引きずり死亡事故に懲役15年 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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引きずり死亡事故に懲役15年

2010年09月15日

まだ記憶に新しいと思います。

2008年10月大阪で、元ホストの被告人(24)が、車で会社員(30)をはねた後、約3キロひきずって死亡させた事件がありました。

被告人に対する殺人罪等の刑事裁判の判決が、2010年10月15日、大阪地裁でありました。

求刑は懲役20年。これに対し、判決は、懲役15年の実刑です。

被告人は「頭がパニックになり、引きずりに気付かなかった」と主張していましたが、裁判所は、被告の車は相当大きな異音を出しながら走行していたとの目撃証言などから、被告人は、車底部に人を引きずっている可能性が高いことを認識しながら約3キロ引きずったことから、殺人の故意を認定しました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101015-OYT1T00324.htm

通常、車で人をひいて死亡させた場合は、自動車運転過失致死罪に問われます。この場合の刑罰は、7年以下の懲役または禁錮もしくは100万円以下の罰金です。

自動車運転過失致死罪が適用されるには、人をわざとひくのではなく、「過失」で人をひいたことが必要となります。

しかし、今回は、過失ではなく、殺人の故意があるとして、殺人罪に問われています。

問題は、被告人としては、わざわざ被害者を殺そうとしていたわけではなく、「人を引きずっているから、死ぬかもしれない。でも仕方ない」などと思いながら、引きずり続けたことが「殺人の故意」と認定されていることです。

これでも、「故意」と言えるのでしょうか。

実は、このような故意を「未必の故意」といい、故意の一類型とされています。

被告人は、人をひいた時点で、すぐに車を止め、被害者を救護しなければなりませんでした。そうすれば被害者は一命を取り留め、自分は自動車運転過失致傷罪で済んだのです。

それにもかかわらず、「このまま引きずったら死ぬかもしれない。でも死んでも構わない」という気持ちで引きずり続けたので、殺人罪に問われたのです。ここに大きな違いがあります。被害者の死を許容するかどうかです。そして、被告人は、被害者の死を認容したのです。

なお、事件当時、被害者の妻は2人目の子供を妊娠中。子煩悩だった被害者は、大喜びし、おなかに向かって「お父さんだよ」と話しかけていたといいます。ところが、事件の2カ月後に出産した長女は、約2週間で亡くなったそうです。心労がたたり、負担がかかってしまったのかもしれません。被害者の妻は、「長女を守ることもできなかった」と自分を責め、パニック発作と鬱症状に襲われる日が続いたと言います。

何の罪もない人の命を奪い、幸せな家族を地獄に突き落とした被告人は、どうやって罪をつぐなうべきなのでしょうか?