バドミントンで失明、ペアの相方に1300万円の賠償命令! | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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バドミントンで失明、ペアの相方に1300万円の賠償命令!

2018年11月20日

今回は、趣味のスポーツを楽しんでいた際の事故について、チームメート間で被害者と加害者に分かれて訴訟が起きた件について解説します。

「バドで左目負傷、ペア女性に1300万賠償命令」(2018年10月29日 読売新聞)

東京都内の40歳代の女性が、バドミントンでダブルスを組んだ相方のラケットが目に当たって大けがをしたとして損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁の判決が出ました。

東京高裁は、ペアの女性の全責任を認めて約1300万円の支払いを命じたということです。

事故発生から今回の判決までの経緯は次の通りです。

2014年12月、趣味のバドミントン教室の仲間ら4人が都内の体育館でプレーしている最中、ペアの女性が相手コートから飛んできたシャトルを打ち返そうとバックハンドでラケットを振ったところ、ネット際にいた原告の左目に当たった。

原告は、左目の瞳孔が広がって光の調節が難しくなり、日常生活に支障をきたすようになったため、慰謝料やパートの休業補償などを求めて提訴。

1審・東京地裁は、「原告も一定程度の危険を引き受けて競技していた」と判断し、損害賠償額を約780万円とする判決を出していた。

今回の2審の控訴審では、被告側は「原告が危険を避けるべきだった」と主張。

東京高裁は、被告は原告を視界に収める後方の位置でプレーしていたことから、「被告は原告の動きに注意し、ラケットが当たらないように配慮すべきだった」、「バドミントンはボクシングのように身体接触のある競技ではなく、原告は他の競技者によって危険が生じるとは認識していなかった」と判断。

また、「スポーツであることを理由に加害者の責任が否定されるのであれば、国民が安心してスポーツに親しむことができなくなる」とも指摘。
そのうえで、被告にすべての責任があると認定した。

スポーツのプレー中における事故について、チームメートにすべての責任があるとしたということは、過失割合が0対100ですから、異例な司法判断ですね。

報道からだけでは詳しいところはわかりませんが、法的根拠は不法行為責任ということになると思います。

「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

危険な結果を予見でき、かつ、結果を回避することができるのに、回避しなかった結果、損害が発生したという判断です。

私はバドミントンの競技経験者ではありませんが、ダブルスの場合、前衛の選手は後ろを向いてはいけない、と指導されることが多いという話も聞きます。

報道によると、後衛の人がバックハンドで振ったラケットが前衛の人の左目を直撃したということは、前衛の人は後ろを振り向いていたとはいかないまでも、少なくとも顔は前を向かずに横を向いていたということが考えられます。

1審・東京地裁は、「原告も一定程度の危険を引き受けて競技していた」と判断し、今回の2審・高裁判決では「被告にすべての責任がある」と認定しており判断が分かれたわけですが、今後、被告側が上告するのか、事の行方を見守りたいと思います。

不法行為の成立自体は認定されそうなので、あとは被害者に過失があったかどうか、また、バドミントンは危険を伴う競技なのか、などが争点と言えそうです。

ただ、大学時代まで体育会でスポーツをしてきた者からすると、今回の判決がアスリートや子供たちを萎縮させはしないか、また一般のスポーツ愛好家が「これでは怖くてスポーツを楽しめない」と思ってしまうとしたら、それは不幸なことだとも感じます。

今年は、アメリカのメジャーリーグだけでなく日本のプロ野球でも、打者がヘルメットの耳当て部分にフェイスガードを装着している姿が目立ちました。

これは、「Cフラップ」と呼ばれるものだそうで、頬骨やあごを守るために装着しているわけですが、これからはバドミントンだけでなく、ラケットを使うテニスや卓球などでもフェイスガードやマスクを装着しなければいけない時代になるのでしょうか。

スポーツ愛好家は、今後はスポーツ保険への加入なども検討していく必要があるかもしれません。