遺留分侵害額請求権と小規模宅地の特例 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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遺留分侵害額請求権と小規模宅地の特例

2020年12月04日

税理士向け記事です。

国税庁より、遺留分侵害額請求にかかる質疑応答事例が公開されましたので、ご紹介します。

すでに知っている先生は、読み飛ばしていただければと思います。

【タイトル】遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の特例の適用の可否(令和元年7月1日以後に開始した相続)

【照会要旨】
被相続人甲(令和元年8月1日相続開始)の相続人は、長男乙と長女丙の2名です。乙は甲の遺産のうちA宅地(特定居住用宅地等)及びB宅地(特定事業用宅地等)を遺贈により取得し、相続税の申告に当たってこれらの宅地について小規模宅地等の特例を適用して期限内に申告しました(小規模宅地等の特例の適用要件はすべて満たしています。)。

その後、丙から遺留分侵害額の請求がなされ、家庭裁判所の調停の結果、乙は丙に対し遺留分侵害額に相当する金銭を支払うこととなりましたが、乙はこれに代えてB宅地の所有権を丙に移転させました(移転は相続税の申告期限後に行われました。)。
丙は修正申告の際にB宅地について小規模宅地等の特例の適用を受けることができますか。

【国税庁による回答は、ウェブサイトで】

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/01/05.htm

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上記について、法的な解説をします。

答えとしては、

・乙には譲渡所得税

・丙は小規模宅地の特例は不適用

となります。

原理は、同じです。

2020年7月1日より前に開始された相続では、不動産について、遺留分減殺請求権が行使された時、不動産は物権共有となっていました。

しかし、相続法改正により、遺留分侵害額請求は、【金銭請求】となりました。

したがって、たとえば、不動産について、遺留分侵害額請求権を行使した場合には、物権共有ではなく、「金●●円の請求権」となります。

そうすると、乙から見ると、「金●●円の債務」となるわけで、この債務を不動産の所有権を丙に移転することにより、債務を消滅させる、ということになるので、法律上、「代物弁済」となります。

ということは、乙は、その所有する不動産を丙に譲渡して債務を消滅させた、ということになるので、通常の不動産譲渡と同様に、譲渡所得税の課税問題となります。

そして、丙は、金銭請求権の弁済に代えて不動産の所有権に移転を受けた、ということになるため、「相続又は遺贈により取得した」ことにはなりません。

したがって、小規模宅地の特例の要件を満たさない、という結論になります。

法律上の性質を知っていれば類似事例も全て解決できると思いますが、結論だけ憶えていると、基本的なことでも「あれ?」となることもあるかと思いますので、念のための解説でした。