自殺 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • これは、酷い!パワハラ自殺で5790万円

    2014年12月03日

    パワー・ハラスメント(パワハラ)による損害賠償訴訟の判決のニュースが頻発していているので、解説しておきたいと思います。

    労働者にとっては精神的損害が、使用者側の企業にとっては経済的損失が大きい事例が増えています。

    「“バカ”“使えねえな”店長は自殺…ブラック企業、驚愕パワハラ実態」(2014年11月28日 産経新聞)

    東京都渋谷区のステーキチェーン「ステーキのくいしんぼ」の店長だった男性(当時24歳)が自殺した原因は、過酷な長時間労働とパワー・ハラスメントにあるとして、ステーキ店を経営する(株)サン・チャレンジに対して両親が損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は11月、同社側に約5790万円の賠償を命じました。

    判決などによると、男性は同社に勤務していた父親に誘われ平成19年5月にアルバイトとして採用され、間もなく正社員に。
    その後、父親は同社の方針に疑問を感じ退社。
    ところが男性は、「もう少し頑張ってみる」と会社に残ったといいます。

    しかし、平成22年11月に遺書を残し、店舗の入るビルの非常階段で首をつって自殺。
    渋谷労働基準監督署は、平成24年に自殺を労災認定していたということです。

    判決では、驚愕のパワハラの実態が明らかにされました。

    〇パワハラをしていたのは複数の店舗指導するエリアマネージャーの男性で自殺した男性の上司だった。
    〇ミスをするたびに「バカ」「使えねえな」と叱責し、尻や頬、頭などを殴る。
    〇社長や幹部が出席する「朝礼」でさらし者にする。
    〇シャツにライターで火をつける
    〇自殺直前の7ヵ月の残業時間は、1日あたり12時間を超え、月平均190時間超、最大で230時間、月の総労働時間は平均560時間。
    〇7ヵ月間に与えられた休日は2日間のみで、残業代もボーナスも支払われなかった。
    〇たまの休日にも電話で使い走りを命じたり、仕事後に無理やりカラオケや釣りにつきあわせた。
    〇職場恋愛の交際相手が発覚すると、「別れたほうがいい」と干渉。上司に隠れて交際を続けると「嘘をついた」と叱責。

    裁判で上司は、「日頃から親しくしており、指導やじゃれ合いを超えた行為はなかった」と主張。
    しかし、東京地裁の判決では、「暴行や暴言、プライベートに対する干渉、業務とは関係ない命令など、社会通念上相当と認められる限度を超えるパワハラを恒常的に行っていた」、「自殺の理由はパワハラや長時間労働以外にはない」と一蹴。

    また、「自殺した本人に過失はなかった」として過失相殺による賠償額の減額を認めなかったことで、原告側代理人は「自殺をめぐる訴訟で過失相殺を認めないのは異例」としています。
    以前、パワハラについて解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒「職場のいじめは、法律問題です。」

    職場のいじめは、法律問題です。

    厚生労働省の公表では、パワハラの定義とは以下のようになります。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」
    また、パワハラの分類として以下のものが挙げられています。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    ①~③は、業務の適正な範囲内であることは考えにくいので、原則としてパワハラに該当すると考えられますが、④~⑥については業種や企業文化などによっても差異があるため、業務上の適正な指導との線引きが難しく具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分があると考えられます。

    今回は、民事裁判でしたが、さらに、パワハラは刑事事件として罪に問われる可能性もあります。

    肉体的暴力によってケガをさせれば「傷害罪」(刑法第204条)、仮に言葉の暴力で「電車に飛び込んで死ね!」などと言って相手を自殺させた場合には「自殺教唆罪」(刑法第202条)に問われるかもしれません。

    いずれにせよ経営者側には、職場でのパワハラに対する認識をそろえ、その範囲を明確にする取り組みを行うことが望まれます。

    そのうえで、以下のようなパワハラ防止策を講じる必要があります。
    ・「トップによる、パワハラを職場からなくすべきである旨のメッセージ」
    ・「就業規則・労使協定・ガイドライン等によるルールの作成」
    ・「従業員アンケート等による実態の把握」
    ・「研修などの教育」
    ・「組織の方針や取組についての周知・啓発」
    ・「相談窓口等の設置」
    ・「再発防止措置等」
    パワハラは「職場のいじめ」では済まされない問題です。
    社内でパワハラ行為があれば、社員側も経営者側も不幸な結果が待っています。

    双方が互いに認め合い仕事をすることができれば、幸福な結果が待っているでしょう。
    会社は業績が上がり、社員は誇りとやる気を持って仕事に打ち込めるはずです。

    「人が本当に下劣になると、他人の悪口を言うことしか喜びをみいだせなくなる」(ゲーテ)

    もし、社内でパワハラの事実があるようであれば、不都合な事実から目をそらさず、隠ぺいなどせず、問題が大きくなる前に弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

  • 都市伝説の真相に迫る─自殺部屋の家主に告知義務はあるのか?

