寝袋に入れるのは、埋葬か!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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寝袋に入れるのは、埋葬か!?

2010年09月10日

2010年10月10日午前3時10分ころ、警察に1人の男が自首しました。

聞くと、「坂井さんを殺して、部屋に置いている」とのこと。ただちに広島県警福山東署の署員が男の自宅を調べたところ、クローゼットから寝袋に入れられた遺体が発見されたそうです。

この場合、ただちに殺人罪が想定されます。殺人容疑で逮捕すべきでしょうか?

実際には、警察は、殺人容疑ではなく、死体遺棄容疑で逮捕しました。

死体遺棄罪(刑法190条)
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。

警察の立場に立ってみると、ただちに殺人容疑で逮捕するよりも、死体遺棄容疑で逮捕する方が無難な対処方法ということになるからです。

一旦逮捕すると、勾留延長期間を含め、約3週間で取り調べ、起訴するか、あるいは釈放しなければなりません。

しかし、殺人罪を調べるとなると、殺人の動機、殺人の故意、どこでどのように殺したか、凶器は何か、などを特定するという大変な作業となります。

他方、死体遺棄罪であれば、死体があり、それを遺棄した、という比較的簡単な捜査で結論を出すことができます。

そこで、結論を出しやすい死体遺棄罪で逮捕勾留し、その間に色々捜査するとともに被疑者を取り調べ、殺人容疑についても捜査を進めるのです。

そして、捜査の進展によって殺人容疑が固まったところで、殺人罪で再逮捕するのです。

ところで、死体遺棄罪にいう遺棄とは、「社会通念上埋葬と認められないような態様で放棄すること」です(前田刑法第4版・499頁)。

今回は、寝袋に入れたまま放置したことから、社会通念上埋葬とは認められませんので、死体遺棄罪になります。

過去の判例では、祈祷類似行為を行ってきた者が、死亡した子供(6歳)が生き返るものとして約3ヶ月間祈り続け、塾生を死体の側に付き添わせ、「波動機」という工作物を死体の周りに設置していた例も死体遺棄罪とされました。(福岡高裁宮崎支部平成14年12月19日)

これも、社会通念上埋葬とは認められないためです。

では、戦争映画等で兵士が戦死した兵士を土に埋め、木を土に刺してその上にヘルメットなどをかぶせて追悼するシーンは、死体遺棄罪にあたるでしょうか。

実際には、日本国内で行われる必要がありますが、それは今回考えないことにします。

戦場ということになると、全てが非日常の世界であり、そもそも社会通念がありませんから、社会通念上の埋葬もありません。そうすると、「社会通念上埋葬と認められない態様で放置した」として死体遺棄罪に該当しそうです。

しかし、他に埋葬手段があれば別ですが、戦場でわざわざ葬儀屋に連絡して、葬式を執り行って、お坊さんも呼んで、皆で火葬場へ、というわけにもいかないでしょうから、死者に対して敬意を表する正当な埋葬である、として違法性が阻却されると考えたいと思います。

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