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お店での無断充電は犯罪です。
2015年01月20日宮崎駿さんの映画初監督作品としても有名な『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年公開)。
そのラストで、銭形警部とヒロインのクラリス姫がこんな会話をします。銭形警部「くそー、一足遅かったかぁ!ルパンめ、まんまと盗みおって」
クラリス「いいえ、あの方は何も盗らなかったわ。私のために戦ってくだ
さったんです」
銭形警部「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました」
クラリス「……?」
銭形警部「あなたの心です」
クラリス「……はい!」さすがの銭形警部も、女性の心を盗んでだけではルパンを逮捕することはできないでしょう。
しかし、現実の世界では、場合によっては形のないものでも盗むと犯罪になることがあります。今回は、何気なくやったことが犯罪になるのかどうか? という質問に、法的にお答えします。
Q)先日、ある居酒屋で友人たちとお酒を飲んでいたところ、スマホの電池がなくなりかけていることに気づきました。ふと見ると、座敷の隅にコンセントを発見。単純にラッキー!と思って充電をしていたら、お店の人に見つかって怒られました。もちろん無断で充電したのは自分が悪いんですが、その店主が「警察に訴えるぞ、犯罪だ」というので、カチンときて心もモヤモヤ。なんだか納得いきません。本当に犯罪になるんですか?
A)形のない「電気」であっても、他人の物を故意に、許可なく持ち去ったり、使用すると「窃盗罪」に問われる可能性があります。
「少しの電気をもらったくらいでケチなこというな!」、「バレなければいいだろ」、「バレなければいいなら殺人や放火も許されるのか?」など、さまざまな意見があるでしょう。しかし、電気の窃盗については「刑法」で規定されています。
「刑法」
第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第245条(電気)
この章の罪(注:窃盗及び強盗の罪)については、電気は、財物とみなす。
財物とは、①有体物で形のあるもの(個体・液体・気体に加え、電気や水力、火力、空気の圧力、人工冷熱気の冷熱等の自然力利用によるエネルギーなどの無体物も含まれるとされます)、
②管理ができるもの、
③持ち運ぶことができるもの、
をいいます。
ということは、水やガス、蒸気なども無断で使用したら窃盗になりますが、管理できないもの、たとえば目に見えないけれど飛び交っているテレビやラジオ、無線LANなどの電波や、電磁波、情報等は窃盗の対象にはならないわけですね。
しかし、仮にIDやパスワードを入手して他人のパソコンやスマートフォンにアクセスすれば、「不正アクセス禁止法」違反となります。
さて実際、電気の窃盗については過去には犯罪と認められた例もあります。
〇出張中の会社員が、会社にメールを送るために名古屋駅にあった公衆電話の足元にあった清掃用のコンセントにパソコンをつないで5分間無断使用していたところ、鉄道警察隊に発見され窃盗容疑で書類送検。被害額約1円。(2004年)
〇大阪で中学生が、コンビニの外壁の看板用コンセントから携帯電話に15分間充電していたとして、窃盗容疑で書類送検。被害額約1円。(2007年)
1円!?L(゚□゚)」オーマイガッ!
会社のオフィスで、無断で充電している人はいませんか?
被害総額が1円でも、法的には犯罪となるので注意してください。ちなみに、過去の判例で窃盗と認められた財物を一部まとめてみました。
こんなものまで! というものもあります。
・選挙の投票用紙
・大学入試試験問題用紙
・使用済みの切符
・消印のある収入印紙
・ゴルフ場に転がっているロストボール
・神社境内にあった石
・禁制品(麻薬、覚醒剤等)
・養殖場の稚貝
・土地から掘り出した土砂
・自宅に入って来たので捕獲した犬
・かつら用の毛髪
・医学標本
ところで、警察庁が発表した「平成26年警察白書」によると、窃盗犯の認知件数は98万1233件。
約33秒に1件の割合で窃盗が起きていることになります。
かなりの件数です。何気なく、無断で物を持ち去ったり使用するのはいけません。
いずれにせよ、法的には、バレなきゃいいだろう、少しくらいならOK、は通用しないということは肝に銘じておきましょう。
盗んでいいのは・・・
やはり、ルパンのように、ハートだけですね!
「あなたの目は、こっそりと私の心を盗む。泥棒!泥棒!泥棒!」(モリエール・フランスの劇作家)
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会社の1億円の損害より1,000円のネコババの方が重い?
2014年12月28日社員のミスによって会社に損害が生じてしまうことはよくあることです。
もっとも、その損害が多額である場合、例えば会社に1億円の損害がでてしまったとしましょう。会社は、ミスをした社員を即刻クビ、すなわち、懲戒解雇したいと考えるでしょう。
しかし、会社に巨額の損失が生じてしまったというだけで直ちに懲戒解雇してしまうと、実は、解雇が無効(つまり、クビにできない)であるとされてしまう可能性が高いのです。
そうであるにもかかわらず、不用意に懲戒解雇してしまうと、会社は、社員が変わらずに会社に在籍していたものとして解雇がなかったのと同様の給料を支払わなければならず、解雇したことによってかえって会社が損をしてしまうということになりかねないので、注意が必要です。
有効に懲戒解雇するためには、解雇することが、社員の行為の性質・態様等に照らして社会通念上相当なものである必要があります。
そして、社員のミスによって会社に損害が生じたことを理由に懲戒解雇することが社会通念上相当なものであるかは、会社の事業の性格、規模、社員の業務の内容、労働条件、勤務態度、ミスの態様、ミスの予防若しくは損害の分散についての会社の配慮の程度といった事情を考慮して総合的に判断されます。
そもそも、社員のミスは、もともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであって、業務命令自体に内在するものとして会社がリスクを負うべきであると考えられています。
「その仕事を、その社員ができるものと判断して任せた会社の判断ミスでしょう」
と言われるのです。
したがって、会社の損害が巨額であったというだけでは、懲戒解雇することが社会通念上相当であるとされる可能性は低いでしょう。
懲戒解雇が有効となるには、社員が度重なる注意にもかかわらずミスを繰り返した結果損失が巨額となったなど、社員のミスが悪質な態様の場合に限定されるでしょう。
これに対して、会社の損害は1,000円だけであるが、社員がスーパーのレジからお金をネコババしたような場合はどうでしょうか。
横領は、企業秩序を乱すことはもとより、財務面で会社の存立を危うくさせるおそれをはらむものであり、重大な企業秩序違反です。
会社の損害は1,000円だけですが、スーパーなどの小売業は日銭で回っていますから、たとえ1,000円であっても、会社は社員を懲戒解雇することができると考えられます。
先ほどのミスが「過失」に基づくものであるのに対し、1,000円のネコババは、窃盗罪という立派な犯罪であることも違いますね。
裁判例においても、例えば、タクシーのメーターの不倒行為やバス運転手の運賃手取り行為は、会社の収入源を奪う極めて重大な企業秩序違反行為として、解雇が有効と判断されています。
このように懲戒解雇することができるかどうかは、会社の損害の金額だけでなく、さまざまな事情を考慮して判断しなくてはなりませんので、懲戒解雇するにあたっては慎重な検討が必要です。
懲戒解雇をする前には、必ず顧問弁護士に相談することをおすすめします。
みらい総合法律事務所へのご相談は、こちら。
http://roudou-sos.jp/