関税のアンカリング効果 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。

関税のアンカリング効果

2025年04月28日

認知バイアスの一つに、「アンカリング効果」
というものがあります。

これは、意思決定を行う際に、最初に提示された
特定の情報(数値、意見、印象など)が「錨(アンカー)」
のように基準点となり、その後の判断がそのアンカーに
強く影響され、引きずられてしまう認知バイアスのことです。

このアンカリング効果は、交渉人にとっては馴染の
深いものであり、弁護士を含め、多くの交渉人がこれを利用します。

たとえば、損害賠償請求をする場合、適正金額が
1億円だったとしても、2億円、3億円を請求するような方法です。

そうすると、この最初に提示する2億円、3億円が
アンカーとなり、その後の交渉がこのアンカーに
引きずられやすい、ということになります。

海外の土産物屋で値下げ交渉をする場合も同様です。

値札の値段がアンカーです。

値下げ交渉をするにしても、なんとなく、この値札の
値段を意識してしまい、無意識に交渉がこの値段に
引きずられることになります。

その値段が適当につけたものであっても、です。

最近の例で、トランプ関税は、どうでしょうか。

多くの国に関税を課し、日本には24%の関税を課すと表明しました。

日本はパニックになり、

「なんとか日本は例外にできないか」
「関税を低くできないか」

などという議論がなされました。もしかしたら、
そのような方向で交渉しているかもしれません。

しかし、この24%の関税は、アンカーに過ぎません。

トランプ大統領は、アメリカの貿易収支の正常化や
アメリカの製造業の復活等を掲げており、その手段と
して関税をアンカーとして打ち込んでいるに過ぎません。

日本としては、「関税を低くする」などとアンカーに
引きずられず、アメリカの貿易収支を改善や製造業復活の
ための「他の方法」を提案したり、それらに貢献する
ことの「見返り」を求めたり、というのが本来の
交渉態度になるものと考えています。

あるいは、トランプ大統領が喜ぶであろうアメリカの
「他のメリット」を満たす提案をして、ディールする、
ということも検討すべきでしょう。

なお、トランプ大統領は、中国に対し、アンカーとして、
145%の関税を発表しましたが、中国は、この関税が
アンカーとして作用しないよう、報復措置として
125%の対アメリカ関税を発表しました。

この方法がベストかどうかは別として、
アンカリング効果を減殺する一つの方法となります。

ぜひメルマガに登録を。
https://www.mag2.com/m/0000143169