飲酒運転の“追い飲み”や“逃げ得”は発覚免脱罪
今回は「追い飲み」や「逃げ得」行為に関する罪について解説します。
「死亡ひき逃げ懲役6年 静岡地裁判決、追い飲み“卑劣で悪質”」(2018年7月18日 静岡新聞)
飲酒運転による交通事故でミニバイクの男性を死亡させたうえ逃走し、事故後に酒を飲んだとして、自動車運転処罰法違反(過失致死アルコール等影響発覚免脱)と道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われた男(20)の判決公判が静岡地裁であり、懲役6年(求刑懲役7年)が言い渡されました。
判決内容は次の通りです。
・多量に飲酒した後、帰宅のため安易に運転をした動機に必要性や緊急性は一切ない。
・追い越し禁止区間で対向車線にはみ出し、法定最高速度の時速50キロを大幅に上回る約100キロで走行した点について、過失は甚だ大きい。
・飲酒運転の発覚を恐れて現場から逃走し、自宅でさらに酒を飲む「追い飲み」行為に及んだ点については、卑劣で悪質。
判決によると、事件が起きたのは今年(2018年)4月13日午前0時25分頃。
男は焼津市の国道150号で乗用車を飲酒運転し、交差点を右折しようとしていた静岡市葵区の会社員の男性(当時27歳)のミニバイクに追突して死亡させ、そのまま逃走。
同日午前1時頃、飲酒運転の発覚を免れるため、自宅でウイスキーを飲んだということです。
「自動車運転死傷行為処罰法」は、2014(平成26)年5月20日に施行された比較的新しい法律です。
本法の施行以前は、たとえば「鹿沼市クレーン車暴走事故」(2011年4月18日発生)や「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」(2012年4月23日発生)などの無免許やてんかん発作などにより重大な被害を起こした交通事故、あるいは飲酒運転やひき逃げなどの悪質な交通事故が起きても、当時の刑法における危険運転致死傷罪を適用する構成要件には該当せず、すべてが罰則の軽い業務上過失致死傷罪やその後できた自動車運転過失致死傷罪で起訴されるということが起きていました。
そこで、厳罰を望む社会的な運動などの高まりを受けて自動車運転死傷行為処罰法が成立したという背景があります。
詳しい解説はこちら⇒
「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1)」
https://taniharamakoto.com/archives/1234/
「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(2)」
https://taniharamakoto.com/archives/1236/
「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」(通称:発覚免脱)は、自動車運転死傷行為処罰法で新たに規定された犯罪類型で、第4条に規定されています。
アルコール又は薬物の影響下で、自動車を運転し事故を起こした場合、事故後にアルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、さらに飲酒したり薬物を摂取したりするか、あるいは逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりすることで、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合に適用されるものです。
法定刑は12年以下の懲役です。
これは、いわゆる「追い飲み」や「逃げ得」を許さないためのものです。
追い飲みとは、危険運転致死傷罪の適用を免れる目的で、飲酒運転で事故を起こしたにもかかわらず、逃げて、さらに飲酒することで、「運転中は酒を飲んでいない、事故後に家に帰ってから飲んだ」と主張するものです。
逃げ得とは、飲酒運転で事故を起こし現場から逃げたものの、翌日に逮捕された場合、その時点では体内のアルコール濃度が減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、「過失運転致死傷罪」と「道路交通法違反(ひき逃げ)」しか適用されないため刑が軽くなってしまう、という問題です。
しかし、発覚免脱罪では罰則が重くなります。
今回のケースのように、飲酒運転で人身事故を起こし、その場から逃げた場合、発覚免脱罪の最高刑12年の懲役に、ひき逃げの最高刑10年の懲役が併合され、最高で18年の懲役刑を科される可能性があるわけです。
自動車運転死傷行為処罰法が施行されてから4年が経過しました。
実際、飲酒運転による交通事故や違反の取り締まり件数は徐々に減少しており、抑止効果は出ているようですが、危険で悪質な事故の撲滅には至っていません。
今一度、自動車運転死傷行為処罰法が成立した経緯や背景について理解するとともに、逃げ得はないということをドライバーは肝に銘じる必要があると思います。
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