる行為としては次の6つがあります。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    パワハラが行われた場合、今回の事案のように民事裁判では、被害者は損害賠償を求めて訴訟を起こすことができます。
    それは、会社には社員に対して「職場環境配慮義務」と「使用者責任」
    があるからです。

    職場環境配慮義務とは、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、会社には職場環境を整える義務があるというものです。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

    使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があるというものです。
    (民法第715条)
    【パワハラと過労死の関係とは?】
    労働者の業務中の負傷、疾病、障害、死亡を「労働災害」(労災)といいます。

    また、通勤中でのケガ、病気などを「通勤災害」、業務中のものを「業務災害」ともいいます。

    業務災害では、業務と労働者の負傷、疾病、障害、死亡との間に因果関係がある場合に労災と認められます。
    その際には、2つの基準を中心に判断されます。

    ・業務遂行性=労働者が使用者の支配下にある状態
    ・業務起因性=業務に内在する危険性が現実化し、業務と死傷病の間に一定の因果関係があること。

    業務災害のうち、病気によるものを「疾病災害」といい、近年増えている過労死は、長時間の過重労働等が起因となって、脳血管疾患や虚血性心疾患を発症して死に至るものとされています。
    今回の事案では、パワハラはあったが、そのパワハラと突然死の因果関係について証明があったとまでは言えなかったということだと思われます。
    【パワハラは刑事事件になる可能性もある?】
    ところで、相手に土下座をさせると「強要罪」に問われる可能性もあります。

    「刑法」
    第223条(強要)
    1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
    相手に義務のない土下座などを行わせると民事だけでなく、刑事事件として強要罪で逮捕される可能性があるので、十分注意してほしいと思います。
    職場でのパワハラでは、しばしば教育的指導と境界線が問題になることがありますが、今回の事案のように相手の自由を奪い、脅迫し、土下座を強要するなど、とても指導とはいえないでしょう。

    人の上に立つリーダーや指導者の立場にある人は、相手に義務のない強要をしていないか、今一度、自分の言動を見つめ直してみるのもいいかもしれません。
    労働トラブルのご相談は、こちらから⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

    労働災害に関する相談は、こちらから⇒http://www.rousai-sos.jp/

  • 労働基準法違反で会社だけでなく部長と店長も書類送検!

    2016年10月04日

    ある大手飲食チェーンで、労働基準法違反のため、部長と店長までが書類送検されたという報道がありました。

    主な違反は、違法な時間外労働と残業代の未払い、さらに36協定の不備ということです。

    「“すし半”のサト、違法残業月111時間 容疑で書類送検 大阪労働局」(2016年9月29日 産経新聞)

    大阪労働局は、飲食チェーン大手のサトレストランシステムズ(大阪市中央区、東証1部、「和食さと」、「さん天」、「すし半」などを展開)が、従業員に違法な時間外労働をさせ、残業代の一部を支払わなかったとして、法人としての同社と、「さん天」事業推進部長、店長4人を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。

    報道によると、2015(平成27)年、本社と大阪府内の「すし半」、「和食さと」計4店で、従業員7人に対し最長で1ヵ月に111時間の時間外労働をさせ、そのうち2店では3人に割増賃金の一部(計約30万円)を所定支払日に支給しなかった容疑としています。

    また、時間外労働の限度(1ヵ月に40時間)に関する労使協定(36協定)を店舗ごとに結んで労働基準監督署に届け出ていたが、労働者代表の選出に不備があり、有効な協定として認められていなかったようです。

    同社は調査委員会を設置し、全店舗で未払い賃金を精査。
    延べ653人に、2014(平成26)年~2015(平成27)年分の未払い賃金、計約4億円を支払ったということです。
    「労働基準法」は、労働者の労働契約や労働時間、休日、賃金、安全などの労働条件の最低基準について規定しています。
    労働者と使用者の双方が守るべき重要な法律なのですが、違反事例が後を絶たないのが現状です。

    労働基準法では、1週40時間、1日8時間しか労働者を働かせてはいけないことになっており、それ以上働かせた場合は、割増賃金を支払わなければなりません。

    時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。
    ・「36協定」(第36条)
    会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結
    し、かつ行政官庁にこれを届けることにより、その協定の定めに従い労働
    者に時間外休日労働をさせることができます。
    第36条に規定されているため、これを36協定といいます。

    届け出をしないで時間外労働をさせた場合、労働基準法違反で6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

    なお、現行では労使が36協定を結んだ場合の残業時間の上限は、厚生労働相の告示により「1ヵ月45時間」という基準が定められていますが、例外規定があり、「特別の事情」について労使の合意があれば上限を守らなくてもよい、ということになっています。
    今回のケースでは、36協定により1ヵ月に40時間の残業と決めていたにもかかわらず、中には111時間も残業をさせていた従業員がおり、しかもその協定自体に不備があり、おまけに残業代もきちんと支払っていなかったわけですから、労働基準法違反を指摘されるのは当然でしょう。

    しかし、労働基準法違反で法人としての会社が書類送検される事例はよくありますが、部長と店長までが書類送検されるというのは、過去の事例から見ても珍しいケースといえます。

    ではなぜ、そうした結果になったのかといえば、違反行為が悪質だったからだと思われます。

    別の報道によれば、大阪労働局はこれまでも複数の店舗に対して労務管理を改めるように指導してきたにもかかわらず改善が見られなかったため、2015年12月に強制捜査に踏み切り、実態の把握を進めていたとしています。

    また、違法な残業は過労死の問題にもつながる可能性があります。
    厚生労働省が通達している「過労死ライン」では、1ヵ月の残業時間が80時間を超えると過労死のリスクが高まるとされています。

    さらに、過労死の労災認定基準としては、脳血管疾患及び虚血性心疾患等について、「発症前1ヵ月間におおむね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされていることからも、会社の行為は従業員の過労死につながりかねない悪質なものと判断されたのだと思います。
    ところで、こうした未払い残業代について、労働者である従業員の方は会社を相手に民事で訴訟を起こすことができます。

