従業員への罰金制度は法律違反です。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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従業員への罰金制度は法律違反です。

2017年04月25日

今回は、従業員のミスや欠勤などに対して罰金を課すと、会社や社長などが逮捕、書類送検される可能性があるということについて解説します。

Q)私の会社では「罰金制度」があります。遅刻や欠勤、営業成績などで罰金を取られるのです。上司などは、ゲーム感覚のようにとらえている部分もあるようなのですが、正直、私は納得がいきません。従業員から罰金を取ることは法律的には違法ではないのでしょうか?

A)使用者は労働者に対して罰金を支払わせる契約を結ぶことはできません。もし罰金を課している会社があれば、労働基準法違反に問われる可能性があります。
労働基準法は、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図ることを目的として1947(昭和22)年に制定された法律で、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などについて定めています。

では、今回の質問に関係する条文を見てみましょう。

「労働基準法」
第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
これに違反した場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。

たとえば、従業員が無断欠勤をしたり、何らかのノルマを課して達成できなかった場合に罰金を取るといったことをすると、使用者として社長や店長などが逮捕、書類送検される可能性があるわけです。

近年、こうした罰金制度に関する労働基準法違反の報道が相次いでいるので、以下にまとめておきます。
2016年8月、人気の喫茶店チェーン店で、アルバイトがオーダーのミスをしたり、辞める1ヵ月前に報告しなかった場合や無断欠勤した場合に罰金を課していた店舗があったことが発覚。
2017年1月、コンビニチェーン大手の東京都武蔵野市の加盟店が、風邪で欠勤したアルバイトの女子高生(16)から9350円の罰金を取っていたことが発覚。
女子生徒は、1月後半に風邪のため2日間、計10時間を欠勤したところ、給与明細に「ペナルティ」、「9350円」と書かれた付箋が貼られていた。
親会社の広報センター担当者は、「加盟店の法令に対する認識不足で申し訳ない」、「労働者に対して減給の制裁を定める場合、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が賃金総額の10分の1を超えてはならない、と定めた労基法91条(制裁規定の制限)に違反すると判断した」として、加盟店に返金を指導した。
2017年2月、コンビニチェーン大手の名古屋市北区の加盟店でアルバイトの急な欠勤に罰金を課していたとして、愛知県警は中国籍の夫婦で経営者の男(37)と店長の女(37)を労働基準法(賠償予定の禁止)違反の疑いで書類送検した。
容疑者の2人は、「急にバイトが休むと、自分たちが穴埋めをしなければいけない。自由な時間が欲しかった」という理由で、10~30代のバイト男女5人に「急に欠勤した場合は1回1万円の罰金を徴収する」との契約を結ばせていた。
実際、欠勤したバイトはいなかったとみられるが、1人には3回遅刻した罰金として、計3万円を支払わせたという。
2017年2月、中古車販売大手会社内で、自動車保険の契約について月間目標額が定められ、目標を下回った販売店の店長が上回った店長に現金を支払うことが慣行になっていたことが発覚。
同社では全国約80の販売店で、前月の保険販売実績に応じて目標を達成できなかった店の店長個人から10万円を上限に現金を集め、達成した店の店長へ分配していた。
社長は社内メールで、「罰金を払うということは、店長としての仕事をしてないということだ!」、「罰金を払い続けて、店長として(中略)恥ずかしくないか!」などと記載していたという。
ところで、この労働基準法第16条は、条文にあるように「損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としていることに注意が必要です。

つまり、賠償額を予定する契約を禁止しているのであって、従業員に損害賠償請求することを禁止するものではないため、たとえば従業員のミスによって会社に損害が生じた場合は、会社がその賠償を従業員に求めることは違法ではないということです。

また、会社としては、「ノーワーク・ノーペイ」の原則から考えれば、従業員が遅刻や無断欠勤した場合は、その間は働いていないので、当然その分の給料は支払わなくてもいいということになります。
就業規則に、「遅刻や無断欠勤、仕事のミスなどの場合は減給する」と記載することで対応すればいいでしょう。

なお、罰金を給料から天引きした場合は、労働基準法第24条(賃金の支払)に問われる可能性があります。

労働基準法第24条では、賃金の支払いには次の「5つの原則」を定めています。

・通貨払いの原則
・直接払いの原則
・全額払いの原則
・毎月1回以上払いの原則
・一定期日払いの原則

つまり、給料やアルバイト代は天引きせずに、労働者に対し、直接、全額を支払わなければいけないので使用者側には気をつけてほしいと思います。

万が一、労働トラブルが起きた場合は、まずは一度、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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