自動車運転死傷行為等処罰法の解説 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(2)

    「自動車運転死傷行為処罰法」の内容解説

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立し、平成26年5月までに施行され、自動二輪車や原動機付自転車の事故にも適用される。

    自動車運転死傷行為処罰法は、従前刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

    そこで、本稿では、この「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が、どのような場合に適用されるのか、について解説する。

    この法律は、わずか6条からなる。6つの条文に全ての犯罪と刑罰が記載されているのであるが、その刑罰は、最高懲役20年。決して軽くはない。

    では、自動車運転死傷行為等処罰法に規定されている犯罪を順番に解説する。

    危険運転致死傷罪

    危険運転致死傷罪は、致傷の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役とされており、過失運転致死傷罪の法廷刑よりも格段に重い処罰となっている。

    その理由は、危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者が過失ではなく、故意に危険運転行為を行ったことにある。

    つまり、通常の過失運転致死傷罪は、前方不注視や脇見運転など、過失犯であるが、危険運転致死傷罪では、次の6つの、特に危険な運転行為を故意に行ったことが必要になる。

    1. アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行
    2. 進行を制御することが困難高速度で走行
    3. 進行を制御する技能を有しないで走行
    4. 人又は車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    5. 赤色信号等を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で運転
    6. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    上記の6つのいずれかに当てはまる行為をし、その結果、事故で人を死傷した場合には、危険運転致死傷罪が成立する。

    構成要件の解説

    「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で走行」

    「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことである。

    ただ酒を飲んで良い気分になっている程度では、運転に支障はあるかもしれないが、危険運転致死傷罪は成立しない。

    「正常な運転が困難な状態」とは、飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言う。
    「アルコールの影響で正常な運転が困難」かどうかの認定方法としては、呼気検査により、呼気の中にどれだけのアルコールが検出されるか、直立検査・歩行検査でフラフラしていないかどうか、事故直後の言動でろれつが回らないようなことはないか、目が充血している等の兆候があったか、蛇行運転をしているなどの事実があったか、本人や関係者の証言により、どの程度の飲酒をしていたか、事故前後の言動はどうだったか、などを総合して認定される。

    この立証は検察側の責任なので、危険運転致死傷罪で起訴できるかどうかは、事故直後の初動捜査にかかっている。

    しっかりマニュアル化して、証拠化を進めて欲しいところである。

    「進行を制御することが困難な高速度で走行」

    「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることである。

    千葉地裁平成28年1月21日判決は、「自動車の性能や道路状況等の客観的な事実に照らし、ハンドルやブレーキの操作をわずかにミスしただけでも自動車を道路から逸脱して走行させてしまうように、自動車を的確に走行させることが一般ドライバーの感覚からみて困難と思われる速度をいい、ここでいう道路状況とは、道路の物理的な状況等をいうのであって、他の自動車や歩行者の存在を含まない」と定義している。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではない。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってくる。

    つまり、高速道路であれば100キロ以上の速度で走行しても危険運転とされることは考えにくいが、曲がりくねった細い道路で、ゆっくり走らないと危ないような道路を100キロ以上の速度で走行する場合は、進行を制御することが困難な高速度、と認定されやすくなるだろう。

    進行を制御することが困難なほどの高速度かどうかは刑事裁判において机上のみの資料で判断することは難しいであろうから、事案によっては刑事裁判においても現場の検証や再現ビデオなどでの立証が必要となると思われる。

    「進行を制御する技能を有しないで走行」

    「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドルやブレーキ等を捜査する初歩的な技能すら有しない場合が想定されている。

    この要件は、「無免許」を意味するか、というと、そういう意味ではない。

    免許の有無にかかわらず、事故当時の運転技術に着目するものである。

    その結果、無免許運転による悪質な事故に対してこの類型が適用されず、社会的な非難が高まった結果、本法律では、この類型に該当しなくても、無免許運転により事故を起こした場合には刑を重くすることとなっている。後に解説する。

    したがって、この類型の場合、たとえ、無免許であっても、普段無免許運転を繰り返しており、運転技術がある場合には、この要件には当てはまらない。

    「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    「通行を妨害する目的」というのは、「相手を停止させたり、走行させない」という意味ではない。

    逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の「安全運転を妨害」する目的を言う。

    急な割り込みに対し、相手が自車との衝突を避けるために急にハンドルをきったり、という回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものである。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言い、立法時の答弁では、20~30キロ程度出ていれば、状況によってはこの要件に当たると解釈されている。

    「赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」

    道路では、信号機などにより交通整理が行われ、円滑かつ安全な交通が確保される仕組みになっている。

    もし、赤信号を無視して交差点などに進入すると、青信号に従って交差点に進入した他車や歩行者などに重大な交通の危険を生じさせる可能性があるため、規定されたものである。

    「赤信号又はこれに相当する信号」の「これに相当する信号」とは、赤信号と同様の効力を持つ信号のことで、警察官の手信号のようなものを指す。

    「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、やはり20~30キロ程度出ていれば、要件に当たると解釈されている。

    その程度の速度でも、赤信号を無視して交差点に侵入されば、重大な事故が発生しやすいためである。

    通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転

    今回の立法で新たに追加された類型である。

    平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げしたという悪質な事故が発生し、社会の注目を集めた。

    この事故で、一方通行の逆走が、交通に重大な危険を生じさせる行為であり、危険運転致死傷罪に取り込むべきだ、という認識が浸透し、今回の追加に至ったものと思われる。

    実際、道路を自動車で進行し、あるいは歩行中に、自動車が走行してくるはずがないところから自動車が走行してくる場合には、衝突を回避するための措置をとりにくいであろう。

    「通行禁止道路」とは、道路標識もしくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものを言う。

    具体的には政令で定められるが、現段階(2013年12月)としては、自転車及び歩行者の専用道路、一方通行道路の逆走、高速道路の逆走、などが想定されている。

    通行禁止道路を走行する認識は必要はあるから、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しない。少なくとも、事故時までには、通行禁止道路であることの認識が必要となる。

    なお、速度については、やはり20~30キロ程度出ていれば、この犯罪の成立は可能と思われる。

    準危険運転致死傷罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物あるいは政令で指定する病気の影響により、その走行中に正常な運転に「支障が生じるおそれ」がある状態で、自動車を運転し、その結果、アルコール又は薬物あるいは病気の影響で「正常な運転が困難」な状態に陥り、事故で人を死傷させた場合に成立する。

    ここで、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、危険運転致死傷罪が適用されるような、「飲酒や薬物などにより、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態」とまではいかないが、飲酒などの影響で、自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力・操作能力が、相当程度低下して、危険な状態にあることをいいます。

    たとえば、飲酒の場合には、道路交通法で、酒気帯び運転罪になる程度の血中アルコール濃度があれば、正常な運転に支障がある、ということになる。

    病気の場合には、意識を喪失するような発作の前兆症状が出ている場合や、意識を喪失するような発作が予想されるのに、医師から指示された薬を飲んでいない場合などに、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあたる。

    ここで注意すべきは、政令で定める病気にかかっている人が自動車事故を起こしたときに、全てこの罪が成立するわけではない、ということである。

    たとえ政令で定める病気にかかっていたとしても、その自覚症状がなかったり、運転するのに支障が生じるおそれがないと思っているような場合(従前意識を喪失したことがなく、医師からも特に薬を処方されてなく、問題なく自動車を運転できていたような場合)には、この罪の対象にはならないだろう。

    逆に、政令で定める病気の診断を受けていなかったとしても、自分が何らかの病気のためにたびたび意識を喪失することを自覚しているなど、自らの症状がどのようなものであるかを知っていて、そのために正常な運転に支障が生じるおそれがあることを知っていれば、事故後に、事故時において政令で定める病気であったことがわかった場合、この罪が成立すると考える。
    この罪の法定刑は、怪我をさせた場合は、12年以下の懲役、死亡させた場合は15年以下の懲役である。

    政令で定める病気は、以下のとおりである。

    1. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症
    2. 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある「てんかん」(発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
    3. 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるもの)
    4. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症
    5. 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む)
    6. 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

    過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    アルコール又は薬物の影響で、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識しながら自動車を運転し、自動車事故を起こした場合に、

