パワハラで和解金6,000万円!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
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パワハラで和解金6,000万円!?

2015年04月05日

パワハラ自殺による損害賠償訴訟が後を絶ちません。
今回は、大阪での事例です。

「積水ハウス、パワハラ自殺和解金6千万円支払い」(2015年4月2日 読売新聞)

「積水ハウス」の社員だった男性(当時35歳)が自殺したのは、上司のパワハラが原因だったとして、両親が慰謝料など約9280万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁でありました。

男性は2010年8月以降、兵庫県西宮市内の事務所で客からの苦情対応などを担当。
上司から、部下の指導が不十分との理由で「死んでしまえ」、「クビにするぞ」などと日常的に罵倒されるようになり、2011年9月1日に行方不明に。
6日後、大阪市内の淀川で溺死しているのが見つかったということです。

神戸西労働基準監督署は、心理的負荷で適応障害を発症したことが自殺につながったと認定。
そこで、両親は2013年2月に提訴。

同社側は「指導のための叱責はあったが、罵倒はしていなかった」などとして請求棄却を求めていたようですが、和解金6000万円を支払う条件で和解しました。

同社は、「円満に解決するために和解したが、コメントは控えたい」としているということです。
パワハラについては以前にも解説しています。
詳しい解説はこちら⇒「これは、酷い!パワハラ自殺で5790万円」
 https://taniharamakoto.com/archives/1743

パワハラが起きると、会社は多額の損害賠償金を支払わなければいけなくなる可能性があります。

なぜなら、会社には「職場環境配慮義務」や「使用者責任」があるからです。

職場環境配慮義務とは、会社には従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務があるということです。
社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。(民法第415条)

使用者責任とは、会社には社員が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があるということです。(民法第715条)
また、パワハラは、損害賠償金支払いだけでなく、対外的な信用棄損や社員の士気低下など、さまざまなダメージを会社に与えます。
【パワハラ防止のための事前対策】
では、会社がパワハラを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
まずは、事前対策が重要です。

「パワハラを防ぐための5つの措置」
①会社のトップが、職場からパワハラをなくすべきという明確な姿勢を示す。
②就業規則をはじめとした職場の服務規律において、パワハラやセクハラを行った者に対して厳格に対処するという方針や、具体的な懲戒処分を定めたガイドラインなどを作成する。
③社内アンケートなどを行うことで、職場におけるパワハラの実態・現状を把握する。
④社員を対象とした研修などを行うことで、パワハラ防止の知識や意識を浸透させる。
⑤これらのことや、その他のパワハラ対策への取り組みを社内報やHPなどに掲載して社員に周知・啓発していく。

また、被害者などからの相談窓口や関係部署の設置、問題解決の体制の整備、社員への研修や講習なども事前に行っておくべきです。
【パワハラ発生後の事後対応】
しかし、事前対策をしていたにも関わらずパワハラが起きてしまったら、どう対応したらいいでしょうか?

会社が取るべき事後対応の流れをまとめておきます。
問題の発生から解決までには、次の6つのプロセスがあります。

①事実の発覚
相談窓口などに本人や同僚などの第三者から相談が持ち込まれます。

②関係者からのヒアリング
担当者が事実関係の把握のためにヒアリングをします。
これは相談者と、パワハラ行為をしたとされる者の双方に対して行い、場合によっては周囲の第三者にも行います。
行為が行われた状況や、行為が継続的だったかなどについても聴き取りを行います。
このとき、プライバシーの保護、および協力者への不利益がないようにしなければいけません。

③事実確認の有無に関する判断
ヒアリング後、パワハラ行為があったかどうかについて判断します。

④担当機関などによる協議
パワハラの事実があったと判断された場合、人事部などの担当部署等で加害者に何らかの処分を下すかどうかの協議をします。

⑤処分の決定とその後の措置
担当部署での協議の結果、懲戒処分なしとなった場合は、その旨を被害者に説明したうえで関係改善に向けた援助、配置転換、被害者が被った不利益の回復などの措置をとります。
同時に、パワハラ行為を行った者への研修・教育を行います。

加害者に懲戒処分を下すことが決まった場合は、就業規則の規定に従い、けん責、出勤停止、論旨解雇、懲戒解雇などの懲戒処分を下します。
この場合も、被害者に対して上記のように必要な措置をとるのは言うまでもありません。

⑥再発防止措置
今後の再発防止に向けた措置をとらなければいけません。
社内報やウェブサイトなどに、パワハラやセクハラ行為があってはならないこと、万が一発生した場合は厳正な処分を下すことなどを記載して全社員に周知します。
また、研修や講習を実施して社員への啓発にも努めます。
ところで、今回の事例では、会社側は「上司からの教育や指導による叱責だ」、「罵倒はしていない」と主張しているようです。

実際、社員の能力不足や職務怠慢の場合、会社は社員を教育指導して、注意などは段階を踏んで対応してからでないと解雇などはできないことになっています。
また、通常の仕事上の叱責はパワハラにはなりません。

それが度を超え、人格に対する攻撃などになるとパワハラと認定されます。
しかし、その判断はなかなか難しいため、訴訟に発展するケースが増えています。

万が一、パワハラによるトラブルが起きた場合は、被害者側も会社側も専門家などに相談することをお薦めします。
労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
http://roudou-sos.jp/