ニッポン放送仮処分決定の分析
2005年02月12日
3月11日付で、ライブドアが求めたニッポン放送のフジテレビジョンに対する新株予約権の発行差止仮処分決定が出されました。結果は、5億円の担保を条件として、新株予約権の発行を差し止めるというものです。
仮処分手続では、今回の新株予約権の発行が(1)「特に有利なる条件」によるものであるかどうか、(2)「著しく不公正なる方法」によるものであるかどうか、が争点となりました。
しかし、(1)については、以前に書いた予想どおり、たいした争点とはならず、一刀両断されています。
主要な争点は、(2)の不公正発行かどうか、という点です。
新株予約権の不公正発行基準を判断した裁判所の決定は、今回が初めてだと思いますが、新株発行の不公正発行基準は、過去にいくつか判例があります。それら判例では、新株発行の主要な目的が「資金調達」であればOK、主要な目的が「経営陣の支配権維持」であればNO、という「主要目的ルール」で判断されていました。
今回も、裁判所は、まずこの「主要目的ルール」のフィルターを通しています。ニッポン放送は、新株予約権発行理由を、「企業価値の維持」と「マスコミとして担う高い公共性の確保」の2点と公表しています。公共性の確保については、ライブドアの行った立会外取引の違法性を疎明しない限り認められませんから、ここでの主要な争点は、「企業価値の維持」という目的の意味です。
ニッポン放送は、フジサンケイグループに残ることが「企業価値の維持」につながるのだという主張をしていたことから、裁判所は、今回の新株予約権の発行は、「現在のニッポン放送の役員」の支配権維持を目的とするものではないが、「フジサンケイグループに属する経営陣」による支配権の維持に他ならないではないか、という判断しました。つまり、フジサンケイグループに残ることを強調しすぎたばかりに、支配権維持目的を判断しやすくしてしまったものです。
新株予約権発行の主要な目的が「経営陣の支配権維持目的」と判断されてしまうと、原則として、不公正発行と判断されます。不公正ではないとされるためには、それでもなお発行を正当化する「特段の事情」が必要です。
今回のニッポン放送の主張は、ライブドアの支配下に入るよりもフジサンケイグループ内に残ることが「企業価値」を維持できるということですから、「特段の事情」と言えるためには、ライブドアの支配下に入ることにより、現在の企業価値が著しく毀損されることをニッポン放送側で疎明しなければなりません。
この点を疎明するため、ニッポン放送側は、ライブドアの支配下に入ったときは、フジサンケイグループからの取引を全て打ち切られる、という主張を持ち出しました。しかし、長年継続的取引をしていた取引先に対して突然取引を打ち切ることができるかどうかについては、判例もわかれているところですし、ニッポン放送がライブドアの支配下に入ったことを理由に取引を打ち切るということが経営者として合理的な判断ではないことは明らかです。確かにライブドアは、ニッポン放送を支配下におさめた後の明確なビジョンを示していませんが、だからといって企業価値が著しく毀損するとも思えません。
ライブドアが過去に他の企業の株を買い占めてすぐに高値で売り抜けるような行為をしていたり、企業を買い占めた上で企業を解体し、切り売りしたりするような行為をしていれば、今回の買い占めの目的もそのような目的であり、企業価値を著しく毀損するものだという主張も通るでしょう。しかし、ライブドアは、ニッポン放送の買収をメディア進出の足がかりと位置づけていることから、むしろ企業価値を高めることを目指していると判断されます。
このようなことから、ニッポン放送側では、ライブドアの支配下に入ったときに、企業価値が著しく毀損されるということを疎明しきれず、今回の裁判に敗れる結果となったのだと考えます。