自動運転車と法律の関係とは?
1985年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
ロックとコーラが好きな高校生の主人公が、親友である科学者が開発した「デロリアン」という名の自動車型のタイムマシンで過去や未来にタイムトリップするが…というストーリーで大きな人気を博し、パート3まで製作・公開されました。
パート2では、30年後の未来、つまり2015年の世界が描かれたことから、今年、ファンの間では現実の2015年との比較などでメディアを中心に盛り上がったようです。
さて、現実に目を向けてみると、タイムトリップできる自動車はまだ開発されていませんが、自動運転で走行する自動車の開発は現実のところまできています。
しかし、技術的な部分や事故時の損害賠償責任など、実用化にはまだ問題があるようです。
そこで今回は、自動運転車と法律の関係について解説します。
「自動運転実験車、公道で事故=民放リポーター乗車、けがなし―愛知」(2015年11月5日 時事ドットコム)
名古屋大学が開発を進めている自動運転車が、公道実験中に自損事故を起こしていたことがわかりました。
事故が起きたのは、10月22日。
名古屋テレビの女性リポーターが運転し、助手席には実験責任者の准教授が同乗。
名古屋市守山区の交差点を左折しようとした際、縁石に乗り上げて左前輪がパンク。
乗っていた4人にケガはなかったようです。
大学が事前に提出した計画書では研究者が乗ることになっていたようで、事故の報告を受けた愛知県産業振興課は、同大学に厳重注意をするとともに、再発防止のために実証実験に関するガイドラインの作成を求めたということです。
実験車は市販のトヨタ・プリウスに自動運転機能を搭載したもので、運転席からハンドルやブレーキペダルなどは操作できるようになっていたようです。
同課では、研究者以外の人間が運転席にいたため、ハンドルやブレーキの操作が遅れた可能性があるとみているということです。
こうした自動走行する自動車は、現在、日本では「自動運転車」と一般的には呼ばれていますが、世界的にはドライバーレスカー、ロボットカーなどとも呼ばれるようです。
じつは、自動運転車の歴史は長く、日本では1980年代に車線を自動認識して走行するシステムを試作していたようですが、実用化には否定的で消極的な風潮があったため、開発はあまり進展しなかったようです。
ところが、2010年になるとアメリカやヨーロッパで公道実験が行われるようになり、アメリカでGoogle(グーグル)社やテスラー社などが積極的な開発に乗り出したことで、2013年、日本でも日産が公道実験を開始。
トヨタやホンダ、スバルなども相次いで参入しています。
2014年、グーグル社の自動運転車の総走行距離が100万キロメートルを突破。
2015年には、テスラー社のシステムは日本以外では高速道路での走行が一部認可され、プログラムの配信を始めています。
また、トヨタは今年、高速道路での報道陣向けの試乗会を開催し、日産は2020年の実用化に向けて早くも一般公道での報道陣向けの試乗会を開催しています。
しかし、さまざまな問題も起きているようです。
テスラー社は、「システムは未完であり、完全な自動運転ができるわけではない。自動運転中に起きた事故については一切責任を負わない」と警告しているにも関わらず、一部ユーザーが一般公道で、ハンドルから手を離して新聞や本を読む、運転席から離れて後部座席でふんぞり返るなどの運転をしている様子を動画に撮影し、投稿サイトに続々とアップ。
中には、事故を起こしかけるなどの危険なシーンも投稿されているようです。
今後、こうした事態が日本でも起きる可能性は十分あります。
万が一事故が起きてしまえば、自分だけでなく他人を傷つけ、命を奪ってしまう危険もあります。
では、法的に見ると、現状の日本において自動運転車には、どのような問題があるのでしょうか?
公道における道路交通に関する法律としては、
「道路交通法」
「道路法」
「道路運送車両法」
があります。
道路交通法第70条は、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」となっています。
ということは、運転者がハンドルやブレーキなどを操作する義務があるので、自動運転車が走るためには、この部分を改正する必要がありそうです。
また、道路運送車両法第41条は、操縦装置などについて、国土交通省令で定める基準に合致した自動車でなければならない、と定めており、この部分も見直す必要が出てきそうです。
そして、自動運転車で事故があった時に、どうなるか、ということです。
自動車損害賠償保障法では、自動車事故で他人に傷害を負わせた場合、自動車を運行の用に供している者(運行供用者)が賠償責任を負う、となっています。
運行供用者が賠償責任を免れるためには、
①故意・過失がなかったこと
②被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
を証明しなければなりません。
実質的な無過失責任を認めたもの、と言われています。
したがって、自動運転車が事故を起こした時も、車の所有者や運転者が訴えられることになります。
訴える方としては、その方が立証をしやすいためです。
自動運転車の構造や機能に欠陥があった場合には、当然メーカー責任、ということになると思いますが、訴訟実務では、車の所有者や運転者が訴えられる、ということが起きてくるでしょう。
また、自動運転車とは言っても、危険時の急制動などは、運転者が制御できるようにするでしょうから、急制動などの措置をとらなかったことが運転者の過失となると思います。
となると、自動運転に完全に任せきることはできず、運転しているときと同様に道路や周囲に注意しておく必要がある、ということになります。
それを怠った時は、過失あり、としては、刑事事件でも民事事件でも責任を問われる、ということになります。
ただし、運転席では、何もできない、という自動運転車になると、また違った話になってきます。しかし、そうなると、かなり法律を変えないと、道路走行は難しいかもしれません。