    訴えが認められれば、従業員の方は、本来手にするべき残業代を受取ることができます。

    同時に、会社(使用者)としては次の3つを支払わなければいけません。

    ①「未払い残業代の支払い」
    認定された残業代の未払い分の全額を支払わなければいけません。

    ②「付加金の支払い」
    裁判所が必要と認めた場合、未払い残業代と同額を上限とした付加金を支払わなければいけません。
    会社側の違反が悪質な場合などでは、全額が認められるケースも多くあります。

    ③「遅延損害金の支払い」
    未払い残業代と付加金には利息がつきますが、これを「遅延損害金」といいます。
    利息の利率は、社員(労働者)が在職中であれば6%、退職している場合は14.6%と2倍以上になります。
    今回のケースでは、会社のこうした支払い金のトータルが約4億円にものぼったということです。

    場合によっては、会社は未払い残業代の2倍以上の金額を従業員に支払わなければいけません。
    さらに、複数の従業員ともなれば、これは大変な金額になってしまいます。
    体力の乏しい会社などは、会社存亡の危機に陥ってしまいかねない事態でしょう。

    そうした危機に陥らないためにも、「悪しき慣例」として長時間労働が当然とはならないよう、会社と経営陣には法律を遵守した経営が求められます。

    また万が一、残業代の未払いがある従業員の方は泣き寝入りする必要はありません。
    弁護士に相談するなどして、適正な残業代を受取るべきだと思います。

    未払い残業代に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/zangyou2/
    労働災害に関する相談は、こちらから⇒http://www.rousai-sos.jp/

  • 過労死の認定基準と損害賠償について法律解説

    2016年05月29日

    近年、「過労死」の報道を目にすることが多くなりました。

    そこで今回は、増加する過労死と労働災害(労災)の関係について、法的に解説します。

    「労災」とは労働災害の略で、労働者が業務に起因して負傷(ケガ)、疾病(病気)、障害(後遺症)、死亡に至ったもののことをいいます。

    労災は、おもに「業務災害」(業務中に起きたもの)と「通勤災害」(通勤中の交通事故などによるケガや病気など)の2つに分けられます。

    この業務災害のうち、病気によるものを「疾病災害」というのですが、その中でも、遺伝や生活習慣などにより、その労働者にもとから内在していた私病が業務起因で発症、または増悪して死亡に至るものを「過労死」といいます。

    対象となる病気には、次のようなものがあります。

    「脳血管疾患」
    ①脳内出血(脳出血)
    ②くも膜下出血
    ③脳梗塞
    ④高血圧性脳症

    「虚血性心疾患等」
    ①心筋梗塞
    ②狭心症
    ③心停止(心臓性突然死を含む。)
    ④解離性大動脈瘤
    次に、過労死の認定基準について見てみます。

    業務災害が認定されるには、業務と労働者の負傷、疾病、障害、死亡との間の因果関係において、次の2つの基準を中心に判断されます。

    「業務遂行性」……労働者が使用者(会社)の支配下にある状態
    「業務起因性」……業務に内在する危険性が現実化し、業務と死傷病の間に一定の因果関係があること

    さらに、過労死については厚生労働省が通達している「過労死ライン」がひとつの目安とされています。

    過労死ラインとは、健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を指すもので、次のような基準となっています。

    1.発症前の1ヵ月ないし6ヵ月間にわたって、時間外労働が、1ヵ月あたりおおむね45時間を超えて時間外労働長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる。

    2.発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性は強い。

    3.発症前1ヵ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性は強い。

    現在の労働行政においては、おおむね80時間がひとつの目安とされています。

    たとえば、1日8時間勤務として1か月の労働日を20日とした場合、1日4時間の時間外労働をして、1日12時間勤務が続く状態です。
    これが、発症前の2ヵ月ないし6ヵ月続いた場合、過労死と認定される可能性が高くなるのです。
    最後に、労災給付と損害賠償について見てみます。

    労災が認定された場合、「労働基準法」と「労働者災害補償保険法(労災保険法)」により国から補償を受けることができます。
    この制度のメリットは、健康保険とは違って労働者に自己負担額がないことだといえます。

    労働者が死亡した場合の補償には次のような労災給付があります。

    「遺族補償年金」/労働者が死亡した場合、遺族に支給されるもの
    「葬祭給付」/労働者が死亡した場合、支給される葬祭費

    さらに、ここで忘れてはいけないのは、ご遺族の方は会社に対して損害賠償請求できる場合があることです。

    なぜなら、会社には、労働者に労働させる際にはケガや病気を防ぐために安全に配慮する義務=「安全配慮義務」があるからです。
    これを会社が怠った場合には、労働者側は正当な損害賠償金を請求することができるのです。

    「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を」しなければいけません(労働契約法5条)。

    また、最高裁昭和59年4月10日判決(川義事件)は、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」がある、としています。

    そして、東京高裁平成11年7月28日判決・システムコンサルタント事件では、使用者(会社)は、「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所などについて適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施したうえ労働者の年齢、健康状態などに応じて従事する作業時間および内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務」を負うとされています。

    使用者(会社)がこの義務に違反して、労働者に過酷な労働をさせ、それがきっかけとなって労働者の基礎疾患を増悪させ、それによって死亡させたという因果関係が肯定されるような時は、損害賠償義務が発生します。

    しかし、ここで大きな問題があります。
    それは、被害者やご遺族の方にとって労災の手続きや損害賠償請求は法的な知識がないと難しいということです。

    そうした場合は、弁護士などの専門家に相談、依頼することをお勧めします。

    こちらも参考にしてください。
    ・過労死で労災認定されるための7つのポイント
    https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoushi-rousainintei.html

    ・労災過労死で弁護士に相談すべき5つの理由と3つの注意点
    https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoushi-soudan.html

    ・過労自殺で労災認定されるための7つのポイント
    https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoujisathu-rousainintei.html

    ・過労自殺の労災で弁護士に相談すべき8つの理由と3つの注意点
    https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoujisatu_soudan.html

    ・労働災害(労災)での過労死による慰謝料請求法を弁護士が解説
    https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoushi.html

    万が一、労災にあってしまった場合には、こちらからご相談ください。
    http://www.rousai-sos.jp/contact/

  • 朝型勤務でも残業代は発生するのか?

