他人のメールを自分宛に転送させると犯罪!?
普段、多くの人が考えていないような、まさか…というところに犯罪の芽があることがあります。
「まさか、自分のメールが他人に盗み見されていたなんて!」
そうなったら、どうしますか?
会社の経営者や役員の人たちにとっては、寝耳に水な事件の初公判で被告が起訴内容を認めたようです。
「役員宛てのメールを自分へ、元SEが不正転送認める 東京地裁公判」(2015年1月8日 産経新聞)
勤務先の会社の役員らに送られたメールを自分に転送されるように設定をしたとして、私電磁的記録不正作出・同供用の罪に問われた元システムエンジニアの男(36)が東京地裁の初公判で起訴内容を認めたということです。
起訴状によると、事件が起きたのは平成24年4月。
被告の男は、当時勤務していた医療従事者向け求人情報紹介会社のパソコンを操作し、役員ら10人宛てのメールが自分に自動転送されるよう不正に設定したようです。
検察側は冒頭陳述で、「被告はシステム管理を任され、メールアドレスの設定などをできる立場にいた」と指摘。
被告の男は、医師らの個人情報を持ち出したとして、不正競争防止法違反(営業秘密の複製)の疑いでも逮捕されていましたが、不起訴処分になったということです。
さて、「私電磁的記録不正作出・同供用罪」とは、どんな犯罪なのでしょうか?
早速、条文を見てみましょう。
「刑法」
第161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)
1.人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
3.不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
「電磁的記録」とは法律用語で、判例ではさまざまなものが認められているのですが、たとえば次のようなものがあります。
・フロッピーディスク(磁気ディスク)
・CD-ROM(光ディスク)
・USBメモリ
・電車などの定期券等の磁気部分
・キャッシュカードやクレジットカード、プリペイカードなどの磁気部分
・デジタル放送を観る際に使うB-CASカード
・オンラインゲーム内のアイテム
・電子メール
・電子計算機(コンピュータやパソコンを含む)による情報処理の用に供されるもの(「刑法」第7条の2) など。
※ただし、クレジットカードなど料金の支払い用のカード等については
平成13年の法改正により、「刑法」第163条の2(支払用カード電磁
的記録不正作出等)が適用される。
また、「作出」とは新しく作り出すことで、「供用」とは、多くの人が使えるようにすることをいいます。
さて、「私電磁的記録不正作出・同供用罪」というように、頭に「私」がついています。
これは、どういう意味でしょうか。
「私、電磁的記録不正作出罪です!」
と宣言しているわけではありません。
「私」というのは、「公」に対する言葉で、「公文書偽造罪」に対する「私文書偽造罪」に該当する電子データということです。
つまり、今回の事件は、個人宛のメールを不正に転送させる設定をして電磁的記録を作り出し、さらに、その設定を役員達に使わせた罪、ということになります。
まさか、社員や部下がこんなことをしていたとは…と驚く人もいるかもしれませんが、じつは案外、全国のさまざまな会社や組織などで行われているかもしれない? と考えると怖ろしいことです。
システム管理を1人に任せてしまうと、このようなことが起こります。
不正が発生しないようなチェック体制を確立することが大切ですね。
不正を撲滅し、健全な経営を実現しましょう。
「人生とは戦いであり、不正との格闘である」(ナイチンゲール)
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