アーティストのチケットの転売は犯罪!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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アーティストのチケットの転売は犯罪!?

2017年05月18日

今回は、ファン心理につけ込んだ“ずるい”行為が犯罪になる件について解説します。

「EXILEチケットを転売目的で大量購入 ダフ屋容疑で23歳を逮捕」(2017年5月12日 産経新聞)

警視庁生活安全特別捜査隊は、人気グループ「EXILE」のメンバーらが出演するコンサートのチケットを転売目的で大量購入したとして、東京都調布市の洋服店店員の男(23)を、東京都迷惑防止条例違反(ダフ屋行為)の疑いで逮捕しました。

報道によると、容疑者の男はEXILEのファンクラブに48口加入し、1枚当たり定価1万2960円のチケットを先行予約。
2016(平成28)年6月20日未明、調布市国領町のコンビニで
同年9月に東京ドームで開催されたコンサートチケット98枚を計約130万円で購入。
その後、インターネットの販売サイトに最高約10万円で出品したということです。

2015年7月から今年1月、サイトの運営業者から男の口座に約2000万円が振り込まれていることから、生活安全特別捜査隊は同様の手口を繰り返していたとみて調べているようです。

男は、「転売目的でなく、いい席で見たいから買った」と容疑を否認しているということです。
人気のあるアーティストの場合、競争率が高いためファンだからといって誰でもコンサートやライブのチケットを手に入れられるわけではありません。
そこで今回のようなダフ屋行為が繰り返されているわけです。

ダフ屋は、転売屋または転売師と呼ばれるもののひとつで、チケット等を転売目的でに購入し、高値で販売することで利益を得ます。

現代ではインターネットが発達しているため、今回の事件のようにネットオークションで高値で転売する行為が問題になっています。

今回の容疑は、迷惑防止条例です。

迷惑防止条例は、全国の47都道府県でそれぞれ制定されています。
東京都の迷惑防止条例は、正式名称を「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といいますが、この第2条で「ダフ屋行為の禁止」について規定しています。

まず、条文を見てみましょう。

第2条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。
2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。
条文が長いため、ここでは要約して内容をまとめておきます。

1.転売の対象となるもの
・乗車券や急行券、寝台券(その他、運送機関を利用し得る権利を証する物)
・入場券、観覧券などのチケット(その他、公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物)

2.違反となる転売の目的
・不特定の者に転売する目的
・転売目的者に交付する目的

たとえば、自分で行こうと思って買ったチケットは、初めから転売目的での購入ではないので、自分が行けなくなったために他人に転売しても、罪には問われません。

3.違反となる買い、または買おうとする以下の行為
・買う
・うろつく
・つきまとう
・呼びかける
・ビラなどを配る
・列に並んで買おうとする

4.転売目的で得たチケットに関し、売り、または売ろうとする以下の行為

・売る
・うろつく
・つきまとう
・呼びかける
・ビラなどを配る
・展示して売ろうとする
5.上記3および4の行為をしてはいけない場所
・公共の場(道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、その他の公共の場所)
・公共の乗り物(汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機、その他の公共の乗物)

6.法定刑
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(第8条)

容疑者の男は、多くのお客が利用するコンビニの発券機でチケットを買ったため、「公共の場で」チケットを買ったと解釈されたということでしょう。

いい席を手に入れたいから、98枚もの大量のチケットを買ったという言い訳は通用しないでしょう。

ところで、迷惑防止条例は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」という名のとおり、「公衆への迷惑行為」を取り締まることを目的とする条例です。

「転売」自体を取り締まるのが目的ではありません。

したがって、インターネット上で転売目的でチケットを購入し、インターネット上で転売した場合には、迷惑防止条例の適用対象外ということになってしまいます。

そのような場合の規制としては、古物営業法があります。

過去には、約1年半にもわたって168人に299枚もの大量のチケットを販売したということで、古物営業法違反で逮捕された例があります。

「古物」とは、一度使用された物品や美術品、商品券、乗車券、郵便切手、あるいは使用されない物品で使用のために取引されたものなどをいいます。

ちなみに、古物の「営業」とは、生業に限定されず、「営利を目的として、反復継続する」ことです。

したがって、インターネット上でも、大量にチケットを購入し、大量に転売していると、古物営業法違反に問われる可能性がある、ということです。

このような転売が横行すると、コンサートに行きたいファンのチケット入手が困難になるので、問題になっています。

しかし、だからといって、転売行為を刑罰をもって規制するのは行き過ぎのようにも思います。

まずは、コンサートの主催者が、本人確認制度を導入する等の対応策を講じることが望ましいと思います。

本人確認制度を導入し、チケットの名宛て人以外の立ち入りを禁じたにもかかわらず、身分証偽造などにより入場した場合は、公文書偽造罪や私文書偽造罪、住居侵入罪、詐欺罪その他犯罪が成立する可能性が出てくるので、一定の抑止力になるのではないでしょうか。