    2016年05月02日

    今回は、朝型勤務と残業代について解説します。

    長時間労働の改善、仕事の効率アップ、仕事以外の時間と生活の充実などを実現するために、朝型勤務を導入・実施する企業や個人が増えているようです。

    昨年(2015年)、厚生労働大臣は「夏の生活スタイル変革」との要望書を経団連に提出し、経済界が朝型勤務の導入を図るよう要請しました。
    そこで、7月1日には国家公務員22万人を対象に夏の朝型勤務「ゆう活」がスタートし、8月末までの実施で、勤務時間を1~2時間前倒しすることで、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の実現を目指す取り組みが行われました。

    こうした取り組みには賛否両論あるようですが、今年も実施の方向で動いているようです。

    「“ゆう活”16年も導入 総活躍相、朝型勤務進める」(2016年4月18日 日本経済新聞)

    加藤勝信・一億総活躍相は、朝型勤務を進める東京都内の伊藤忠商事を視察した際、国家公務員の勤務時間を朝型にシフトする「ゆう活」を2016年も導入する考えを記者団に示しました。

    今春から中央省庁で始めた、始業・退勤時間を自由に選べる「フレックスタイム制」との組み合わせも検討しながら、開始時期などは今後詰めるとしています。

    なお、昨年の取り組みについて総活躍相は、「ゆう活は残業時間の縮減に成果があった」と語ったということです。
    実際、大手商社の伊藤忠商事は2014年5月から朝型勤務を導入しています。
    2016年3月期の純利益が3300億円超との予想もあり、長年トップの座にある三菱商事を追い抜いて商社で初のトップが確実とされているのには、朝型勤務の好影響があるのではないかともいわれているようです。

    データを見ていくと、朝型勤務導入前に比べ、早朝勤務を含む残業時間は10%減、支給する残業代は7%減、朝食支給などを含むトータルの残業代は4%減で、東京本社の電気代も6%の節約になっているといいます。

    また、純利益は導入前の2450億円(2014年3月期)から今期予想の3300億円へ850億円も増加しています。

    朝型勤務は、会社にとっても社員にとってもいいことばかりのように思えます。
    しかし、じつは思わぬ問題が潜んでいる可能性があります。

    それは、労働トラブルの火種です。
    【未払い残業代に関する労働トラブルが急増!?】
    厚生労働省の公表している統計資料「平成26年度過重労働解消キャンペーンにおける重点監督実施状況」によると、以下のような結果が出ています。

    ・違法な時間外労働があったもの:2304事業所(50.5%)
    ・そのうち、時間外労働の実績がもっとも長い労働者の時間数が、
    月100時間を超えるもの/715事業場(31.0%)
    ・月150時間を超えるもの:153事業所(6.6%)
    ・月200時間を超えるもの:35事業所(1.5%)
    ・賃金不払残業があったもの:955事業所(20.9%)

    違法な時間外労働があった会社は半数以上、残業代の未払いがあった会社は5社に1社もあるということです。

    では、これらの行為はなぜ問題になるのでしょうか。
    そもそも残業とはどういうものをいうのでしょうか。
    【残業と割増賃金について】
    会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めたものに「労働基準法」があります。
    この法律は、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。

    内容を詳しく見ていきます。

    「法定労働時間」
    会社が、従業員を働かせることができる労働時間を「法定労働時間」といいます。
    原則として、1週間で40時間、かつ1日8時間までとなっています。
    (労働基準法第32条)

    「割増賃金」
    法定労働時間外の勤務をさせたとき、会社は従業員に「割増賃金」を支払わなければいけません(同法第37条)
    割増賃金は、「時間外労働(残業)」、「休日労働」、「深夜労働」などによって発生します。
    なお、時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

    「法定休日」
    原則として、会社は従業員に対し1週間に少なくとも1日は休日を与えなければなりません。
    これを「法定休日」といいます。
    会社が法定休日に従業員を働かせた場合、「休日労働」として割増賃金を支払わなければいけません。
    同様に、会社が午後10時から午前5時までの間に従業員を働かせた場合、「深夜労働」として割増賃金を支払わなければいけません。

    「36協定」
    会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結し、かつ行政官庁にこれを届けることにより、その協定の定めに従い労働者に時間外休日労働をさせることができます。
    これは、労働基準法第36条に定められているため、「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれます。
    36協定の届け出をしないで時間外労働をさせた場合も、労働基準法違反として、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されるので注意が必要です。
    【残業代の算出方法】
    「割増賃金(残業代)の割増率」
    会社が従業員に支払わなければならない割増賃金(残業代)の割増率は、以下のように規定されています。
    ここを間違うと、当然に法律違反となります。

    ①1ヵ月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率(125%)

    ②1ヵ月の合計が60時間を超えて行われた場合の時間外労働については5割以上の率(150%)(例外あり)

    ③休日労働については3割5分以上の率(135%)

    ④深夜労働については、それぞれ2割5分以上の率

     

    【割増率一覧】

     

    ④深夜労働

    時間内労働

    100%

    125%

    ①時間外労働(1か月60時間以内分)

    125%

    150%

    ②時間外労働(1か月60時間超分)

    150%

    175%

    ③休日労働

    135%

    160%

     