    事故後、アルコールまたは薬物の影響や程度が発覚するのを免れるために、

    さらに飲酒したり、薬物を摂取したりするか、

    あるいは、逃げてアルコールや薬物の濃度を減少させたりして、それらの影響の有無や程度の発覚を免れるような行為をした場合である。

    これは、いわゆる「逃げ得」問題を撲滅しよう、というために規定されたものである。

    逃げ得とは、どのような問題かというと、たとえば、酒で泥酔状態になって人身事故を起こした場合には、危険運転致死傷罪が適用されますが、ひき逃げしてしまい、翌日逮捕されたとしても、その時には体内のアルコール濃度は減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、過失運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)しか適用されず、刑が軽くなってしまう、という問題である。

    この犯罪類型を新設したことにより、その場から逃げた場合にはこの罪による最高刑12年にひき逃げの最高刑10年が併合され、最高18年の懲役刑を科すことが可能になる。
    なお、この罪の法定刑は、12年以下の懲役である。

    過失運転致死傷罪

    この罪は、従前刑法211条2項で規定されていた「自動車運転過失致死傷罪」をこの法律に移動させたものである。

    前方不注視や後方確認義務違反などの過失によって自動車事故で人に怪我をさせたり死亡させたりした場合に成立する。

    法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金である。

    無免許運転による加重

    自動車運転死傷行為処罰法で新設された新しい犯罪類型である。

    次の罪を犯した者が、事故の時に無免許だった場合に成立する。

    • 危険運転致傷罪(死亡を除く。また、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡を除くのは、すでに最高刑が規定されているためである)
    • 準危険運転致死傷罪
    • 過失運転致死傷アルコール等発覚免脱罪
    • 過失運転致死傷罪

    無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、従前は自動車運転過失致死傷罪と道路交通法違反という軽い罰則でしか、社会的批判が高まったことから規定されたものである。

    というのは、無免許で自動車を運転することは、基本的な交通ルールの無視という規範意識の低さととともにそれ自体危険な行為であるためである。

    次のように刑が重くなる。

    1. 危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)
    2. アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
      懲役15年→懲役20年(無免許)
    3. アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
      懲役12年→懲役15年(無免許)
    4. 過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
      懲役7年→懲役10年(無免許)

    以上、自動車運転死傷行為処罰法の各構成要件を解説しました。

    もし、自動車運転死傷行為処罰法の成立経緯を知りたい人は、以下も参考にしてください。

    自動車運転死傷行為等処罰法(1)についての記事は、こちら
    https://taniharamakoto.com/archives/1234

  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の弁護士解説(1)

    「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」制定までの経緯

    悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が、平成25年11月20日、参院本会議で全会一致により可決・成立した。

    平成26年5月までに施行され、オートバイや原付きバイクの事故にも適用される。

    この法律は、これまで刑法に規定されてきた、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から抜き出し、新しい類型の犯罪を加えるとともに、それら事故の際、加害者が無免許だった場合に刑を重くする、という新しい法律である。

    つまり、一言で言うと、悪質な運転による事故には、これまでよりも重い刑罰で臨む、という新法である。

    今回は、この法律のできた背景と概要について説明したい。

    危険運転致死傷罪ができるまでは、自動車による死傷事故については、業務上過失致死傷罪で一律に処罰されてきた。

    刑法211条

    業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    ところが、平成11年11月28日、東京都世田谷区の東名高速道路で、飲酒運転のトラックが、両親と3歳・1歳の2女児の3名の幼児が同乗する普通乗用自動車に追突し、3人の幼児を死亡させる事故が発生。

    また、平成12年4月に神奈川県座間市で、無免許、無車検、無保険、かつ飲酒運転で、検問から猛スピードで逃走していた建設作業員の男性が運転する自動車が歩道に突っ込み、歩道を歩いていた大学生2名を死亡させた事件が発生。

    その後、危険な運転による自動車事故に、最高5年の懲役しか科せないとは不合理であるとのことで、署名運動が行われ、平成13年10月には合計で37万4,339名の署名が集まった。