    2013年10月31日


    よくある都市伝説や怪談のひとつに、こんな話がありますね。

    引っ越した部屋に住み始めたら、なぜか体調が悪くなってきて、
    病院に行ったけれど、どこも悪くないと言われた。

    そのうち、部屋に誰か人がいる気配がしたり、物音がしたり、夜中に金縛りにあったり。
    しまいには、仕事で大失敗したり、車にはねられてケガをしたり、
    悪いことばかりが立て続けに起きるようになった。

    友人に話してみると、真顔でこんなことを言うのです。
    「その部屋で何かあったんじゃない? 殺人とか、自殺とか……」

    怖くなってきた住人の女性はしかし、好奇心も湧いてきて部屋中を調べてみた。すると、そこにあったのは……

    最近、こんな判決がありました。

    「自殺があったことを告げずに部屋を賃貸。家主の弁護士に賠償命令」

    自殺があったことを告げずにマンションの部屋を賃貸したのは不法行為だとして、部屋を借りた男性が家主の弁護士の男性に対して約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月28日、神戸地裁尼崎支部でありました。

    弁護士の男性は2011年5月に競売で兵庫県尼崎市内のマンションを取得。ところが、それまで住んでいた女性が3日後に部屋で自殺。
    そうした事実を説明せずに2012年8月、男性とこの部屋の賃貸借契約を結んでいたようです。

    男性は引っ越しした後に近所の住人から自殺の話を聞き、翌日には退去。同年9月20日に契約解除を通告したということです。

    裁判で弁護士の男性は、「競売後の手続きは他人に任せており、自殺の報告を受けないまま部屋の明け渡し手続きを終えた」と主張したが、女性の死後に弁護士が部屋のリフォームを指示したことから、
    「およそありえない不自然な経緯」「部屋の心理的な瑕疵(かし)の存在を知らないことはありえない」と裁判官は指摘。
    「一般の人でもこの部屋は住居に適さないと考える。部屋には嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵がある」として、賃料や慰謝料など約104万円の支払いを命じました。

    ところで、こんな都市伝説? というか噂がネットにあるようです。

    殺人や自殺があった賃貸物件は、その後に誰か(1人目)が入居したら、
    その次の入居者(2人目)には事実を伝えなくてもいい。
    しかし、1人目は最低1カ月は住まなければいけないので、大家さんはそのためにバイトを雇って住んでもらう。
    バイトは大抵、殺人や自殺や幽霊を気にしない人がやるが、中にはそんな人でも1カ月も住めずに逃げ出してしまう部屋がある。
    だから、その部屋は今でもずっと空室のまま……

    では、バイトの件は置いておいて、そうした“いわくつきの部屋”について法律で解説してみましょう。

    貸室の入居者の自殺は、その後に賃借する人にとっては一般的に嫌悪感を生じる原因となるので、自殺の事実はその部屋を借りるかどうかの重要な要素になります。
    したがって民法95条により、賃借人は事実を知らなかったことを理由に賃貸借契約の無効を主張することができます。

    民法第95条(錯誤)
    意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

    また、賃貸人は自殺後間もない時期に新たに部屋を賃貸する場合には、契約締結の際に事実を告知する義務があります。
    これを怠ると、賃借人は賃貸人に対して告知義務違反を理由として、民法96条により詐欺として契約を取り消したり、解除することができます。
    さらには、賃借人は引っ越し費用や慰謝料などの損害賠償請求もできます。

    民法第96条1項(詐欺又は強迫)
    詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

    ちなみに、宅地建物取引業者、つまり仲介の不動産屋さんも自殺の事実を知っている場合には、告知義務があります。

    したがって、仲介業者がいた場合には、賃借人は、賃貸人と仲介業者を同時に訴えることになります。

    ただし、仲介業者は、事前に自殺があったことを調査する義務まではないと考えられます。

    ところで、賃借人が、部屋を善良な管理者の注意に基づいて使用しなければなりません。

    部屋の中で自殺をすれば、その部屋は心理的瑕疵となり、一般の人に貸すことができなくなるわけですから、部屋の中での自殺は、善管注意義務違反、ということになります。

    そうすると賃借人が善管注意義務に違反して、物件に損害を与えた場合には、賃貸人には賃貸借契約に基づき、連帯保証人や賃借人の相続人への損害賠償請求が認められることになります。

    さまざまな理由があっての自殺なのでしょうが、残された人には精神的ダメージに加えて、金銭的な負担ものしかかってきます。

    自殺を自分の命を絶つだけだと考えている人がいるかもしれませんが、とんでもないことです。

    周りの人に迷惑をかけてしまうことを憶えておかなければなりません。

    それにしても、今回のニュース、たまたま賃貸人の職業が弁護士だったということでニュースになってしまったのでしょう。

    弁護士が犯罪を起こした場合も、すぐにニュースになります。

    それだけ高い規範意識が求められている、ということだと思います。

    弁護士には高い職業倫理が求められますので、いっそう身を引き締めて日々生活していきたいと思います。