    「残業代の計算式」
    残業代は次の計算式によって求められます。

    「残業代」=「基礎賃金」×「割増率」×「残業時間数」
    ※基礎賃金は通常の労働時間又は労働日の賃金
    【朝型勤務にも残業代は発生するのか?】
    ところで、ここで疑問が湧きます。
    朝型勤務の時間は、法定時間外労働にならないのでしょうか。

    仮に、9時始業、18時終業(休憩時間1時間)の会社があり、Aさんは7時に出勤して仕事をしているとします。
    7時から9時までの2時間に残業代は発生しないのでしょうか。

    朝型勤務が業務命令で、しかも就業規則にも明示されている会社であれば、多くの場合、始業時間が2時間早い7時になれば、就業時間も2時間短縮されて16時になるでしょう。
    そうであれば、朝の2時間には残業代は発生しません。
    効率よく仕事をすることで、夕方からの時間を自由に使うことができます。

    しかし、朝型勤務の導入が業務命令ではなく就業規則にも定められていない会社では、従業員の自由意思ということで朝の残業代を支払っていないというのがほとんどなのではないでしょうか。
    労働基準法に照らせば、当然、会社は従業員に対して残業代を支払わなければいけないにもかかわらずです。

    また、朝型勤務に切り替えたとしても、就業時間内に仕事が終わらなければ従業員は残業せざるを得なくなり、結局は残業が増えることになってしまいます。

    前述の伊藤忠商事では、20:00~22:00の残業を原則禁止、22:00以降は禁止としています。
    その代わりに、朝の5:00~8:00の賃金には深夜残業並みの50%増、8:00~9:00は25%増となり、6:30~8:00までは無料で軽食を食べることができるそうです。

    ただし、朝型勤務が制度化されていない現状では、業界や会社によって対応がまちまちであるため、個別に見ながら対応していかないといけなくなります。
    【どのような場合に朝型勤務の残業代が認められるのか?】
    次に、朝型勤務での残業代が認められるかどうか、ケースごとに見ていきます。

    「朝型勤務が業務命令の場合」
    労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間のことをいいます。
    そのため、会社や上司の命令で朝型勤務をするのであれば、上記のように時間外手当が発生する場合があります。

    「掃除・着替え・点呼・準備などのための朝出勤」
    業務内容によっては、業務の準備、後片付け、事業所の掃除、休憩時間中の電話番や店番などがある会社もあるでしょう。
    これらの作業が、使用者の指揮命令下にある時間と評価される場合は、労働時間にあたると考えられます。
    なぜなら、使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含むからです。

    「朝の研修や勉強会への出席」
    会社の研修や勉強会への出席が義務づけられている、または強制参加の場合、あるいは出席しないことで賃下げ・配転などの不利益がある場合は労働時間にあたると考えられます。

    「社長や上司に合わせて朝型勤務をする場合」
    社長や上司の出勤が朝早いため、自分も早朝出勤しなければいけない状況の場合はどうでしょうか。
    命令がある場合や、社長や上司だけでは仕事ができないために自分も出社する必要がある場合などは労働時間にあたると考えられます。
    しかし、社長や上司に気を使って朝早く出社しているような場合では、労働時間とは認められないケースもあるでしょう。

    「自己都合での早朝出勤」
    ラッシュアワーを避けるために朝型勤務をしている人もいると思いますが、この場合、使用者の指揮命令下ではなく、かつ通勤時間は労働時間ではないため時間外手当は発生しません。
    以上、朝型勤務と残業代について解説しました。

    法律に違反した場合、会社側には刑罰が科せられ、民事では未払い残業代にプラスして同額の「付加金」を従業員側に支払わなければならなくなる可能性があります。

    一方、働き過ぎといわれる日本のビジネスパーソンですが、上記のように法律上は残業代を手にすることは労働者の権利ですから会社に遠慮することはないのです。

    今年もGWに突入しています。
    せっかくの長い休養時間ですから、法律知識を学び、これからの自身の働き方について見つめ直してみるのもいいかもしれませんね。
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  • 労働基準監督官が社長を逮捕!?

    2016年03月24日

    労働基準監督官が社長を逮捕することがあるって知ってましたか?

    「外国人実習生に違法な長時間労働させた疑い 社長ら逮捕」(2016年3月22日 朝日新聞デジタル)

    岐阜労働基準監督署は22日午前、外国人技能実習生に違法な長時間労働をさせたなどとして、岐阜県岐南町の婦人・子供服製造会社社長(50)と、岐阜市の技能実習生受け入れ事務コンサルタントの男(50)を最低賃金法と労働基準法の違反容疑で逮捕しました。

    報道によると、2014年12月~15年8月、2人は共謀し中国人技能実習生4人に対し、岐阜県の最低賃金(当時は時給738円)に満たない額で、しかも1日8時間の法定労働時間を超えて働かせ、割増賃金も支給していなかったようで、不払いの賃金の合計は約475万円になるということです。

    容疑者の2人は、技能実習生の帳簿の改ざん、労働基準監督署の立ち入り調査に応じず無視、虚偽説明の繰り返しなどをしていたことから、悪質性が高いと判断されたようです。

    技能実習生は、午後10時~翌午前5時の深夜帯や休日にも働かされていたということで、1ヵ月当たり133~187時間の時間外労働があり、2015年9月に労働基準監督署に申告したことで、今回の発覚につながったとしています。

    技能実習生に対する労働基準法違反などでの逮捕は異例だということです。
    今回のポイントは次の3点です。

    1.違法な長時間労働・割増賃金の不払いによる労働基準法違反
    2.最低賃金以上の額を支払わなかったことによる最低賃金法違反
    3.労働基準監督署の権限の範囲について

    残業代の不払いについては以前、解説しました。

    1週間で40時間、かつ1日8時間の「法定労働時間」を超えて「時間外労働」(残業)させた場合や休日労働・深夜業を行わせた場合、使用者は労働者に「割増賃金」(残業代)を支払わなければいけません。

