地蔵契約に要注意。 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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地蔵契約に要注意。

2018年06月30日

今回は、お地蔵さんと契約書のお話をします。

といっても昔話ではありません、法律に関するお話です。

【事件の概要】
「“悪霊たたり”と祈りや地蔵契約、被害数千万か」(2018年6月28日 読売新聞)

岩手県警は、「悪霊のたたりがある」と電話の勧誘で不安をあおり、おはらいなどの契約を必要書類を渡さずに結んだとして、首都圏に住む20~50歳代の男女11人を特定商取引法違反(書面不交付)の疑いで逮捕しました。

事件が起きたのは、今年(2018年)3月初旬頃。
暴力団関係者を含む男女11人は共謀して、東京都内の事務所から近畿地方の60歳代の無職女性に電話をかけ、数十万円でおはらいや地蔵の建設などをするよう持ちかけたということです。

岩手県警は2017年12月、岩手県南部の女性から「電話でお祈りを持ちかけられて金を払ったが、不安になった」と相談を受けたことで捜査を開始。

捜査線上に浮かんできた男女11人は、内容を示した書面を渡さずに契約を結び、代金を郵送などで送らせておきながら地蔵は立てていなかったことから同容疑で逮捕し、さらに詐欺容疑も視野に捜査をしているとしています。

被害者は全国に50人以上で、容疑者らは1件あたり数十万~数百万円の契約を持ちかけており、被害額は数千万円以上に上る見込みで、同県警は被害状況や集めた金の流れを含め霊感商法の実態を調べているということです。

それだけ地蔵を建てたい人がいるということでしょうが、庭に地蔵がいたら、怖い気もします。

【特定商取引法とは?】
先祖の悪因縁(カルマ)や悪霊のたたりがあると言って相手を不安にさせて、つぼや数珠、水晶などの商品を高額で売りつけたり、除霊と称してインチキな祈祷をするという、いわゆる霊感商法が問題になったのは1970年代後半でした。

霊感商法への苦情や相談が、日本各地の国民生活センターや消費生活センターに相次いで寄せられたことから表面化し、1980年代には国会でもたびたび取り上げられたことで社会問題となったものです。

人の弱みにつけ込む悪徳な手口ですが、今回の事件では特定商取引法が適用されています。

まずは条文を見てみましょう。

「特定商取引に関する法律」
第4条(訪問販売における書面の交付)
販売業者又は役務提供事業者は、営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたとき又は営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。ただし、その申込みを受けた際その売買契約又は役務提供契約を締結した場合においては、この限りでない。(以下省略)

これに違反した場合は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。(第71条)

特定商取引法は、1976(昭和51)年に施行された法律で、正式名称を「特定商取引に関する法律」といいます。

この法律の目的は、訪問販売など業者と消費者間でトラブルが生じやすい取引について、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることです。
勧誘行為の規制など事業者が守るべきルールと同時に、クーリングオフなどの消費者を守るルールなどについても定めています。

【特定商取引の形態】
この法律で特定商取引として定義しているのは次のものです。

・訪問販売(キャッチセールスやアポイントセールスを含む)
・通信販売
・電話勧誘販売
・連鎖販売取引(いわゆる、マルチ商法やネットワークビジネス等)
・特定継続的役務提供(エステサロン、語学教室、学習塾、家庭教師、パソコン教室、結婚情報等)
・業務提供誘引販売取引
・訪問購入(貴金属や着物など不用品の訪問買い取り等)

【特定商取引の行政規制】
特定商取引法では、事業者に対して次のような規制を行なっています。

・氏名等の明示の義務付け
勧誘開始前に、事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げるように義務付けています。

・不当な勧誘行為の禁止
価格や支払い条件等についての不実告知(虚偽の説明)、故意に告知しないこと、相手を威迫、困惑させる勧誘行為などを禁止しています。

・広告規制
広告をする際、重要事項の表示を義務付け、また虚偽や誇大な広告を禁止しています。

・書面交付義務
契約締結時に重要事項を記載した書面を交付することを義務付けています。

また、事業者と消費者間のトラブル防止、消費者救済のために次のことが認められています。

・消費者による契約の解除(クーリング・オフ)
・消費者が誤認し、契約の申し込みや承諾の意思表示をした場合の取り消し
・消費者が中途解約する際などに事業者が請求できる損害賠償額の上限の設定

今回は、このうち、契約締結時に重要事項を記載した書面を交付する義務を怠った、ということでしょう。

地蔵に関する重要事項を読んでみたいところです。

【契約書の重要性】
法的には、法人を含む人と人の間で権利義務を発生させる合意を「契約」といいます。

当事者間で意思表示の合致があれば、契約の内容は自由に決めることができますし、じつは契約書がなくても契約は成立します。
これを「契約自由の原則」といいます。

つまり、契約というのは「口約束」でも成立するわけですが、これはとても危険です。
トラブルにまで発展すれば、大抵の場合「言った」、「言わない」、「そんな契約はした覚えはない」、「話が違う」といった争いになってしまうからです。

そうしたトラブルや紛争を未然に防ぐためにも、契約書は作成するべきです。
また、仮に裁判になった場合は、契約書や覚書、合意書などの書面が重要な証拠になります。

なお、契約に関してトラブルになった場合は弁護士などの法律の専門家に相談することをお勧めします。

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