他人の強み、自分の強み
こんな話があります。
「これからの社会で求められるのは、リーダーシップです」
大学のキャリア講座で、講師は何度も繰り返した。
「率先して意見を言える人、周囲を巻き込める人、決断できる人。そんな力が、企業では強く求められています」
リョウヘイは、前の席で真剣にうなずく学生たちを見ながら、少し気が重くなっていた。
彼は、自分の意見を言うこと、リーダーシップは大の苦手だった。
サークルでもゼミでも、必ずリーダー的な存在がいたが、リョウヘイは、それを静かに見守り、ときどき意見を整理してメモを取るくらいだった。
そう思いながら迎えた就活シーズン。
リョウヘイは、ある中堅企業のインターンシップに参加することになった。
インターンでは、5日間で実際の経営課題に対して提案を作成するグループワークが行われた。
初日、すぐにチーム内でリーダー役を名乗り出た学生がいた。
自信たっぷりで発言力もあり、他のメンバーも自然と従う形になった。
リョウヘイは、まず他の人の話をじっくり聴いてメモをとった。やはり、発言するのは気が引けた。
3日目、議論が堂々巡りになっていたので、それまで一言も喋らなかったリョウヘイが勇気を振り絞って整理して出した一言がチームの方向性を決定づけた。
「今の話を一度整理すると、私たちが本当に解決したいのは“顧客満足度”じゃなくて、
“顧客との継続的な関係性”ですよね。なら、提案の軸も変えるべきだと思います」
それを聞いたリーダー役の学生が、ぽんと手を打った。
「それだ。やっと見えた気がする!」
最終日、チームのプレゼンは見事にまとまり、参加企業の中でも高く評価された。
終了後、リョウヘイはひとり帰ろうとしていたとき、声をかけられた。
インターンを担当していた人事部の社員だった。
「君、リョウヘイくんだよね?
実は、チームの中で一番印象に残ってるのが君だった」
「君のように、人の話をよく聴き、要点を整理し、チーム全体の流れを整えられる人材は、うちの会社にとってものすごく貴重なんだ」
そして彼は、こう続けた。
「うちの選考にぜひ来てほしい。現場のマネージャーにも紹介したい人材だと思ったよ」
数か月後、リョウヘイはその企業から内定をもらった。
人と競い合うのではなく、人の力を引き出す力。
誰かの意見を形にし、場を落ち着かせ、着実に進めていく力、実は、目立たないけれど、それも評価されるリーダーシップの一つの形だった。
今、リョウヘイは胸を張って言える。
「自分にも、社会に必要とされる“強み”があった」
それは他人と比べることで見つかるものではなく、
自分の中にある“静かな力”に気づいたときに、ようやく見えてくるものだった。
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社会に出ると、自分の物差しで他人の評価をする人が増えてきます。
「リーダーシップがないやつはダメだ」
「会議でどんどん意見を言えないようじゃダメだ」
「他人の話なんか聞いているようじゃだめだ。自分で決めてどんどんやるんだよ」
しかし、人の強みはそれぞれです。
「リーダーを支えられるようじゃなきゃダメだ」
「会議で他人の意見を聞けないようじゃダメだ」
「自分の狭い世界でばかり考えず、他人に教えを乞うて学ばないようじゃダメだ」
とも言えるわけです。
他人は他人、自分は自分です。
自分だけの強みを見つけましょう。
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