父親の気づき~大切なことは何?
父親はイライラしていた。
ある地方で大地震があったのだが、父親の経営する会社の大口取引先がその地方にあり、壊滅状態になってしまったのだ。
今後の取引は見込めない。
毎日家に帰っても原発の話ばかり。
コンビニでいつも飲む水を買おうとしても、買い占めで1本もない。
イラついた表情をして、家の玄関を開けると、5歳の娘が飛びついてきた。
「パパ、おかえりー」
父親は、むっつりした顔で、娘を押しのけた。
「パパは今、疲れてるんだ」
むすっとした顔で夕食を摂った後、新聞を読んでいると、また娘がじゃれついてきた。
父親は、娘の小さな細い腕をはねのけると、厳しい表情で、
「パパは疲れてると言っただろ。あっちへ行ってなさい!」
と怒鳴りつけた。
娘は半泣きになりながら、とぼとぼと去っていった。
少しすると、リビングから娘の声が聞こえた。
飼っている犬に向かって何か言っているようだ。
よく見ると、犬がしっぽを振って娘にじゃれついているのに対し、娘が、
「私は疲れてるのよ。あっちへ行ってなさい!」
と怒鳴っている。
父親は、娘に対し、「せっかく犬がなついてきているのに、可愛そうだろう。もっと優しくしてあげなさい」と言おうとした瞬間、愕然とした。
娘の態度は、つい今しがたの自分の娘に対する態度そのものだったのだ。
「私は、娘に対してなんて酷い態度を取ってしまったのだ。子供は親の自分に対する態度に多大な影響を受けて育つものだ。さっきの私の態度はなんだ!自分のことばかり考えていて、娘の気持ちなんか一切考えていない。私は、娘をそんな自己中心的な大人に育てようとしていたのだ」
「そういえば、会社でもそうだ。イライラしてしまって、部下達に厳しく辛くあたってしまった。今、置かれてる状況は、部下達だって皆同じじゃないか。皆ストレスがたまってイライラしているのに、私ばかりが自分の気持ちを皆に押し付けていたのだ」
そんなことを考えていると、父親の目から涙があふれてきた。
涙をぬぐうこともなく、涙が頬を流れるのにまかせていると、娘が父親の異常に気付いて恐る恐る近寄ってきた。
「パパ、大丈夫?」
父親は、強く娘を抱きしめた。
「さっきは厳しいことを言って悪かったな。もう二度とあんなことは言わないと誓うからな」
「私の方こそごめんなさい。パパが疲れてる時は、邪魔しないようにするからね」
最近、東北の大震災や原発のニュースが続いているせいか、私の周りでもイライラしている人が多いようです。
しかし、相手も同じだと思います。
自分の感情に振り回されて、大切なものを見失わないようにしたいものです。