兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化! | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化!

2015年03月23日

交通事故において、加害者と被害者双方の「その後」に大きく関わってくるもののひとつに「保険」があります。

じつは、保険の歴史は古く、古代ローマ時代にまでさかのぼるといわれています。

日本では、明治維新の頃に欧米の保険制度を導入して、現在の保険の仕組みができたようです。
かの福澤諭吉が、著書の中で「生涯請合」(生命保険)や「火災請合」(火災保険)、「海上請合」(海上保険)の仕組みを紹介しているそうです。

ところで先日、ある県が条例で、ある保険への県民の加入の義務化を決定したようです。

全国初の試みです。

「自転車にも賠償保険義務づけ、全国初の条例化」(2015年3月18日 読売新聞)

兵庫県議会で18日、自転車の利用者に対し、歩行者らを死傷させた場合に備える損害賠償保険への加入を義務づける全国初の条例が可決・成立しました。

自転車が加害者となる事故が増加傾向にあるため、利用者の意識向上と被害者救済を目的にしているとのことです。

施行は2015年4月1日で、周知期間を設けるため義務化は10月1日から。
なお、県交通安全協会では4月1日から、年間1000~3000円の保険料で5000万~1億円が補償される保険への加入を受け付けるということです。
このブログでも以前から、自転車事故に関して解説をしてきました。

詳しい解説はこちら⇒
「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
https://taniharamakoto.com/archives/1648

⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
https://taniharamakoto.com/archives/1217

今回の兵庫県の条例成立には、2013年のある裁判の判決がきっかけのひとつになっていると思われます。

2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
女性は頭を強打し、意識不明のまま寝たきりの状態が続いていることから、家族が損害賠償を求めて提訴。
2013年、神戸地裁は少年の母親(当時40歳)に約9500万円の支払いを命じました。

判決では、少年の前方不注視が事故の原因と認定。
さらに、子供がヘルメットをかぶっていなかったことなどからも、「指導や注意が功を奏しておらず、親は監督義務を果たしていない」としました。

損害賠償金の内訳は以下の通りです。
・将来の介護費用:3940万円
・事故で得ることができなくなった逸失利益:2190万円
・ケガの後遺症に対する慰謝料:2800万円
・その他、治療費など。

この報道を知って、多くの人が驚かれたと思います。
同時に、さまざまな意見や思いを持つ人がいたでしょう。

「子供が起こした自転車の事故で9500万円とは高すぎないか?」
「被害者は意識不明の状態が続いているのだから高額賠償金は当然だ」
「なぜ親が支払わなければいけないのか?」
「うちはとても、そんな金額は払えない。自己破産だ」
「怖くなったので自転車の保険に加入しようと思う」

実は、9500万円という金額は、法律家の立場からすると、けっして高額ではない、ということは言えます。

車に轢かれようと、自転車に轢かれようと、生涯にわたって治らない後遺症が残った場合には、その補償をしてもらうのが当然です。金額に差異はありません。

事故が起きたことは不幸なことですが、この事故と裁判は示唆に富み、我々に多くの教訓を与えてくれました。

・ヘルメットをかぶらせるなど、親には子供の「監督責任」があること。
・坂道を高速で下るなど、交通規則に反する行為が重大な事故を引き起こす可能性があること。
・自転車でも、ケガを負わせたり死亡させたりすれば高額な損害賠償金を支払わなければいけないこと。
・保険に加入していなければ、万が一の事故のときに加害者側は自己破産する可能性があること。
・加害者が自己破産してしまえば、被害者は補償を得られず金銭面でも救われないこと。
ところで、今回の兵庫県の条例では、次のことが定められたようです。
・通勤・通学やレジャー、観光など、県内で自転車を運転するすべての人を対象とする。
・未成年者の場合は保護者に加入を義務化。
・営業など従業員が仕事で使用する場合は企業に加入を義務化。
・自転車の販売業には客に販売する際に保険加入の確認を義務化し、未加入の場合は加入を促進させる。
・レンタルサイクル業も販売業と同様。

ただし、無保険を取り締まるのは困難なことから、①自動車のような登録制度はない、②違反者への刑罰は設けない、としています。

実際、違反者への刑罰がないことからも、どの程度の効果があるのかは今後の状況を見守っていく必要があるでしょう。

しかし、被害者救済は重要なことですし、自転車利用者1人ひとりの意識も変わっていくだろうと思います。

自転車が歩行者を負傷させた事故は、2014年には全国で2551件あり、2001年の1・4倍に増えたという統計データもあります。

また、自転車保険の加入については、京都府や愛媛県など4都府県が条例で努力義務を定めています。

私としては、自転車にも自賠責保険を「法律で」義務づけて欲しいと思っています。

自転車事故は他人事ではありません。

各保険会社などが提供する自転車保険は以前よりも増え、補償内容も充実してきています。
また、火災保険や自動車保険、傷害保険の特約で自転車保険をつけられる場合もあります。

備えあれば患いなし。
ご自身のためにも、また子供のためにも、これからは自転車保険の検討をする必要があるでしょう。

万が一の自転車事故のご相談はこちらから
⇒「弁護士による交通事故SOS」
http://samuraiz.net/