のぞきと犯罪
人の好みは十人十色といいますが、中には困った趣味もあります。
たとえば、窃視(せっし)というものがあります。
簡単にいえば、盗撮なども含めた「のぞき」行為のことです。
人間は誰しも、見てはいけないものを見たい、ひそかにのぞき見してみたいという欲求を持っているものかもしれませんが、こうした行為が他人のプライバシーを侵害したり、私生活の平穏を脅かすことになれば問題が生じてしまいます。
もちろん、のぞき行為や盗撮は犯罪にもなるのですが、法的には少しややこしい部分があるので、今回は「のぞき」に関する法律について考えてみたいと思います。
じつは、のぞきや盗撮行為については「刑法」に規定がなく、その他にも直接的に取り締まる法律がありません。
そのため、次の3つの法律、条例のいずれかが適用されるというのが現状です。
①「住居侵入罪」
部外者が、盗撮目的で撮影機器設置のために、さく等に囲まれた建造物の敷地に侵入する行為は「住居侵入罪」に該当する可能性があります。
「刑法」
第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
②「各都道府県の迷惑行為防止条例」
現在、47都道府県すべてで「迷惑行為防止条例」が定められていますが、この中で「卑猥な行為」や「粗暴な行為」として盗撮を禁止しています。
ここでは、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(迷惑行為防止条例)を見てみます。
第5条(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
1.何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(2)公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗り物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機、その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、もしくは設置すること。
この規定に違反して撮影した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。
ただし、迷惑行為防止条例はあるものの、未だに盗撮を禁止する場所が、原則は道路や公園、電車など、不特定多数の人が出入りする場所に限られており、公共の場所にあってもトイレや更衣室は含まれない、としている自治体もあり、その場合は盗撮犯が不起訴になる場合もあるという問題があるのが現状です。
ちなみに、「平成27年度版 犯罪白書」(総務省)によると、2014(平成26)年の各都道府県の迷惑行為防止条例違反のうち、盗撮事犯の検挙件数は3265件でした。
犯行時間でもっとも多かったのが「15時~18時」(27・9%/909件)、次いで「18時~21時」(19・8%/645件)、犯行場所でもっとも多かったのが「駅構内」(32・2%/1049件)、次いで「ショッピングモール等商業施設」(28・5%/929件)となっています。
③「軽犯罪法」
さまざまな軽微な秩序違反行為に対して拘留(1日以上30日未満で刑事施設に収容)、または科料(1000円以上1万円未満)に処する法律です。
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
23.正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
ここでポイントとなるのは、次の2点です。
1.人が通常衣服をつけないでいるような場所
2.ひそかにのぞき見る
条文には、のぞきを禁止している場所として、「住居」「浴場」「更衣室」「便所」が明示されています。
これらの場所では、衣服を脱ぐことは普通にあるわけですから納得がいきます。
問題は、「人が通常衣服をつけないでいるような場所」とはどのような場所を指すのかです。
たとえば、病院の診察室やホテルなどの宿泊施設の部屋などは衣服をつけないでいる時間もあるので該当するでしょうし、寝台列車や客船の個室、試着室なども同様と考えられます。
ただし、注意が必要なのは、裸でいる「ような」場所なので、法的には必ずしも裸でいる場所に限定される必要はなく、また、必ずしも人が裸でいる必要もないということです。
そう考えると、夜の公園や車内で愛し合う男女の行為をのぞいたり盗撮しても、軽犯罪法では処罰できないことになります。
なぜなら、このような場所は通常では裸にはならない場所だからです。
また、正当な理由がないのに他人の住居をのぞいたり盗撮する場合、部屋に人がいなくても本号が適用される可能性があります。
なぜなら、本号には、個人的な秘密、プライバシーの侵害行為を禁止するとともに個人の私生活の平穏の確保という趣旨があるからです。
つまり、個人の住居や部屋はプライバシーや私生活の平穏が守られるべき場所であるから、その場所をのぞき見る、盗撮する行為は法律違反であるということです。
次に、「ひそかに」についてですが、言葉としては、人に気づかれないように、知られないように、こっそりと、という意味です。
ただし、ここでは誰にも見つからないようにということではなく、見られる側の人に気づかれないように、ということになります。
なお、条文には「ひそかにのぞき見る」際の手段や方法についての規定はありませんが、ここでは肉眼で直接見る以外に、望遠鏡や双眼鏡で見ることや、カメラやスマホ等で動画や写真を撮ることも含まれます。
なお、都道府県によって条例は異なります。
衣服の上から撮影するだけなら許されるか、というと、そういうわけではありません。
衣服の上から撮影したとしても、北海道迷惑防止条例のように、「卑わいな言動」として迷惑防止条例となる場合もありますので、くれぐれもご注意ください。