    労働基準監督署へ届け出をしないで時間外労働をさせたり、時間外労働をさせて割増賃金を支払わなかったりした場合、労働基準法違反で6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

    ただし、労使間で「36協定(さぶろくきょうてい)」を結んでいる場合は、その限りではありません。
    次に、最低賃金法についてです。

    使用者は労働者に対して、国で決められた「最低賃金」よりも多く給料を支払わなければいけません。

    都道府県ごとに定められたものを「地域別最低賃金」、特定産業に従事する労働者を対象に定められたものを「特定最低賃金」といいます。
    使用者は、いずれかのうち高いほうの最低額以上を労働者に支払わなければいけません。

    最低賃金が支払われない場合、労働者は労働基準監督署に訴えることができます。

    「最低賃金法」
    第4条(最低賃金の効力)
    1.使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

    これに違反した場合も、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

    そして、これらの法律に基づいて、労働者の最低労働基準や職場の安全衛生を守るために企業を調査・監督し、法律が守られていなければ使用者を指導するのが労働基準監督署です。

    労働基準監督署には、厚生労働省の専門職員である「労働基準監督官」が所属していて、企業への立ち入り調査(臨検)などをします。

    計画的に対象企業を選定して調査することを「定期監督」、労働者からの申告・告発を受けて調査することを「申告監督」といいます。
    概ね次のような流れで現場での任務を遂行します。

    「労働基準監督官の仕事の流れ」
    1.企業を訪問
    2.立ち入り調査/臨検(使用者や労働者への事情聴取、帳簿の確認など)
    3.法律違反が認められた場合、「文書指導」、「是正勧告」、「改善指導」、「使用停止命令」などを実施
    4.企業からの是正・改善報告を受けて、是正・改善が確認できれば指導は終了
    5.是正・改善が認められない場合、再度監督を実施し、重大・悪質な場合は送検

    ちなみに、立ち入り調査を拒んだり、妨げたりした場合、30万円以下の罰金に処される可能性があります。

    さて、労働基準監督官は、労働基準法の番人、司法警察官、労働Gメンなどとも呼ばれます。
    それは、労働基準監督官が「労働基準法」や「最低賃金法」、「労働安全衛生法」などの法律違反について「刑事訴訟法」に規定する司法警察員の職務を負っているため、警察官と同じような権限を行使することができるからです。

    労働基準監督官の主な権限は次の通りです。
    ・事業場への予告なしの立ち入り調査(臨検)
    ・帳簿書類の提出要求と確認
    ・使用者や労働者への尋問
    ・使用者や労働者への報告・出頭命令
    ・監督指導
    ・法令違反者の送検・逮捕

    通常、労働基準関係法令に違反し、改善が認められない使用者などは送検(刑事事件として起訴するかどうかを決定するために検察官に事件を送ること)されることが多いのですが、今回のケースではさらに悪質だと判断されたことで逮捕になったと思われます。

    送検や逮捕となれば、刑罰を科せられるのはもちろん、会社名や個人名を公表される場合があり、場合によっては今回のように全国に報道されることにもなりますから、会社が被る損害は甚大になります。

    経営者は、ただ利益を上げればいいというわけではありません。
    法令を遵守し、従業員を守り、職場の安全を確保していくことが求められるのです。
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  • 違法に残業させると刑罰を受けます。

    2015年12月25日

    社員に違法な長時間労働をさせていた会社と総務部長が書類送検されました。

    今回は「労働基準法」について解説します。

    「JR京都伊勢丹で違法残業130時間 運営会社と総務部長を書類送検」(2015年12月18日 産経新聞)

    京都下労働基準監督署は、正社員だった男性に違法な長時間労働をさせたとして、京都市下京区の百貨店「ジェイアール京都伊勢丹」を運営するジェイアール西日本伊勢丹の総務部長の男性(51)と、法人としての同社を労働基準法違反の疑いで京都地検に書類送検しました。

    同労基署によると、2014(平成26)年7~12月、総務部の社員だった男性に労使協定で定めた時間外労働の限度時間(1ヵ月に60時間)を超えて、約84~130時間の時間外労働をさせたとしています。

    JR西日本伊勢丹は長時間労働を認め、「事実を真摯に受け止め、社員の労働時間管理に万全を期し、再発防止策に取り組む」としているということです。
    ◆「労働基準法」は、日本国憲法27条「労働権」の規定に基づいて、1947(昭和22)年に制定された法律で、「労働組合法」、「労働関係調整法」と併せて労働三法と呼ばれます。

    ◆労働者の労働契約や労働時間、休日、賃金、安全などの労働条件の最低基準について規定しているもので、労働者と使用者の双方が守るべき重要な法律です。

    ◆労働基準法上、原則として、会社は社員に対し、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはいけません。
    これを、「法定労働時間」といいます。(第32条)

    ◆法定労働時間を超えて社員を労働させた場合、会社は社員に対して「時間外労働」として割増賃金を支払わなければいけません。(第37条)

    ◆原則として、会社は社員に対し毎週に少なくとも1日は休日を与えなければなりません。
    これを、「法定休日」といいます。(第35条)

    ◆法定休日に社員を労働させた場合、会社は社員に対し「休日労働」として割増賃金を支払わなければいけません。

    ◆また、午後10時から午前5時までの間に社員を労働させた場合、会社は社員に対し「深夜労働」として割増賃金を支払わなければいけません。

    ◆残業代の割増率は以下のように規定されています。
    ①1ヵ月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率
    ②1ヵ月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の時間外労働については5割以上の率(現状例外あり)
    ③休日労働については3割5分以上の率
    とされています。
    ④深夜労働については2割5分以上の率
    今回の報道では、「労使協定」で定めた時間外労働の限度時間を超えて、会社が社員に時間外労働をさせたとしています。
    この労使協定は第36条に規定されているもので、「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれます。

