暴言を吐くだけで犯罪!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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暴言を吐くだけで犯罪!?

2016年10月07日

公共の施設や飲食店、鉄道やバスなどの交通機関で「はた迷惑」な言動をする困った人、いますよね。

先日、ツイッターに投稿されたある動画が話題になっているという記事をネットで見ました。
乗客である女性が、バス内の通路をふさぐように立っていたり、大声でわめいたりして他の乗客が迷惑をしているが、それがもう何年も続いているというものでした。

他にも、電車の中で酒に酔って暴言を吐き周囲の乗客にからんだり、何か気に入らないことがあったのか…飲食店で暴れたり、という人に遭遇したことがあるという人はいるでしょう。

ところで、こうした厄介で迷惑な人を取り締まる法律はあるのでしょうか?

まずは、「軽犯罪法」が考えられます。

「軽犯罪法」
第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

五 公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者
軽犯罪法は、ちょっとしたはずみで人が犯してしまうような33種類の軽微な秩序違反行為について規定している法律です。

これに違反すると、拘留(受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰)もしくは科料(1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰)が科されます。

条文にあるように、軽犯罪法5号でポイントとなるのは、「公共」、「著しく粗野又は乱暴な言動」、「迷惑をかける」の3点です。

「公共」というと、通常は国や地方自治体などが所有、管理している場所や施設などを想像すると思います。
「私」や「個」に対する「公」、英語の「パブリック」のイメージでしょう。

しかし、ここでいう公共は少し意味が違います。
不特定の、かつ多数の人が自由に出入り、利用できる性質のものをいいます。

そのため、映画館などの劇場や飲食店、さらにはパチンコ店やゲームセンター、ボウリング場などの娯楽施設も当てはまります。

また、「その他公共の乗物」にはケーブルカーやロープウェイ、エレベーターやエスカレーターなども該当すると考えてよいでしょう。

次に、「著しく粗野又は乱暴な言動」について考えてみます。

「粗野」を辞書で調べてみると、「言動が下品で荒々しく、洗練されていないこと」、とあります。
「著しい」は、「程度が際立っていて目立つさま。はっきりとわかるさま。めざましい。あきらかだ。」とあります。

あきらかに下品で荒々しい言動とは…どういうものか定義するのは難しいところですが、ここでは軽犯罪法よりも刑罰の重い「刑法」と比較して考えてみましょう。

たとえば、刑法には「脅迫罪」(第222条)と「強要罪」(第223条)があります。

「刑法」
第223条(強要)
1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
第222条(脅迫)
1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
脅迫罪は、相手に危害を加えることを告げるだけで成立します。
「殺すぞ!」とか「腕をへし折るぞ!」などと相手に言った場合は脅迫罪が成立する可能性があるわけです。

一方、強要罪は、危害を加えることを告げて相手に義務のないことを行わせると成立します。
たとえば、相手を脅して土下座をさせたり、引っ越しをさせたり、辞職願を書かせたりすると逮捕される可能性があります。

詳しい解説はこちら⇒「強要罪と脅迫罪の違いとは?」
https://taniharamakoto.com/archives/2223

では、「傷害罪」や「暴行罪」はどうでしょうか?

第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
法律上の「暴行」とは、人の身体に向けた「不法な有形力の行使」と定義されます。
簡単に言うと、相手が傷害を負わなければ暴行罪、傷害を負えば傷害罪となります。

これらのことから考えると、著しく粗野又は乱暴な言動で相手に迷惑をかけるといっても、直接相手に危害を加えてしまったり、周囲の物を壊してしまえば刑法違反になる可能性があり、それより軽い行為、たとえば相手にからんだり、大声を出して周囲の人に迷惑をかけたり、相手を傷つける意思なく物を投げたりなどをすれば、軽犯罪法違反になる可能性があるということです。

ちなみに、前述のように、乗客である女性がバス内の通路をふさぐように立っていたり、大声でわめいたりすることがバス会社や運転手の業務を妨害した場合、威力業務妨害罪になる可能性もあります。

「刑法」
第234条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
前条とは、第233条(信用毀損及び業務妨害)のことで、これを犯すと、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられます。

暴力を振るわなければ大丈夫と思ったら大間違い。

他人の迷惑になるような行為は犯罪になる可能性があるので、気をつけましょう。