自動車運転過失致死傷罪 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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  • 軽傷のひき逃げで懲役15年!?

    2014年04月16日

    「後悔先に立たず」、「後の祭り」、「死んだ子の年を数える」「臍(ほぞ)を噛む」……同じような意味で使われることわざですが、なんだか文字を見ているだけで、つらい気分になってきます。

    人間、誰しも失敗や過ちを犯すことがあります。

    しかし、失敗や過ちをそのままにしておく、または隠蔽したり、そこから逃げてしまっては、傷口がさらに広がってしまったり、最終的には取り返しのつかないことになりかねません。

    まさに、ことわざ通り「後の祭り」にならないためには、冷静な判断と対応が大切です。

    ところが、気が動転していたのでしょうか? それとも単に怖くなって逃げたのでしょうか? その場しのぎでやった行為が、後で大きな代償を払うことになってしまった事件が起きてしまいました。

    <「保険に入ってなかった…」女児ひき逃げで男を逮捕>(2014年4月1日 テレビ朝日ニュース)

    千葉県我孫子市の交差点で、近くに住む小学生の女の子(10)が横断歩道を渡っていたところ、軽自動車にひき逃げされました。

    警察は、現場に残された車の破片などを分析。犯人の行方を追っていたところ、車を運転していた自称・会社員の男(32)が警察署に出頭し、逮捕されたということです。

    男は、「任意保険に入ってなかったので逃げた」「女の子が動いていたので、大したことはないと思った」と話しているようです。なお、女の子は救急搬送されましたが、あごを打つなどで軽傷とのことです。

    報道からは、逮捕容疑が何なのか分かりませんが、おそらくこの男は、「自動車運転過失致死傷罪」と、「ひき逃げ」による道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪となるでしょう。

    自動車運転過失致死傷罪は、以下の条文に規定されます。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
    2.自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。(以下省略)

    「ひき逃げ」とは、車両を運転中に人身事故を起こした際、必要な措置を講じずに事故現場から逃走する犯罪行為をいいます。

    ちなみに、人の死傷をともなわない事故の場合は「当て逃げ」となります。これには、物損事故、建造物損壊、他人のペットなども含みます。

    「道路交通法」第72条
    1.交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(以下省略)

    人身事故を起こしてしまったら、運転者や同乗者は次のことを「義務」として行わなければ、罰せられます。

    ①直ちに運転を停止する義務
    ②負傷者の救護義務(安全な場所への移動、迅速な治療など)
    ③道路上の危険防止の措置義務(二次事故発生の予防)
    ④警察官への報告義務(事故の発生日時、死傷者、物損状況など)
    ⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる義務

    これらの義務違反をした場合、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条1項)

    さらに、人身事故での被害者の死傷が運転者の運転に原因がある場合に義務違反をしたときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)

    実際、今回の事故の場合、被害者の女の子は軽傷なので、民事での賠償金は、おそらく最高でも数十万円というところでしょう。また、事故後に、しっかり対応していれば自動車運転過失致死傷罪で立件されない可能性が高いと思います。

    しかし、現場から逃げてしまったばかりに、自動車運転過失致死傷罪と、ひき逃げによる救護義務違反の併合罪となり、場合によっては最高刑で懲役15年にもなってしまう可能性があるということです。

    おまけに、テレビや新聞、ネットで全国ニュースにもなってしまうのですから、人生において大きなダメージを受けることにもなりかねません。

    やってしまったこと、起こってしまったことは消すことができません。しかし、その後の判断と対応で人生が大きく変わってしまう可能性があります。

    まずは、車を運転する際は細心の注意を払いましょう。
    仮に被害者が軽傷で、略式起訴の罰金刑になったとしても、前科一犯に変わりはありません。

    万が一、事故を起こしてしまった場合には、逃げない、うそをつかない。けが人がいれば、救護や連絡などの義務を果たす。

    そうでないと、罪の上にさらに罪を重ねてしまうことになります。

    ハンドルを握るときは、つねにこれらのことを肝に銘じておいてほしいと思います。

    後悔は、先には立ちません。

    先立つものは、カネ・・・、間違えました!

