生卵を投げて書類送検…軽犯罪と暴行罪の違いとは
スーパーマーケットの入り口にいた女性の頭上から生卵が落ちてきて、肩に当たったそうです。
ニワトリが産み落とした…わけではありません。
人が投げ落としたなら犯罪になる可能性があります。
一体、犯人は誰だったのでしょうか?
「高層マンションから生卵30個投げつける 慶大生を書類送検“就活うまくいかず”」(2015年11月19日 産経新聞)
川崎市中原区の高層マンションから東急東横線の線路内など地上に向けて生卵を投げつけたとして、神奈川県警中原署はマンションの住人である慶応大4年の男子学生(22)を軽犯罪法違反(危険物投注)の疑いで書類送検しました。
大学生の男は、今年の10月26日~11月11日の間に、計7回30個の生卵を自宅マンションのベランダから東急東横線の線路内や商業施設の敷地内に向けて投げつけたと供述。
「就職活動がうまくいかず、むしゃくしゃしてやってしまった」と容疑を認めているようです。
現場は、東急東横線の武蔵小杉駅に近い高層マンションが立ち並ぶ人気のエリア。
卵が肩に当たった女性にケガはなかったということです。
では早速、「軽犯罪法」の条文を見てみましょう。
「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
11.相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者
拘留とは、受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰で、科料とは、1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰です。
1948(昭和23)年に施行された軽犯罪法は、軽微な秩序違反行為に対する法律で、騒音や迷惑行為、のぞき、露出、虚偽申告など33の行為を罪として規定しています。
軽犯罪法については以前にも解説しました。
詳しい解説はこちら⇒「犯罪になるストレス発散法とは!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1309
これは、女性の顔につばを吐きかけた男が暴行容疑で逮捕された事件を取り上げたものでした。
ところで、この記事でも解説したのですが、じつは軽犯罪法でも26号で、つばを吐く行為を禁止しています。
しかし、逮捕容疑は暴行罪でした。
今回の事件でも、投げた生卵が女性に当たっているわけですから、暴行罪が適用されてもいいのではないか、という疑問が湧いてきます。
さて、この違いは何なのでしょうか? 条文から考えてみましょう。
「刑法」
第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
法律上の「暴行」とは、人の身体に向けた「不法な有形力の行使」と定義され、相手が傷害を負わなければ暴行罪、傷害を負えば「傷害罪」となります。
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
次にポイントとなるのは、「故意」であったかどうかです。
暴行罪の場合、条文に「人の身体に向けた」とあるように、今回の事件で容疑者は「人を狙って」生卵を投げたのかどうかが焦点となってきます。
容疑者は、線路内や敷地内に向かって投げていた、ということで、「人にぶつけようとして投げた」とは言っていません。
また、状況から考えても人にぶつけようとして投げているようには見えなかったのでしょう。
今のところ、人にぶつける意思があったことが認定できないので、暴行の故意が欠け、他人の身体又は物件に害を及ぼすおそれのある場所に生卵を投げた、ということで軽犯罪法となったものと思われます。
今後、人を狙った旨の供述が出てくれば、幸い女性にケガがなかったことから傷害罪ではなく暴行罪になる可能性もあるということですね。
ちなみに、今年6月には東京都中央区の自宅マンションから2リットルの水が入ったペットボトルを投げ、通行人にケガをさせた高校生(16)が逮捕されるという事件が起きています。
こちらは、人がケガをしていることと、高校生が「投げればケガをさせることは想像した」と容疑を認めたことから傷害容疑での逮捕となったのでしょう。
就職活動がうまくいかなかったとしても、生卵を投げるなどして他人に迷惑をかけてはいけませんね。
投げるなら、せいぜい就職を諦めてさじを投げるくらいにして欲しいものです。
お後がよろしいようで。M(_ _)m