    ◆労働基準法第36条では、会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結し、かつ行政官庁にこれを届けることにより、その協定の定めに従い労働者に時間外休日労働をさせることができると規定しています。

    ◆届け出をしないで時間外労働をさせると、労働基準法違反で6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

    ◆時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合も、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。

    労働基準法は、とても厳しい法律で、労働基準法違反がある場合、刑罰が科されてしまうわけですね。

    経営者の方々は、今一度、就業規則や労使協定で定められた残業の限度時間と、実際の残業時間を確認した方がよいでしょう。

    そうしないと、思わぬところで、お縄につかなければならなくなってしまいます。

    「真に生産性を向上させる方法は、何を行うべきかを明らかにすることである。そして、行う必要のない仕事をやめることである」
    (ピーター・ドラッカー/オーストリア出身の経営学者・社会学者)
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  • 「労災隠し」は犯罪です

    2015年08月11日

    労働者の業務中の負傷、疾病、障害、死亡を「労働災害(労災)」といいます。

    また、労災には通勤中でのケガ、病気なども含み、これを「通勤災害」といいます。

    今回は、労災に関する法律違反について解説します。

    「“元請けに迷惑をかけられない”と労災事故報告せず、元事業所長ら書類送検」(2015年8月6日 産経新聞)

    社員が労災事故で休業したにもかかわらず報告書を提出しなかったとして、舞鶴労働基準監督署は堺市の叶電機工業所と、同社舞鶴事業所の元事業所長(71)を、労働安全衛生法(報告義務)違反容疑で地検舞鶴支部に書類送検しました。

    元事業所長は、平成25年11月27日、京都府舞鶴市の工事現場で男性社員(当時44歳)が溶接作業中にやけどを負い4日間休業したにもかかわらず、同労基署に労働者死傷病報告書を提出しなかったようです。

    今年5月初旬、休業した男性社員が同労基署に相談したことで発覚。
    元事業所長らは「元請けに迷惑をかけたくなかった」などと、話しているということです。
    今回のような事例は、「労災隠し」と呼ばれます。

    まずは条文を見てみましょう。

    「労働安全衛生法」
    第100条(報告等)
    1.厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
    3.労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
    これに違反すると、50万円以下の罰金に処されます。(第120条5号)

    さらに、労災の報告について、労働安全衛生法に基づき定められている「労働安全衛生規則」の第97条では、次のように規定されています。

    ・事業者は、労働災害が発生し労働者が死亡、又は4日以上の休業をしたときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しなければいけない。
    ・休業がなかった場合、又は通勤災害の場合は報告の必要はない。
    ・休業が4日に満たないときは四半期ごとの報告書の提出。
    つまり労災隠しとは、「故意に労働者死傷病報告を提出しないこと」や「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すること」による法律違反ということになります。

    では、なぜ労災隠しが起きるのでしょうか。
    「労働基準監督年報」(2012年)によると、労災隠しで送検された総件数は132件で、そのうち6割以上の83件が建設業で起きています。

    建設業が圧倒的に多い理由としては、以下のことなどが指摘されています。
    ・労働基準監督署の調査が入り、是正勧告を受けたり書類送検されたりすると、元請け会社は自治体から一定期間指名停止され、公共事業に入札できなくなってしまうため。

    ・労災を起こした下請け会社も、元請け会社から出入り禁止や取引停止にされれば死活問題となるため。

    ・労災発生によるイメージの低下。

    ・労災発生による将来の保険料負担の増加。

    労災が起きてしまうと、企業にとっては大きなダメージとなってしまいます。
    しかし労災隠しは、適正な労災保険給付に悪影響を与えることや、被災者に犠牲や負担を強いる行為であることから、労働基準監督署が厳しく対応しています。

    また、労災隠しが発覚するのは労働者からの訴えによるものが多いのも特徴で、それは労働安全衛生法によって労働者の申告が認められていることにも要因があると思われます。

    第97条(労働者の申告)
    1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
    2.事業者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
    2項に違反した事業者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第119条1号)

    みらい総合法律事務所では、労災事故の相談を受けることも多いのですが、労災であるにもかかわらず、労災申請をしていない事例がある程度の割合であります。

    しかし、労災隠しは犯罪であることを十分認識し、適切に申告をしていただきたいと思います。

    そのような法定遵守の姿勢が、社員を守り、ひいては会社の発展にも資するのだと思います。

    労災のご相談はこちらから⇒ http://www.rousai-sos.jp/

  • 社員への損害賠償を給与から天引きすると違法?

    2015年08月05日

    給料日が楽しみ! という人は多いでしょう。
    一方、借金の取り立てに戦々恐々で、うれしくはないという人もいるかもしれません。

    いずれにせよ、働いた分の給料をもらうのは当然、と多くの人は思っているでしょう。

    ところが、給料から客への弁償金などを天引きしていたとして元従業員が会社を訴えるという騒動があったようです。

    果たして、法的にはどちらに分があるのでしょうか?

