ブルース・リーは軽犯罪法違反か? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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ブルース・リーは軽犯罪法違反か?

2017年03月10日

格闘技マニア、およびブルース・リーのファンの人たちに朗報です。

どういうことかといえば……こちらの事件。

「ヌンチャク所持、逆転無罪 岡山、練習目的に合理性」(2017年3月8日 共同通信)

2015年、岡山県備前市で乗用車にヌンチャクを積んでいたとして軽犯罪法違反の罪に問われた男性整体師(48)の控訴審判決が広島高裁岡山支部でありました。

裁判長は、「現代ではヌンチャクは武道や趣味として適法な目的で使用されるのが一般的だ」と指摘。
「趣味として仕事の合間に練習するためという携帯の目的には相応の合理性があり、正当な理由がないとした一審判決は誤りだ」として、一審玉島簡裁の判決を破棄して無罪を言い渡したということです。
まずは、軽犯罪法の条文から見てみましょう。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

2.正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
ポイントは次の4点です。
① 正当な理由なく
② 刃物、 鉄棒その他人の生命を害し、身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具
③ 隠して携帯

まず、①の「正当な理由」についてですが、業務で使うことがあげられます。料理人が仕事で使うために包丁を携帯するような場合ですね。

また、警視庁のサイトには、店で刃物を購入して自宅に持ち帰ることなども正当な理由としています。

しかし、護身用で持っていることは正当な理由にはあたらないとしています。
そのため、以前から街で職務質問を受けた際、護身用に十徳ナイフ(アーミーナイフ)を持っていただけで警察署に連行され、取り調べを受けるということが起きています。

なお、ハサミやカッターナイフなどの文房具でも、自宅や居室以外の場所で、正当な理由なしに、すぐに使える状態で持ち歩くと取り締まりの対象になるとしているので注意が必要です。

ちなみに、過去の判例では、催涙スプレーが本号の「器具」に該当するかどうかで争われた事案で、催涙スプレーは、本号の「器具」に該当する、とした上で、「正当な理由」について次のように判示しています。

「本号所定の器具を隠して携帯することが、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合をいい、これに該当するか否かは、当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべきものと解される」(最判平21・3・26 刑集63・3・265)

さて、今回の判決に関わるのが②の「人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」とは何か、という問題です。

刃物が典型的ですが、刃物以外では、該当すると考えられるのは木刀や特殊警棒、野球のバットやゴルフクラブなどでしょう。
野球のバットやゴルフクラブは、過去にも不良グループ同士や暴力団の抗争、さらには殺人事件にも使われているものです。

また、前述のように催涙スプレーが「器具」と認められた判決もありますし、スタンガンなども該当するでしょう。

そこで、今回問題となったヌンチャクです。

ヌンチャクの起源には諸説あり、はっきりしたことはわかっていないようですが、もともとは中国の福建語でいう双節棍(ヌンチャクン)が琉球に伝わり沖縄古武術の武器となり、またフィリピンの武術「カリ」でも使われるようになったようです。

武器としてのヌンチャクが有名になったのは、カンフー映画の世界的スターであり武術家の故ブルース・リーが自らの主演映画である「ドラゴンシリーズ」で使ったのがきっかけでした。

男の子なら、一度はあの有名な「アチョー」という奇声を上げながらヌンチャクを振り回す姿にあこがれ、マネをしたことがあるのではないでしょうか。

なお、別の報道によれば、今回控訴していた男性も中高生の頃にブルース・リーの影響を受けて、これまで通販で購入したり自作したりして3組のヌンチャクを所有していたようです。

科料9900円の一審判決を不服として控訴までしていたわけですから、ヌンチャクが人を傷つける器具ではないと法的に認められたことで、溜飲を下げたというところかもしれません。
ちなみに、③の「隠して携帯」とは、必ずしも自分の身につけている必要はなく、すぐにこれを使用できるような状態で自己の支配下に置いていれば違反とみなされる可能性があります。
これには、今回のように車のトランクに入れていることも含まれます。

この判決が出たといって、ヌンチャクの携行自体が許されることになったわけではありません。

ヌンチャクが「身体に重大な傷害を加えるような器具」と認定されることがあるかもしれません。

また、喧嘩や決闘に行く際にヌンチャクを携行しているような場合には、正当理由は認められないことになると思いますので、お気をつけください。

ところで、武田鉄矢さんの主演映画「刑事物語」で使われた、ハンガーヌンチャクは、人の身体に打撃を加えるものではありましたが、それ自体は、人の身体に重大な傷害を加える器具ではないので、違法とはならないでしょう。

ですから、ヌンチャクはやりたいが、どうしても捕まりたくない、という人は、ハンガーを持ち歩く、という結論になるのかもしれません。

「Don’t Think.Feel!」(燃えよドラゴン)
(ハンガーと考えるな、ヌンチャクと感じろ!)