給与所得の事業所得の区別の判断基準(最高裁判決) | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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給与所得の事業所得の区別の判断基準(最高裁判決)

2020年08月31日

今回は、所得税法上の給与所得と事業所得の区別の判断基準について、有名な最高裁判決を確認しておきたいと思います。

ある役務の提供が給与所得か事業所得かを判断するについては、消費税基本通達1-1-1を参考にしている先生も多いと思います。

しかし、同通達は、「出来高払いの給与と請負による報酬」の区分に関する判断基準を示しているもので、総括的に給与所得と事業所得の区分に関する判断基準を示しているものではありません。

同通達は、次のような表現となっています。

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出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

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そして、請負契約を前提とした4要素が示されているわけです。

したがって、これに当てはまらない場合には、給与所得と事業所得の区別の判断基準を示した最高裁判決の基準に照らして検討することになるかと思います。

(最高裁昭和56年4月24日判決・弁護士顧問料事件)です。

弁護士の顧問料が給与所得か事業所得かが争われた事案です。

何度もお読みになった先生が多いかと思います。

同判決では、事業所得は次の要素を持っているとされています。

(1)自己の計算と危険
(2)独立して営まれ
(3)営利性、有償性を有し
(4)反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務

これに対し、給与所得は次の要素を持っているとされています。

(1)指揮命令に服して労務提供
(2)空間的、時間的な拘束
(3)継続的ないし断続的に労務又は役務の提供

そして、同判決では、弁護士の顧問料を事業所得としています。

理由は、以下のとおりです。

===================

(1)各顧問契約には勤務時間、勤務場所についての定めがない(時間的、空間的拘束の否定)

(2)契約はその頃常時数社との間で締結されており、特定の会社の業務に定時専従する等格別の拘束を受けるものではない(指揮命令、時間的拘束の否定)

(3)契約の実施状況は、多くの場合電話により、時には右各社の担当者が法律事務所を訪れて随時法律問題等につき相談するため、弁護士が出向くことはない(指揮命令、空間的拘束の否定)

(4)相談回数は会社によつて異なり、月に二、三回というところや半年に一回、一年に一回というところもある(継続的、断続的労務提供、時間的拘束の否定)

(5)各社はいずれも本件顧問料を弁護士の業務に関する報酬にあたるものとして支払っており、各種保険料などを控除しておらず賞与等も払っていないので、雇用契約と認識していない。(当事者の認識)

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消費税基本通達1-1-1も、この基準を請負契約に当てはめたものと考えられます。

(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。(時間的・空間的拘束の有無、独立性の有無))

(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。(指揮命令)

(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。(自己の計算と危険の有無、継続的役務提供の対価)

(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。(自己の計算と危険の有無、独立性の有無)

したがって、通達で当てはまらない場合には、最高裁判決に立ち戻って判断するのがよいと思います。