    「アリさんマークの引越社を元社員ら提訴“天引きは違法”」
    (2015年7月31日 朝日新聞デジタル)

    「アリさんマークの引越社」で知られる運送会社「引越社」と関連会社の元社員とアルバイトの男性12人(20~30代)が、引っ越し作業で生じた弁償金を従業員に負担させるのは違法だとして2社を相手取り、支払った弁償金や不当に減額された賃金など計約7千万円を求める訴訟を
    名古屋地裁に起こしました。

    訴状などによると、引っ越し作業で荷物が破損した場合、2社は担当した社員とアルバイトに連帯責任を負わせ、給与から弁済金として弁償費用などを違法に天引きしていたようです。

    また原告の1人は、運送中の事故でトラックが傷つき、修理代金として40万円を負担させられたと主張しているということです。

    さらには、不透明な評価基準による賃金の減額や、業績不振を理由にした一方的な減額もあり、長時間労働に対する残業代の未払いも横行していると訴えているようです。

    弁護団は今後、東京や大阪でも集団訴訟を起こすとしており、原告の1人(28)は「お金を返してほしい。今働いている人が安心して働ける会社になってほしい」と語ったということです。
    【賃金支払いの5つの原則とは?】
    「労働基準法」の第24条では、賃金の支払いには、次の「5つの原則」が定められています。

    ・通貨払いの原則
    ・直接払いの原則
    ・全額払いの原則
    ・毎月1回以上払いの原則
    ・一定期日払いの原則

    この規定に違反すると30万円以下の罰金に処されます。(第120条)

    このうち、今回の件では「全額払いの原則」が適用されます。

    会社は、勝手に労働者に支払う給与から天引きすることはできないのです。
    ただし、例外があります。

    ・法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合
    所得税の源泉徴収、社会保険料の控除などは認められています。

    ・当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合

    上記の場合は、社宅・寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費などを賃金から控除して支払うことが認められています
    【使用者は労働者に対する損害賠償と賃金を相殺できるのか?】
    以上のことから、今回のケースでは次の問題が争点となります。

    使用者である引越社は、労働者である元社員らに対して有する「損害賠償請求権」と「賃金支払義務」を相殺することができるか?

    過去の判例では、最高裁は次のように判断しています。
    「労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない」
    (日本勧業経済会事件 最大判昭和36年5月31日民集15巻5号1482頁)

    つまり、一般的には、使用者が一方的に労働者に対する損害賠償と賃金を相殺することはできない、と解されています。

    労働協約または労使協定があれば天引きは可能ですが、普通は、不法行為に基づく損害賠償請求権と給与を相殺する内容は締結されていないでしょう。

    また、労働者が自由な意思で天引きを認めた時は天引き可能となる可能性がありますが、今回は訴えているくらいなので、自由な意思で認めているかどうかは疑問です。

    今回のケースでは、原告側は「過失のない労働者が注意を払う中で起きた損害は会社が負うべき事業上のリスクで、社員に支払わせるのは不当」と主張しているようです。

    報道内容からだけでは詳しいことはわかりませんが、これから集団訴訟を提起していくということですから、今後の進展を見守りたいと思います。

    なお、未払い残業代については以前、解説していますので参考にしてください。

    詳しい解説はこちら⇒
    「残業代を支払わない会社には倍返しのツケがくる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1574
    今回と同じように未払賃金を請求したい労働者は
    こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/zangyou2/

  • 解雇問題の金銭的解決実現なるか?

    2015年06月19日

    地獄の沙汰も金次第、そんなことわざがあります。
    どんな問題でもお金で解決できる、という意味で使われますね。

    ところで先日、解雇などの労働紛争の金銭解決についての調査結果の報道がありました。
    今後、会社と従業員の関係が変わっていきそうな気配です。

    そこで今回は、労働トラブルとお金の関係について解説したいと思います。

    「<解雇など労働紛争>金銭支払いの解決が9割超える」(2015年6月15日 毎日新聞)

    解雇などに関する労働紛争のうち、労働局による「あっせん」、「労働審判」と、「裁判での和解」の計約1500件を調査したところ、金銭の支払いによる解決が9割を超えていたことが厚生労働省の公表でわかりました。

    労働局による「あっせん」は、2012年度に4つの労働局が受理した853件を調査。
    使用者(会社)側と労働者(従業員)側が合意に至ったのは324件で、全体の約38%。
    そのうち313件(96.6%)が金銭の支払いで解決しており、金額の中央値は15万6400円。
    労使間の合意が成立するまでの期間は、中央値で1.4ヵ月でした。

    「労働審判」は、2013年に4つの地裁が結論を出した452事例を調査。
    金銭解決は434事例(96%)で、金額の中央値は110万円。
    申立日から審判の終了までの期間は、中央値で2.1ヵ月。

    「裁判での和解」は、2013年に4つの地裁で成立した193事例を調査。
    金銭による和解は174事例(90.2%)で、金額の中央値は230万円。
    民事訴訟の解決までには平均6ヵ月以上かかっているようです。

    また、正社員は労働審判や裁判を活用する傾向が強く、非正規労働者は、あっせんを使う割合が高かったということです。

    なお、この調査は、2014年に政府が閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」で、新たな紛争解決の仕組みとして解雇の金銭解決を制度化するための基礎資料として使われる予定で、厚生労働省は2015年内に制度の骨格をまとめる方針。

    一方、労働組合などからは、「解雇を容易にすることにつながる」との反発が出ているということです。
    【あっせんと労働審判の違いとは?】
    厚生労働省が6月に公表した「平成26年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は103万3047件で、前年比1.6%減ですが、7年連続で100万件を突破しています。

    個別労働紛争の相談内容のトップは「いじめ・嫌がらせ」で6万2191件(21.4%)、2位が「解雇」で3万8966件(13.4%)、3位が「自己都合退職」で3万4626件(11.9%)。
    また、労働者からの相談が全体の81.7%、事業主からの相談は10.4%となっています。

    労働紛争の解決法には、主に①個別労働紛争解決制度(あっせん等)、②労働審判、③民事訴訟による裁判、があります。

    あっせんとは、紛争調整委員会が紛争の当事者間の調整を行い、話し合いを促進することによって、紛争の解決を図る制度です。

    対象となるのは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争で、募集・採用に関するものは対象になりません。

    平成26年度の統計では、助言・指導申出件数は23万8806件で、1ヵ月以内に97.3%が解決。
    あっせん申請件数は5010件で、2ヵ月以内での解決は92.0%となっています。

    労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行い、適宜調停を試みながら、調停による解決に至らない場合には紛争の実情に即した解決をするための労働審判を行うという紛争解決手続です。

