スマホと嫉妬と遠隔操作
今回は、スマホの遠隔監視アプリを使った犯罪について解説します。
「“俺の元カノと一緒にいるだろ”…交際女性のスマホを遠隔アプリで監視疑い 33歳男を逮捕」(2017年11月29日 産経新聞)
交際していた女性のスマートフォンに情報を監視できるアプリを無断で取り込んだとして、熊本県警荒尾署は福岡県大牟田市の会社員の男(33)を不正指令電磁的記録供用の疑いで逮捕しました。
報道によると、容疑者の男は2017年9月、以前交際していた熊本県内に住む20代女性のスマホにアプリを2回インストールし、女性の位置情報や通話履歴のほか、スマホのマイクで録音した音声や会員制交流サイト(SNS)でのやりとりを、インターネットを通じて自分のスマホで確認できる状態にしていたようです。
交際が終わり10月になってから、男が女性の友人に「俺の元彼女と一緒にいるだろ」と電話をしたことから、不審に思った女性が署に相談したことで犯行が発覚したようです。
男は「承諾を得た」として、容疑を一部否認しているということです。
不正指令電磁的記録供用罪は比較的新しいもので、2011年の刑法改正で新設されています。
「刑法」
第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)
1.正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2.正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
法律用語には、一般的にはわかりにくい用語が使われる場合があるのですが、条文にある「電子計算機」とはコンピューターなどのことで、パソコンやスマホなどの個人使用の電子機器、携帯情報端末も含まれます。
一般用語は定義があいまいで、時代の変化ですぐに移り変わってしまうので、難しい言葉になってしまうわけです。
たとえば、「スマホに無断でアプリをインストールした場合は、3年以下の懲役に処す」と書いたとしても、法律制定後3年経過後に、もしかしたらスマホが新しい技術に駆逐されてなくなってしまっているかもしれない、ということです。
「電磁的記録」とは、電子的方式や磁気的方式で作られたデジタルデータのことで、フロッピーディスクやCD-ROM、USBメモリ、キャッシュカードの磁気部分の他、アプリやウイルスも含まれます。
今回の事件に使われたアプリは、そもそもはスマホが盗難にあったり、紛失した際に、遠隔操作でカメラのレンズやスピーカーを使って場所を特定して探し出すというものです。
数年前から、こうしたアプリを無断で他人のスマホ等にインストールすることで盗撮や盗聴などの犯罪に使われるという事件が起きています。
また、不正アプリを使用した犯罪としては、セクストーションという性的脅迫事件も起きています。
詳しい解説はこちら⇒
「不正アプリを使った“性的脅迫”事件が急増中!?」
技術革新は人々の生活を豊かにしたり便利にもしますが、時として犯罪に使われてしまうという側面があります。
そして、人の嫉妬心の怖さをあらためて考えさせられる事件でした。
人間の嫉妬は、彼らがみずからいかに不幸に感じているかを告げるもので、彼らが他人の行為に絶えず注目しているのは、彼らみずからが退屈していることを示すものだ。
(ショーペンハウエル著『幸福のための警句』より)