爆発労災事故の被害者や遺族は慰謝料請求できるのか? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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爆発労災事故の被害者や遺族は慰謝料請求できるのか?

2018年02月01日

今回は、化学品工場で起きた爆発事故について、法的責任は誰にあるのか、また被害者や遺族が損害賠償請求するにはどうすればいいのか、について解説します。

「タンク爆発3人書類送検 洗浄中4人死傷、埼玉」(2018年1月30日 産経新聞)

埼玉県の化学品製造業の工場でタンクが爆発し作業員4人が死傷した事故で、埼玉県警は同社の担当課長と社員2人の男性計3人を業務上過失致死容疑で書類送検し、熊谷労働基準監督署は30日、労働安全衛生法違反の疑いで、同社と現場責任者の担当課長(43)をさいたま地検に書類送検しました。

事故が起きたのは、2016(平成28)年1月3日午前1時頃。
タンク内に付着した銀を洗い落とす作業中に爆発が発生し、42歳と22歳の派遣社員2名が硝酸中毒で死亡、社員2人も軽傷を負ったというものです。

同県警によると、書類送検容疑は、タンクの洗浄に使う硝酸の濃度を確認するなどの適切な管理をせずに過剰に注入したことで、タンク内に大量の窒素酸化物を発生させ、爆発で2人を死亡させたなどとしています。

今回のように、業務に起因した事故によって従業員が傷害を負ったり、死亡した場合、刑事、労災、民事の3つが関わってきます。

刑事事件

刑事事件においては、会社や責任者は業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります。

「刑法」
第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

労働災害(労災)

労働者(従業員)が、業務に起因して負傷(ケガ)、疾病(病気)、障害(後遺症)、死亡に至ることを「労働災害(労災)」といいます。

業務中の労災は「業務災害」、通勤中の交通事故などによるケガや病気などは「通勤災害」となります。

労災が発生した場合、「労働基準法」と「労働者災害補償保険法(労災保険法)」により災害補償制度があるため、会社が労災手続きを行ない、労災が認定された場合には、被害にあった労働者に労災給付金が支給されることになります。

民事のおける損害賠償請求

被害者の損害賠償金を労災給付金ですべてカバーできればいいのですが、重傷事故や死亡事故の場合は労災給付金だけでは足りないという事態が発生します。

その場合、被害者は会社や現場の責任者などに対して損害賠償請求することができます。
なぜなら、会社には「安全配慮義務」があるからです。

安全配慮義務とは、会社が労働者に対して負うもので、ケガや病気、死亡事故などがないように安全な状態で労働させる義務のことです。

「労働契約法」
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

会社が安全配慮義務に違反し、その結果として労働者に損害が発生した場合は、会社には労働契約の債務不履行に基づく損害賠償義務が生じます。

ただし、会社が債務不履行に基づく損害賠償義務を負担するには、会社に過失があることが必要です。
そして、過失があるといえるためには、結果が予見でき(予見可能性)、かつ、その結果を回避することが可能(結果回避可能性)であることが必要となります。

つまり、爆発事故による労災損害賠償請求訴訟においては、「会社の過失の有無」が争われることになるのです。

爆発事故が争われた裁判例

「荏原製作所事件」
市に勤務し、ゴミ処理プラントで灰出し作業をしていた労働者が突然の灰の爆風を浴びて、約7.5メートル下の構内地面に落下し、脊椎損傷、性機能不全、顔面やけど、両眼内異物混入の傷害を負った事件。

労働者は、雇用主とともに、本件プラントを建設した企業に対し、損害賠償請求をした。

第一審判決では、予見可能性が争いとなったが、裁判所は本件プラントの設計思想、設計の前提条件、当時の技術常識、当時の業界が到達している技術レベルからすれば爆発事故を予見できたとは認められない、として予見可能を否定した。

控訴審判決では、本件プラントの建設会社に対しては、作業員が手摺りを越えて地面に墜落する危険があることは予見可能であり、墜落防止用措置を設置する義務を怠ったとして、民法709条に基づく損害賠償責任を認めた。
また、雇用主に対しては、本件事故当時、就業中に灰ブリッジが発生し、これを除去しなければ操業に支障が生じ、そのためには作業員が高所作業をする必要があるのに、十分な墜落防止設備を備えていない瑕疵があったとして、民法717条、国家賠償法2条により損害賠償責任を認めた。

その結果、雇用主および建設会社の連帯損害賠償責任を認め、合計で、3985万2188円の賠償金の支払いを命じた。

第一審:大阪地裁平成3年10月21日判決(労判655-31)
控訴審:大阪高裁平成6年4月28日判決(判例タイムズ878-173)

まとめ

爆発事故による損害賠償責任が認められるには、次の4点を検討する必要があります。

①なぜ爆発が起こったのか⇒爆発事故の原因の特定
②会社は爆発事故を予見することが可能であったか
③会社は爆発事故を回避することが可能であったか
④設備が土地工作物である場合には、その設置または保存に瑕疵があったか

これらの検討の結果、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、被害者と遺族は会社に対して損害賠償請求ができる可能性があります。

いずれにしても、法的な対応や手続きは難しいので、労災問題が起きた場合は労災に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

爆発事故について、詳しくはこちら⇒爆発事故による労災の慰謝料額は?