    労働審判手続によって労働紛争が解決しない場合には、訴訟手続に移行する点に大きな特色があります。
    【金銭解雇の制度化は成立するのか?】
    ところで、今回の報道にある「日本再興戦略改訂2014」とは何かというと、アベノミクスによる経済の成長戦略を一過性のもので終わらせずに持続させるための改革案ということのようです。

    2014年6月に閣議決定され、その後、「労働市場改革」、「農業の生産性拡大」、「医療・介護分野の成長産業化」など規制改革にフォーカスして議論を重ね、1年後の今月に新たな答申をまとめ、これが公表されています。

    保険調剤薬局の営業を病院内でもできるように医薬分業を規制緩和することや、税金が低く抑えられている農地(耕作放棄地)への課税強化などとともに提言されたのが、労働者の解雇の金銭解決です。
    実際、アメリカなどの諸外国では解雇された従業員が裁判で争い、「解雇は無効」という判決が出た後、職場に戻る代わりに金銭を受け取る仕組みがあり、こうした制度も参考にしながら、経済界、産業界が硬直した雇用市場を改善するために解雇の金銭解決の制度化を求めていました。

    実際問題として、私は多くの労働紛争を解決してきましたが、解雇された従業員が「解雇無効だ!」と会社を訴え、1年後に解雇無効の判決を勝ち取ったからといって、もう裁判を争った会社には戻りたくないし、会社の方でも戻って欲しくない、と思っているケースが大半なわけです。

    そうだとすると、解雇の問題を金銭で解決しよう、というのは、それなりの合理性を持っていると言えます。

    報道にもあるように、労働者から見ると、あっせんは短期間で解決しますが、手にする金額は低くなります。
    対して、裁判では時間と費用がかかりますが和解金も高くなるという傾向があります。

    政府は、こうしたバラツキをなくし、解雇問題の金銭解決の方法を知らない労働者の「泣き寝入り」を防ぐためにも、また経営者側に対しては解雇紛争の決着の仕組みを明確にできるメリットがあることからも、新制度を導入して利用しやすくするという目的があるとしています。

    一方で、新制度が導入された場合、解雇数が増大するという懸念もあり、厚生労働省は5月末の段階では一旦、新制度導入については見送るとしていました。
    ところが、今月に入って政府の規制改革会議が2015年内での検討再開を安倍晋三首相に提言したということです。

    確かに、現行の労働関係法では社員は守られているため、会社は簡単に解雇をすることはできません。
    いわゆる問題社員を解雇したくても、なかなかできないという問題を抱えている企業も増加しています。

    また、2013年には解雇を巡る裁判が966件提訴され、そのうち195件で解雇無効が確定していますが、裁判で不当解雇との判決が出ても、結局は職場にいづらくなって会社を辞めてしまう労働者も多くいます。

    私は、個人的には賛成なわけですが、労働者に不当に不利益がおよばないよう、労働者側の意見もよく聞いて、制度化していただきたいと思います。

    そして、もし、トラブルになったら・・・・

    労働トラブルの相談はこちらから⇒ http://roudou-sos.jp/flow/

    不当解雇された時の知識は、こちら。
    不当解雇問題を弁護士に相談すべき7つの理由
    https://roudou-sos.jp/kaikopoint/

  • 安全配慮義務を怠ると会社は損害賠償請求される!?

    2015年06月09日

    中華料理店の料理人が、重い鍋を振りすぎて体を壊したとして会社を訴えた訴訟の判決が出たようです。

    裁判所は、どのような判決を下したのでしょうか?

    「鍋振り続け脚の骨損傷…餃子の王将と男性が和解」(2015年6月5日 読売新聞)

    「重い中華鍋を立ったまま振らされ続け、脚の骨を損傷した」として、中華料理チェーン「餃子の王将」の大阪府内のフランチャイズ店で働いていた男性(40歳代)が運営会社に対し約3600万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁であり、運営会社が男性に400万円を支払う条件で和解が成立したようです。

    報道によると、男性は2009年7月から調理場スタッフとして週6日、1日約12時間勤務。
    1回に15~20人前の食材が入った中華鍋を振っていたところ、股関節に負担がかかり、痛みを訴えたが調理を続けさせられ、2011年1月に退職。
    その後、病院で「脚の付け根の骨の一部が壊死している」と診断され、人工股関節を入れたということです。

    男性は、「鍋の重さは食材を含め5キロ以上あり、過酷な業務で症状が悪化した。店には安全配慮義務違反があった」と主張。
    運営会社は、「業務との因果関係はない」と反論していたようです。

    なお、和解について運営会社は取材に応じず、フランチャイズ契約を結ぶ王将フードサービスは「コメントできない」としているということです。
    5キロ以上の中華鍋を1日に何度も振り続ける仕事を、体感的に想像するのは未経験者にとっては難しいですが、大変な重労働であることはわかります。
    しかし、男性が体を壊す前に会社も本人も、できることはなかったのでしょうか?

    今回の事案でポイントとなったのが「安全配慮義務違反」です。

    労働契約法では、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならないとされています。

    この安全配慮義務に違反した結果、労働者に傷病が発生した場合には、会社は、債務不履行責任として損害賠償義務を負担します。

    その損害賠償とは、今回の例で言うと、治療費、入院看護費用、入院雑費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺症に基づく慰謝料、逸失利益、などです。

    その合計が、400万円という和解金となった、ということですね。

    仕事上、労働者が怪我をしたり、病気になった場合には、労災保険給付がされることがありますが、これ以外にも、会社に前記のような安全配慮義務違反があった場合には、別途会社は損害賠償責任を負担する可能性があります。

    したがって、会社は、常に、労働者の安全に配慮しなければならない、ということです。

    餃子の王将も、本件を契機として、再発防止策を社内で策定しているのではないでしょうか。

    問題が起こった時は、その問題に対処すると同時に、再発防止策を検討、策定することがとても重要です。

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