    先に立てるのは、「己を律する心」ということですね。

  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(2)

    「自動車運転死傷行為処罰法」の内容解説

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立し、平成26年5月までに施行され、自動二輪車や原動機付自転車の事故にも適用される。

    自動車運転死傷行為処罰法は、従前刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

    そこで、本稿では、この「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、どのような場合に適用されるのか、について解説する。

    この法律は、わずか6条からなる。6つの条文に全ての犯罪と刑罰が記載されているのであるが、その刑罰は、最高懲役20年。決して軽くはない。

    では、自動車運転死傷行為等処罰法に規定されている犯罪を順番に解説する。

    危険運転致死傷罪

    危険運転致死傷罪は、致傷の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役とされており、過失運転致死傷罪の法廷刑よりも格段に重い処罰となっている。

    その理由は、危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者が過失ではなく、故意に危険運転行為を行ったことにある。

    つまり、通常の過失運転致死傷罪は、前方不注視や脇見運転など、過失犯であるが、危険運転致死傷罪では、次の6つの、特に危険な運転行為を故意に行ったことが必要になる。

    1. アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
    2. 進行を制御することが困難高速度で走行
    3. 進行を制御する技能を有しないで走行
    4. 人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    5. 赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    6. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    上記の6つのいずれかに当てはまる行為をし、その結果、事故で人を死傷した場合には、危険運転致死傷罪が成立する。

    構成要件の解説

    「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行」

    「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことである。

    ただ酒を飲んで良い気分になっている程度では、運転に支障はあるかもしれないが、危険運転致死傷罪は成立しない。

    「正常な運転が困難な状態」とは、飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言う。
    「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立検査・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らないようなことはないか、目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定される。

    この立証は検察側の責任なので、危険運転致死傷罪で起訴できるかどうかは、事故直後の初動捜査にかかっている。

    しっかりマニュアル化して、証拠化を進めて欲しいところである。

    「進行を制御することが困難な高速度で走行」

    「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることである。

    千葉地裁平成28年1月21日判決は、「自動車の性能や道路状況等の客観的な事実に照らし、ハンドルやブレーキの操作をわずかにミスしただけでも自動車を道路から逸脱して走行させてしまうように、自動車を的確に走行させることが一般ドライバーの感覚からみて困難と思われる速度をいい、ここでいう道路状況とは、道路の物理的な状況等をいうのであって、他の自動車や歩行者の存在を含まない」と定義している。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではない。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってくる。

    つまり、高速道路であれば100キロ以上の速度で走行しても危険運転とされることは考えにくいが、曲がりくねった細い道路で、ゆっくり走らないと危ないような道路を100キロ以上の速度で走行する場合は、進行を制御することが困難な高速度、と認定されやすくなるだろう。

    進行を制御することが困難なほどの高速度かどうかは刑事裁判において机上のみの資料で判断することは難しいであろうから、事案によっては刑事裁判においても現場の検証や再現ビデオなどでの立証が必要となると思われる。

    「進行を制御する技能を有しないで走行」

    「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドルやブレーキ等を捜査する初歩的な技能すら有しない場合が想定されている。

    この要件は、「無免許」を意味するか、というと、そういう意味ではない。

    免許の有無にかかわらず、事故当時の運転技術に着目するものである。

    その結果、無免許運転による悪質な事故に対してこの類型が適用されず、社会的な非難が高まった結果、本法律では、この類型に該当しなくても、無免許運転により事故を起こした場合には刑を重くすることとなっている。後に解説する。

    したがって、この類型の場合、たとえ、無免許であっても、普段無免許運転を繰り返しており、運転技術がある場合には、この要件には当てはまらない。

    「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    「通行を妨害する目的」というのは、「相手を停止させたり、走行させない」という意味ではない。

    逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の「安全運転を妨害」する目的を言う。

    急な割り込みに対し、相手が自車との衝突を避けるために急にハンドルをきったり、という回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものである。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言い、立法時の答弁では、20~30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件に当たると解釈されている。

    「赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    道路では、信号機などにより交通整理が行われ、円滑かつ安全な交通が確保される仕組みになっている。

    もし、赤信号を無視して交差点などに進入すると、青信号に従って交差点に進入した他車や歩行者などに重大な交通の危険を生じさせる可能性があるため、規定されたものである。

    「赤信号又はこれに相当する信号」の「これに相当する信号」とは、赤信号と同様の効力を持つ信号のことで、警察官の手信号のようなものを指す。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、やはり20~30キロ程度出ていれば、要件に当たると解釈されている。

    その程度の速度でも、赤信号を無視して交差点に侵入されば、重大な事故が発生しやすいためである。

    通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    今回の立法で新たに追加された類型である。

    平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げしたという悪質な事故が発生し、社会の注目を集めた。

    この事故で、一方通行の逆走が、交通に重大な危険を生じさせる行為であり、危険運転致死傷罪に取り込むべきだ、という認識が浸透し、今回の追加に至ったものと思われる。

    実際、道路を自動車で進行し、あるいは歩行中に、自動車が走行してくるはずがないところから自動車が走行してくる場合には、衝突を回避するための措置をとりにくいであろう。

    「通行禁止道路」とは、道路標識もしくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものを言う。

    具体的には政令で定められるが、現段階(2013年12月)としては、自転車及び歩行者の専用道路、一方通行道路の逆走、高速道路の逆走、などが想定されている。

    通行禁止道路を走行する認識は必要はあるから、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しない。少なくとも、事故時までには、通行禁止道路であることの認識が必要となる。

    なお、速度については、やはり20~30キロ程度出ていれば、この犯罪の成立は可能と思われる。

    準危険運転致死傷罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物あるいは政令で指定する病気の影響により、その走行中に正常な運転に「支障が生じるおそれ」がある状態で、自動車を運転し、その結果、アルコール又は薬物あるいは病気の影響で「正常な運転が困難」な状態に陥り、事故で人を死傷させた場合に成立する。

    ここで、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、危険運転致死傷罪が適用されるような、「飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態」とまではいかないが、飲酒などの影響で、自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力・操作能力が、相当程度低下して、危険な状態にあることをいいます。

    たとえば、飲酒の場合には、道路交通法で、酒気帯び運転罪になる程度の血中アルコール濃度があれば、正常な運転に支障がある、ということになる。

    病気の場合には、意識を喪失するような発作の前兆症状が出ている場合や、意識を喪失するような発作が予想されるのに、医師から指示された薬を飲んでいない場合などに、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあたる。

    ここで注意すべきは、政令で定める病気にかかっている人が自動車事故を起こしたときに、全てこの罪が成立するわけではない、ということである。

    たとえ政令で定める病気にかかっていたとしても、その自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合(従前意識を喪失したことがなく、医師からも特に薬を処方されてなく、問題なく自動車を運転できていたような場合)には、この罪の対象にはならないだろう。

    逆に、政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚しているなど、自らの症状がどのようなものであるかを知っていて、そのために正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考える。
    この罪の法定刑は、怪我をさせた場合は、12年以下の懲役、死亡させた場合は15年以下の懲役である。

    政令で定める病気は、以下のとおりである。

    1. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症
    2. 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある「てんかん」(発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
    3. 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるもの)
    4. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症
    5. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む)
    6. 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

    過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物の影響で、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識しながら自動車を運転し、自動車事故を起こした場合に、

    事故後、アルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、

    さらに飲酒したり、薬物を摂取したりするか、

    あるいは、逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりして、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合である。

