あおり運転で危険運転致死傷罪適用 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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あおり運転で危険運転致死傷罪適用

2013年02月10日

危険運転致死傷罪では珍しいあおり運転で逮捕者が出ました。

被疑事実は、2012年9月、栃木県で、少年(19)が、元交際相手の少女を見かけ、その車を追いかけて「少し驚かせてやろう」と思い、あおり運転をしたところ、元交際相手の車が怖くて速度を上げ、事故を起こし、巻き込まれた女子大学生(20)が、頭を強く打ち、意識不明の重体になったとのことです。

そこで、警察署は、この少年を、危険運転致傷罪と道交法(ひき逃げ)の容疑で逮捕した、とのことです。

危険運転致死傷罪の条文は、次のようになっています。

【条文】

刑法第208条の2(危険運転致死傷罪)

アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2  人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

この条文ができた時は、危険運転致死傷罪による傷害の場合に最高10年以下の懲役、死亡の場合に最高15年以下の懲役でした。

しかし、その後の悪質な事故の多発から、刑の引き上げが論議され、平成17年(2005年)1月1日施行の改正法により、罰則が引き上げられました。

現在は、危険運転致死傷罪による傷害の場合に最高15年の懲役、死亡の場合に最高20年の懲役です。

今回は、死亡ではなく傷害なので、最高15年の懲役です。

ただし、ひき逃げがセットでついているので、危険運転致死傷罪と道交法違反(ひき逃げ)の併合罪として重くなり、最高22年6ヶ月の懲役、となります。

これまで、危険運転致死傷罪が適用されるのは、「アルコール」を飲んでの危険運転が多かったのですが、今回は、「あおり運転」で珍しいケースと言えます。

この要件を解説します。

「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度」

「通行を妨害する目的」というのは、「相手を走行させない」という意味ではなく、逆に、相手に自車との衝突を避けるための回避行為をとらせるなど、相手の安全運転を妨害する目的を言います。

相手が自車との衝突を避けるため急な回避行為をするときは、重大な事故が発生しやすいことに着目したものです。

「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、自車が相手方と衝突すると、重大な事故になりそうな速度、あるいはそのような重大な事故を回避することが困難な速度を言います。

20~30キロ程度出ていれば、状況によっては危険運転致死傷罪の要件に当たると解釈されています。

今回は、前の車を高速度であおった結果、前の車が衝突を避けるために速度を上げざるを得なくなり、安全運転が妨害された、ということですね。

現在、危険運転致死傷罪関係で、刑法改正作業が進んでいます。

適正な刑罰が科されるようになるとよいのですが。

状況を見守りたいと思います。

危険運転致死傷罪を動画で見るには、こちらです。