川口園児交通事故判決
2006年9月に、川口市で保育園児らの列に車が突っ込み、21人が死傷した事故で、死亡した園児4人の遺族が求めた民事損害賠償事件の判決が、2008年5月30日に、さいたま地裁でありました。
私は、4人の園児遺族側代理人です。
判決は、おおむね過去の判例の傾向に沿ったものでしたが、慰謝料については、従来の判例よりも高額な慰謝料を認定しました。
交通死亡事故の損害賠償は、逸失利益、慰謝料そのほか複数の項目に分かれますが、そのうちの慰謝料は、死亡した被害者の家庭での地位により、次のように基準が作成されています。
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2400万円
その他(幼児、独身、高齢者など) 2000万円~2200万円
今回の被害者は、その他(幼児)に分類され、2000万円~2200万円が認定されるのが相場ですが、それより高額の2700万円~2800万円が認定されています。
このような分類がされているのは、扶養的な要素を考慮していると言われています。
しかし、慰謝料は、「精神的な損害」です。これに対し、扶養的な要素は、経済的な観点のはずです。扶養的な要素を加味するのであれば、経済的な損害である「逸失利益」で加算するか、さらに他の損害項目を追加して加算すべきです。
慰謝料は、あくまで精神的な損害ですから、純粋に精神的な損害の大きさを尺度にすべきだと考えています。生まれて間もない幼児は、生涯が始まったばかりです。無限の可能性を秘めています。
しかし、幼児のうちに命を絶たれるということは、成長、学習、恋愛、結婚、出産などの人生の喜びを体験することができないということであり、その苦しみ、悲しみ、そして、自らの命より大切に思う子を奪われた両親の苦しみ、悲しみの大きさはどれほどのものでしょうか。
他の一家の支柱や配偶者が死亡した場合よりも精神的な損害が小さいと判断される合理的理由を見いだすことはできません。
今回の裁判では、このような判例基準の見直しを迫る意味もありました。
結果としては、家族内での最高基準である一家の支柱と同レベルの慰謝料が認められ、その意味では一定の評価はできますが、私たちが目指すところには到達していません。
今後も適正な賠償額の実現のため、努力したいと思います。
交通事故被害者のための損害賠償交渉術 (DO BOOKS)
[弁護士がきちんと教える] 交通事故 示談と慰謝料増額 (暮らしの法律 1)