    これは、いわゆる「逃げ得」問題を撲滅しよう、というために規定されたものである。

    逃げ得とは、どのような問題かというと、たとえば、酒で泥酔状態になって人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪が適用されますが、ひき逃げしてしまい、翌日逮捕されたとしても、その時には体内のアルコール濃度は減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、過失運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)しか適用されず、刑が軽くなってしまう、という問題である。

    この犯罪類型を新設したことにより、その場から逃げた場合にはこの罪による最高刑12年にひき逃げの最高刑10年が併合され、最高18年の懲役刑を科すことが可能になる。
    なお、この罪の法定刑は、12年以下の懲役である。

    過失運転致死傷罪

    この罪は、従前刑法211条2項で規定されていた「自動車運転過失致死傷罪」をこの法律に移動させたものである。

    前方不注視や後方確認義務違反などの過失によって自動車事故で人に怪我をさせたり死亡させたりした場合に成立する。

    法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金である。

    無免許運転による加重

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    次の罪を犯した者が、事故の時に無免許だった場合に成立する。

    • 危険運転致傷罪(死亡を除く。また、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡を除くのは、すでに最高刑が規定されているためである)
    • 準危険運転致死傷罪
    • 過失運転致死傷アルコール等発覚免脱罪
    • 過失運転致死傷罪

    無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、従前は自動車運転過失致死傷罪と道路交通法違反という軽い罰則でしか、社会的批判が高まったことから規定されたものである。

    というのは、無免許で自動車を運転することは、基本的な交通ルールの無視という規範意識の低さととともにそれ自体危険な行為であるためである。

    次のように刑が重くなる。

    1. 危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)
    2. アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
      懲役15年→懲役20年(無免許)
    3. アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
      懲役12年→懲役15年(無免許)
    4. 過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
      懲役7年→懲役10年(無免許)

    以上、自動車運転死傷行為処罰法の各構成要件を解説しました。

    もし、自動車運転死傷行為処罰法の成立経緯を知りたい人は、以下も参考にしてください。

    自動車運転死傷行為等処罰法(1)についての記事は、こちら
    https://taniharamakoto.com/archives/1234

  • 改正道路交通法可決 無免許運転の罰則は?

    2013年06月08日


    6月7日の衆議院本会議で、改正道路交通法が可決しました。

    内容としては、無免許運転の厳罰化や免許取得・更新時に、病気などを隠した場合の罰則の新設などです。

    2012年4月の京都亀岡で登校中の児童ら10人を死傷させた無免許事故や、2011年4月の栃木県鹿沼市の児童6人がはねられ死亡した、病気発作によるクレーン事故などを受けたものです。

    無免許運転の罰則は、現在、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

    これが、改正によって「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」になります。

    軽いと思われるかもしれませんが、無免許運手で人身事故を起こした場合には、これに、自動車運転過失致死傷罪も成立します。

    自動車運転過失致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

    そうすると、無免許運転罪と自動車運転過失致死傷罪が「併合罪」となり、刑罰は、最長10年の懲役、ということになります。

    高度経済成長期のモータリゼーションを進める過程では、自動車事故の罰則は低く抑えられていましたが、成熟した現代社会では、モータリゼーションよりも、適正な刑罰が要請されます。

    近年、自動車事故の罰則が強化されてきていますが、それは、社会が自動車事故に対して厳しい目を向けるようになったことに起因しているのだと思います。

    このところ、交通事故の数は減少傾向にありますが、それでも2012年の交通事故発生件数は、66万5,138件で、交通事故による死者数は、4,411人です。

    1日に約12人が交通事故によって尊い命を落としています。

    自動車を運転する人は、くれぐれも細心の注意を払って車を運転していただきたいと思います。

    なお、この改正道路交通法は、政令などを整備し、半年から2年以内に順次、施行されることになります。

    交通事故被害者のための無料小冊子は、こちら
    http://www.jiko-sos.jp/report/