手首切断の労災事故で刑事事件に。慰謝料請求も。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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手首切断の労災事故で刑事事件に。慰謝料請求も。

2018年03月12日

今回は、業務中に起きた従業員の手首切断事故について解説します。

「作業員がスクリューに挟まれ右手首切断 長野・立科町の会社を書類送検」(2018年3月10日 産経新聞)

上田労働基準監督署は3月9日、長野県内の会社と同社の業務課長の男(54)を労働安全衛生法違反の疑いで長野地検上田支部に書類送検した。

報道によると、事故が起きたのは2018年1月25日。
同社の東御市内の工場で、機械の運転を停止せずに50代の男性従業員に対してスクリューに挟まったゴムパッキンの除去をさせたところ、回転するスクリューに右手を挟まれて、男性は右手首より先を切断するケガを負った。

業務に起因して、労働者がケガや病気、後遺障害などを負ったり、死亡に至ることを労働災害(労災)といます。
会社(事業者)は、従業員(労働者)の労災事故を防止しなければいけません。

「労働安全衛生法」
第24条
事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

これに違反した場合は、6ヵ月以下の懲役、又は50万円以下の罰金に処されます。(第119条)

また今回の事故のように、機械の掃除や修理などに関しては規則が定められています。

「労働安全衛生規則」
第108条(刃部のそうじ等の場合の運転停止等)
1.事業者は、機械の刃部のそうじ、検査、修理、取替え又は調整の作業を行なうときは、機械の運転を停止しなければならない。ただし、機械の構造上労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。
2.事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠をかけ、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。

なお、刑事事件としては、業務中の労働者にケガや死亡の事故が発生した場合、事業者は業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります。

「刑法」
第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

さて、労災が発生した場合、会社が労災手続きを行ないます。
これは、「労働基準法」と「労働者災害補償保険法(労災保険法)」により災害補償制度があるためです。

指や手足の切断による後遺障害等級は1級から14級まで多岐にわたります。
従業員の労災が認定された場合には、それぞれの後遺障害等級から算出される労災給付金が支給されることになります。

しかし、従業員としてはケガによる後遺障害によって、将来的に仕事ができなくなる可能性があります。
重大な後遺障害の場合は、将来的な介護費用なども必要になってきます。
そうすると、労災給付金だけでは被害者の補償が十分ではないということが起きてきます。

その場合、被害者は会社や現場の責任者などに対して民事で損害賠償請求することができます。
なぜなら、会社には「安全配慮義務」があるからです。

「労働契約法」
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

会社には、従業員に対してケガや病気、死亡事故などがないように安全な状態で労働させる義務があり、これを「安全配慮義務」といいます。

会社が安全配慮義務に違反して従業員に損害が発生した場合、会社には労働契約の債務不履行に基づく損害賠償義務が生じます。

詳しい解説はこちら⇒
労働災害(労災)で、指や手足を切断してしまった場合の慰謝料額は?<弁護士解説>

今回の事故のように、業務に起因した事故によって従業員が傷害を負ったり、死亡した場合、刑事、労災、民事の3つが関わってきます。
従業員が重大な後遺障害を負ってしまった場合、損害賠償額は高額になります。

労災事故は会社にとっても従業員にとっても不幸なことですが、損害賠償において和解が成立しない場合、最終的には法律によって解決を図ることになります。

労災問題が起きた時の法的な対応や手続きは専門家でないと難しいと思います。
万が一、労災事故が起きた場合は、労災に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

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