    その結果、平成13年に危険運転致死傷罪が新設され、平成17年に罰則が引き上げられるとともに、平成19年には、原動機付自転車や自動二輪車にも適用が拡大された。

    しかし、危険運転致死傷罪は、特に危険な運転行為に限って重く処罰しようという刑罰なので、その要件に該当しない悲惨な事故について不適用となり、社会の批判が高まり、自動車事故に対する重罰化の要請が高まった。

    その結果、平成19年に、新たに「自動車運転過失致死傷罪」が創設され、最高7年以下の懲役が定められた。

    刑法第211条2項

    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    ところが、その後、次のような悲惨な事故が頻発した。

    平成23年4月、栃木県鹿沼市において、てんかんの症状を有して投薬治療を受けていた加害者が、医師から運転をしないよう指導を受けていたにもかかわらず、クレーン車を運転し、運転中にてんかん発作が起きて意識を失い、歩道上の小学生らに衝突させて、6人を死亡させた事故。

    平成23年10月、愛知県名古屋市において、無免許でかつ酒気を帯び、無車検、無保険の自動車を運転していたブラジル人が、一方通行を逆走し、交差点の横断歩道上を自転車で進行していた被害者に自動車を衝突させて死亡させ、ひき逃げした事故。

    平成24年4月、京都府亀岡市において、無免許で自動車を運転し、連日の夜遊びなどによる寝不足などにより、仮睡状態に陥り、小学校に登校中の小学生らに衝突させ、3人を死亡させ、7人を負傷させた事故。

    これらの事故は、社会的に話題になり、その刑事裁判の動向が注視されたが、いずれも、当時の危険運転致死傷罪の構成要件には該当せず、全て自動車運転過失致死傷罪で起訴されることとなった。

    そこで、自動車による死傷事故に対する罰則見直しの世論が高まり、このたびの改正となった。

    この新法のポイントは、以下の4点である。

    危険運転致死傷罪の犯罪類型を1つ追加したこと

    これまで、危険運転致死傷罪の適用がなかった「通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷」させた場合に、危険運転致死傷罪の適用を認めることとした。

    危険運転致死傷罪の最高刑は、懲役20年である。

    準危険運転致死傷罪の新設

    危険運転致死傷罪には該当しないが、アルコール又は薬物あるいは一定の病気の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態(危険運転致死傷罪は「正常な運転が困難な状態」にまでなる必要がある)で、自動車を運転し、その結果、正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合を新しい犯罪類型としたこと。

    この犯罪の最高刑は、懲役15年である。

    過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の新設

    アルコール等の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して事故を起こし、飲酒等の発覚を恐れて逃げたり、さらに飲酒したり、等の行為をした場合に、「自動車運転過失致死傷罪」よりも重く処罰することとしたこと。

    この犯罪の最高刑は懲役12年である。

    無免許運転の場合の刑の加重

    危険運転致傷罪や準危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪、アルコール等影響発覚免脱罪等を犯した加害者が、事故当時無免許だった時は、その刑罰を重くしたこと。

    この無免許により加重される罪の最高刑は、

    (1)危険運転致傷罪 懲役15年→懲役20年(無免許)

    (2)アルコール等で不覚にも困難に至って事故した罪(上記3)
       懲役15年→懲役20年(無免許)

    (3)アルコール等影響発覚免脱罪(上記4)
       懲役12年→懲役15年(無免許)

    (4)過失運転致死傷罪(旧自動車運転過失致死傷罪)
       懲役7年→懲役10年(無免許)

    である。

    具体的な構成要件の内容については、細部にわたるために、本稿では省略するが、この法律の成立自体は、現実に発生した悪質かつ悲惨な事故に刑罰法規が適切に対処できなかった、という国民の批判を受けて成立したものであって、評価できる。

    問題は、実際の適用場面にあたっての運用である。

    法律は作ったものの、必要な時に適用されないのでは絵に描いた餅となるし、不明確な規定のままむやみに拡大適用されることとなれば、不意打ち的な処罰が発生することになる。

    この点については、交通事故の被害者弁護を多く扱う私としても、注視したいところである。

    続きは、こちらから
    https://taniharamakoto.com/archives/1236